ソウルの春のレビュー・感想・評価
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権力への執着
1980年の朴大統領暗殺後に起こった、金大中氏等の野党政治家の復権、軍の文民統制強化といった民主化の動き(ソウルの春)を一気に潰した「粛軍クーデター」の初めての映画化作品。独裁者の座を維持でも狙う保安司令官チョン・ドゥグァン(全斗煥)と、正論で彼に立ちはだかる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)との対決に息をのみますが、作品としては全斗煥を演じたファン・ジョンミンの怪演が光っていたと思います。
上司の不当逮捕で周囲を巻き込んだ後、首相への事後決裁の強要、逮捕直前での逃亡、司令官の命令に反する警備団・旅団のクーデター引き込み、軍首脳部との偽りの紳士協定の破棄、更には米軍司令官の指揮下にある前線の第9師団の私的出動と、組織も正義も無視した予想外の奇策で自己保身のために暴走するファン・ジョンミン全斗煥は、所々でジョーカーが乗り移ったかのような鮮やかさ。結論を知っているのに手に汗握りながら観てしまいました。
これに対して主観的には首都警備司令官に感情移入しながら観ていてる中、最後に後方要員まで含めた100人ほどで、精鋭部隊に攻撃を仕掛けるシーンは、少し「痛さ」も感じてしまいます。(このシーンは、実際には部下に止められ出撃していないようです。)
因みに「粛軍クーデター」までの経過が「2・26事件」と結構似ているなと思いながら観ていましたが(下記【】を参照してください)、日本では、生真面目な青年将校(尉官)が中心で、あんな怪物が出てこなかったことが不幸中の幸いでしょうか。(こちらでは正論として、情勢が有利と言えない中での、昭和天皇の鎮圧の決断が光ります。)
結果的に、「光州事件」まで暴走を続けた全斗煥大統領は、本作で第9師団長を務めていた盧泰愚次期大統領の下で訴追されることになりますが、そんな彼の栄光と転落を、名優ファン・ジョンミンの演技で痛いほどに予見させてくれる本作。日本では地味な事件がらも、人間の権力への執着の恐ろしさを教えてくれる、歴史大作だと思います。
【2・26事件との類似点】
両事件とも国のトップ(朴大統領、犬養首相)の暗殺により、後ろ盾を失った精鋭野戦軍の将校を中核とする軍内派閥(ハナ会、皇道派)が、新しいトップ及び軍内の官僚エリート(参謀総長、陸軍大臣)により、首都圏から排斥されそうになり、これを直接の引き金としてクーデターを起こしている点で類似しています。
韓国の近代史
ほとんど予備知識無しで見た為、最後までどうなるのだろうとドキドキでした。
韓国の近代史について不勉強だったので、学びとなりました。
隣国と戦時下ある国は軍部が強くなるのでしょうか?
1993年に金泳三大統領が当選するまで、軍出身者の政権が続いたとは知らなかったです。
クーデター首謀者2人とも大統領になりましたが、後日クーデターの罪を追求されました。
63才の私には最近ですね。
ほんと勉強となりました。
映画としては白黒分かりやすく、例によってダメダメ上層部がいて、韓国映画ぽい演出満点でした。
LOSER
韓国で実際に起こったクーデターを基に作られた作品で、韓国映画はこういうジャンルを手掛けるのがうまいなと改めて思いました。
時系列的には「KCIA 南山の部長たち」の後の出来事らしいので違う作品でもこうして繋がるのはちょっと面白かったです。
チャン・ドゥグァン(のちの韓国大統領)があの手この手を使ってクーデターを企てるのをイ・テシン将軍が阻止しようと奮起する情報戦がメインです。
ドゥグァンは頭が良いというよりかは、手段を問わない脳筋寄りに見えて、結構失敗しそうなものでさえもアイデアでゴリ押すという型にハマらないタイプでとっても厄介そうでした。
対立していない陣営をどうやって自分たちの味方に取り込めるかの攻防はとても見応えがあり、うまいこと行っていたのに権力に叩き潰され、成功目前まで行ったのに味方が足を引っ張ったりと思った通りに行かずにモヤモヤさせられるのも当時を体験しているかのようでした。
立場によって抱える責任に葛藤するものもいれば、自分の立場に甘えた判断を下すものもおり、緊迫した状況で人間がどんな行動を取るのかというのが事細かく描かれていて面白かったです。
かつての友人を任務とはいえ殺してしまったり、判断は間違っていないのに締められてしまったりととにかく無念無念の連続でした。
結末こそ見えていたのに、テシン側の勝利を願っていましたし、そこが叶わないとポキっと折れてしまった瞬間は中々に絶望ものでした。
バリケードをくぐっていくけれどドゥグァンには全く歯が立たず、テジン側は高みの見物。
そこから勝利を確信したテジンの高笑いにはとてつもない狂気が宿っておりゾクゾクさせられました。
その後の写真でクーデターの首謀者たちは全員国に関わる役職についており、長らく国を支配する事になったというのが現実の話なんですから戦々恐々としてしまいました。
エンドロールも仰々しい曲なので観終わった後に全くスッキリできないのも新鮮な体験でした。
胸糞と言われていた割にはまだマシかなとは思いましたが、現実でこれがあったとなると相当にキツいよなと底知れない罪悪感にも襲われました。
韓国の歴史を知れば知るほど今作の良さが分かるんだろうなとは思いました。
大々的な人間ドラマで盛り上がりを作る訳ではなく、最小限の脚色でリアルを魅せる作りが凄かったです。
こういうタイプの作品を見るたびに毎回思ってるのでいい加減書籍の一つや二つくらい触れるべきだろうと自分にメスを刺しておきます。
鑑賞日 9/12
鑑賞時間 12:05〜14:40
座席 C-4
すごかった
全斗煥大統領の記憶があるので軍事テロの側が勝つと薄々予想しながらもそれでもやっぱりあんな嫌な男に負けて欲しくないと思っていたら、やっぱりクーデターがまんまと成功してしまいがっかりする。韓国の人たちあの時代嫌だったろうな。きっちり政権交代が行われる民主選挙が行われるようになって本当によかった。それに比べて日本は民主選挙が行われているはずなのに滅多に政権交代が起こらず腐敗は軍事政権レベルにひどい。今現在、小泉進次郎が80歳まで人々を働かせて年金を渡さないようにしようとしている。ますますひどくなる一方でそれでも人々は自民党に投票し続けるのでどうしようもない。
自国の黒歴史にきっちりとフォーカスしてこのようなすごい映画を作る韓国、すごい。それにしても戦力では圧倒的な正規軍が事なかれ主義でまんまと足元をすくわれる。そもそも全斗煥は地方への異動や降格が嫌だっただけなのにまさかの大統領にまで出世する大逆転のフィーバーぶりでさぞドーパミンがドバドバ出たことだろう。ハゲ散らかしてるし、下衆っぷりが素晴らしかった。
「正義は必ず勝つ」と限らないのが歴史。 だから後世の人は歴史から学ばねば。
映画冒頭でフィクションと断ってはいるが、ほぼ史実に沿った作品(ただし、登場人物の名前は概ね変更されている)。
朴大統領暗殺事件を契機に軍内部の権力掌握(粛軍クーデター)を企てる国軍保安司令官と新任の首都警備司令官の対立を軸に物語は推移する。
保安司令官の肩書のまま、大統領暗殺事件の合同捜査本部長を兼任するチョン・ドゥグァン(モデルは全斗煥=チョン・ドゥファン第12代大統領)。
全斗煥が韓国大統領に就任した当時、クーデターに言及して批判した日本のメディアはなかったように記憶している(日本に融和的な姿勢だったことも起因しているが、そもそも韓国に関する報道量が少なかったと思う)。
だから、のちの民主政権下でクーデターや光州事件の責任を問われ、盟友で後任の大統領盧泰愚(ノ・テウ。作品ではノ・テグン)共々、裁判に掛けられた際には、衝撃的に報道されていたのを憶えている。
映画では、立場を悪用して政敵を粛正し、人事にも口を挟んだ彼を上司の参謀総長が厳しく叱責したことからドゥグァンはクーデターの決意を固めるが、史実では、全斗煥が主導する軍部内の私的結社ハナ会(諸資料で秘密組織とされているが、全然秘密になっていない)を危険視した当時の参謀総長・鄭昇和(チョン・スンファ。作品ではサンホ)が朴政権の終焉を機に組織の解体を目論んだことから事件の萌芽は生じている。
参謀総長の肝いりで首都警備司令官に着任するイ・テシンのモデル張泰玩(チャン・テワン)は作品同様、ハナ会と無関係の人物だった。
計画どおり参謀総長の拉致に成功するものの、その際の銃撃戦で国防長官の確保にしくじり、大統領の裁可も得られないなど(いずれも史実)、映画での粛軍派は何度も頓挫しそうになる。しかし、実際は全斗煥の組織力、特にハナ会の強固な連帯で、粛軍は盤石だったと言っていい。
作中では、粛軍派の鎮圧を強硬に主張するイ・テシンを悲劇のヒーローとして扱っているが、彼のモデル張泰玩も軍事独裁的な朴政権を支えた軍人だったことも念頭に置くべき。
結局、ソウルの春は凍てつく冬なしには迎えられなかったのだと思う。
中盤以降のテンポの速さで粛軍派、鎮圧派に別れる各部隊の特色が摑めなかったのが難点だが、スリリングな展開は142分の長丁場を忘れてのめり込ませてくれる。
予習をしてから観た方がいい気もするが、予備知識なしに衝撃のラストを迎えるのも、また一興(この映画観て後味悪いと感じる人は、『無防備都市』や『自転車泥棒』もしんどいと思う)。
反対勢力を追い落としていく、まったく共感できないが信念を曲げずに突き進むドゥグァン役を毒々しいまでの圧倒的な個性で演じたのは、名優ファン・ジョンミン。
3~4時間かけたメイクでドゥグァンのモデル全斗煥になり切った彼の熱演抜きに、本作の高評価はあり得なかったと思う。
作品は、粛軍指導者らの因果応報的な顛末に触れることなく、物語に幕を降ろす。
ただし、ラストシーンの記念撮影で、ドゥグァンが隣に座るテグンの手を握りしめる場面は暗示的で強烈に印象に残る。
バッドエンドな作品だが、韓国の人たちはこのシーンの意味を理解している筈だし、日本人でも気付いた人は結構いるかも。
鑑賞したイオンシネマ桂川の座席案内のモニターは出入口の表示がなく、通路の表示も曖昧で不親切。
この場を借りて改善をお願いします。
鮮烈のバッドエンド!!見応えたっぷり トイレでの高笑い
何の予習もなく見ました。最後は正義が勝つものに慣れてしまっている自分にとって、アレレ?負けちゃう、えっーーという展開になり強烈に響いた。
後から1212事件について勉強し全大統領の事と知り感慨深いものとなりました。
それにしても圧巻の演技で魅了されました、クーデターが成功し宴が開かれている会場に戻っても浮かれることなくすましたまま、一人トイレに入り込み上げてきた感情を抑えきれず出た「高笑い」!これできる俳優日本にいるのかな?(いるんでしょうけど)と思うくらいの名演技、名シーンです。
もう二回くらいみたい作品
つかの間の春 第五共和国への道
ひとりは権力に魅了され、それを奪い取るために自らの力を行使した。ひとりは国を守るためにその力を行使し、立ち向かおうとした。
1979年韓国で起きた粛軍クーデター、本作はその攻防の一夜を緊迫感ある演出でスリリングに描いたサスペンスドラマの秀作である。
青天の霹靂ともいえる朴正煕大統領の暗殺で空いた権力の空白。朴の寵愛を受け、朴に次ぐヨンナム軍閥のトップツーにまで登り詰めていたチョンがその後を引き継ぐのは必然だったのか。
朴正煕の5.16軍事クーデター成功を称賛する軍事パレードを主催したチョンはそれを皮切りに軍内部に朴の親衛グループである私的組織ハナフェを結成した。朴政権下ではもはや軍内部にはハナフェの人脈が腫瘍のように張り巡らされており、クーデターを阻止しようと奮闘したイ・テシンの敗北はその時点で既に決まっていたのかもしれない。彼はチョンではなくハナフェという朴正煕の亡霊と闘っていたのか。
18年もの独裁体制を敷いた朴の死後、政治活動を禁じられていた金泳三や金大中などの野党政治家が解放され、国民は民主化への希望を抱いた。しかし建国していまだ30年余り、民主化に至るには国はまだまだ未熟であった。時期尚早、それを誰よりも知っていたのがチョンだったのかもしれない。そのすきをついての政権奪取。国民の期待はもろくも崩れ去り、つかの間の春は終わりを告げる。
朴の死は単に独裁者が入れ替わるという以外なにものでもなかった。それどころか、チョンは韓国史上最悪の光州事件を引き起こし、いまだ韓国史上最悪の大統領として人々の記憶に残る存在であった。
朴正煕もクーデターにより政権を奪取し独裁体制を敷きはしたが、反面「漢江の奇跡」と呼ばれる経済的躍進を遂げ、国に大きく貢献した。彼の行った開発独裁により貧富の差は大きくなったが、この経済発展により長きにわたる植民地支配に甘んじてきた韓国国民に自信を植え付けたのは紛れもない事実であり、また韓国大統領の十八番ともいえるネポティズムや不正蓄財も行わなかったことでいまだ彼への国民の評価は高い。対してチョンはその真逆であった。そして粛軍クーデターや光州事件の責任を問われ、晩年をひっそり暮らし、没後は大統領経験者ながら国葬に付されることもなかった。
そんな悪の象徴ともいえる全斗煥を演じたファン・ジョンミン。前回も監督と組んだ「アシュラ」でも見事なヒールぶりだったが、今回は実在の歴史上の人物を演じるというだけに苦労もひとしおだっただろう。
すべての決着がついた朝焼けの中、トイレで一人不敵な高笑いをする姿はまさにダークヒーローのジョーカーを彷彿とさせた。
劇中二転三転するシーソーゲームのようなスリリングな展開が繰り広げられるため、また登場人物の名前も実在の人物とは変えてありフィクションということで結末は史実とは異なるのではと思うくらい先が読めなくなった。それくらいスクリーンに引き付けられたがやはり結末は史実通り。イ・テシンの必死の攻防もむなしく、国を守ろうとした彼の思いは人々の民主化への思いとともにもろくも崩れ去るのだった。
日本で軍事クーデターといえば思い浮かぶのは2・26事件。朴正煕は当時十九歳で地元でその事件を知り彼の脳裏に刻み込まれたという。
思えば人事が引き金となりクーデターに発展した点は粛軍クーデターと同じである。当時日本陸軍内で緊張関係にあった皇道派と統制派。その緊張の糸が切れたのは統制派幹部による左遷人事に怒った相沢中佐が永田鉄山を惨殺したのがきっかけだった。その後将校や下士官を巻き込んで1500人規模に膨らんだ兵士たちによるクーデターに発展。クーデター自体は未遂に終わるも、5・15事件から続く軍部によるテロ行為に当時の政府や天皇が畏怖したのは間違いなく、2・26以降統制派の東条英機の軍部での台頭も見られ、次第に軍による実質的な政権支配が現実のものとなる。
何よりそれ以前に起きた満州事変への国民の支持も大きかった。そして軍部による独断専行により日中戦争突入、もはや他国との駆け引き、外交を重視すべしという外交担当の助言も聞き入れられず太平洋戦争へと突入していく。
2・26事件はそれ自体は未遂ながら、軍部による政権の実質的奪取という意味では一連の流れを通して畏怖される軍部の存在感を増大させたおかげでクーデターは成功していたといえるかもしれない。
韓国の粛軍クーデターにしろ、日本にしろ、シビリアンコントロールが効かない軍部による独裁が何をもたらしてきたかは歴史が証明している。
本作は史実通りバッドエンドで終わるが、本作鑑賞後に「タクシー運転手」と「1987ある闘いの記録」を鑑賞すれば第五共和国とハナフェの終焉を見ることができ、落ち込んだ気分が浄化されるだろう。
このような作品が国内興行ランキング一位とはお隣の国の歴史や政治への関心度の高さがうかがえる。ちなみにこの年の日本のランキング一位は「スラムダンク」。あれもいい映画だった。日本って平和だなあ。
碁盤の目の様に変わっていく首都攻防戦
韓国軍事政権下で起きた大統領暗殺事件。
民主化の期待高まる中で起きた軍事クーデターを事実にフィクションを交えての映画化の超大作。
大統領暗殺事件の捜査本部長チョン・ドゥグァン(実際は全斗煥)少将はこれを機に軍の実権を握ることを画策。
それを察知した参謀総長は清廉な軍人のイ・テシン少将を首都防衛司令官に据えて対抗する。
1980年12月12日の9時間に渡るソウルでの攻防がめちゃスリリングに描かれる。進軍しては退却しまた進軍させられる第二空挺旅団。まさか北朝鮮国境を守る第九師団までソウルに進軍させるとは汚すぎるチョン・ドゥグァン(ファン・ジョンミンの怪演!)
でも負ければ反逆罪で処刑なのだから、仕掛けた以上はなんとしてでも勝とうとするよね。
イ・テシンがソウルを守る軍人としての本分を貫こうにも張り巡らされたハナ会の謀略、上の連中の日和見にどんどん追い込まれてくのが辛い。
(最後、ぶっ放してやれば勝ちだったのにね!ソウルを火の海にして)
ここから軍事独裁政権、光州事件と負の現代史が続いて中での悪の一歩だと思うと暗澹とした気持ちになるが、これが韓国でメガヒットというのはすごい話。
見逃すことは出来ないポリティカル軍事・サスペンス。
シミュレーションとして興味深い
1979年、全斗煥少将が韓国政治の実権を握った粛軍クーデターを描く。実話を基にしたフィクションと断られており、人名は微妙に変えられているが、全斗煥役も盧泰愚役も本人によく似ている。鑑賞後にWikipedia(日本語版)で事件の記事を読んだら、この映画のあらすじかと思うほど事態の推移が類似していて驚いた。
映画は全編ほぼ軍人しかでてこない。陸軍トップの参謀総長が朴大統領暗殺後の軍内で影響力を強めていた政治結社ハナ会を排除しようとしたことが、チョン少将らの(朴の遺訓にならって「革命」と称する)決起を誘発する。彼ら反乱派が参謀総長を逮捕しソウルの陸軍本部を掌握しようとするのに対し、参謀総長の命を受け首都防衛を担当していたイ少将が必死に抵抗する。
尺は長いが、史実のエピを網羅するためかドラマは薄め。チョンの方はハナ会のメンバーを鼓舞したり、賛同した先輩将軍たちが日和見で苛立つなど感情の起伏も描かれるが、イは(もう一人の主人公にしては)人物像が伝わらない。ドラマとしてより戦略シミュレーションとして見るのが合っているかも。
軍隊の構造、特に部隊と指揮官の階級の関係を知っていると分かりやすい(常に階級章が映っているのは便利)。基本は星が多い方が権限があるが、参謀総長など本部勤務者やチョン少将(朴暗殺事件を捜査する保安司令官)は配下に直属の戦闘部隊を持っていない。
一方、ソウルからほど近い最前線には、精鋭部隊が多く配置されている、直接の指揮系統にない彼らを説得、動員していち早く首都に入城させることが勝利への鍵となる(とは言えこれらの部隊を前線から下げれば北が侵攻しても止められないというジレンマがある)。
また、昔から変わらず、漢江を越えられるかがソウル防衛の分け目ということがとてもよく分かる。
最後に個人的印象だが、当然ながら軍隊とは命令一下の組織なのだなと。革命の大義への賛否を考えるのは指揮官の役割で、数千人の兵士は意思を問われもせず命令でどこへでも行く。なぜ同じ橋を何度も行き来するのか。なぜ同じ制服の相手に発砲するのか。個々の軍人に想いはあっても、それが行動を変えることは(普通は)ない。国家の任務ならともかく、反乱状況でもそうだとしたら、なかなか怖い話ではある。
韓国現代史
韓国映画の底力。
またすごいものを見てしまった感があります。
個人的に韓国の歴史には疎いのですが、チョン・ドヴァン(かつてはチョン・ドファンと習った気がする)の名前とその立場は聞いたことがあるので、最終的な勝者が本当にこっちなの・・・?と言う意味でもハラハラしながら観ました。
他の登場人物は知らないし、軍の役職や階級などにも詳しくないため、細かいことまでは理解できていない気もします。登場人物がとにかく多い上に、顔も似ていたりして見分けがつかなかったりもします。それでも十分にこの重厚なクーデターの一部始終を味わえて、胸糞悪い気持ちも混ざった複雑な感情と共に映画館を出ました。クーデターものとしては日本では「日本の一番長い日」なども観ましたが、こういった題材をエンタテインメントにまで昇華する手腕は韓国が一枚上手だなあと言う印象です(上記作品の場合は日本の場合はエンタテインメントにしづらいと言うこともあるのかもしれませんが)。
観終わってチョン・ドヴァンについて調べると、光州事件なども関係しており、これまで観た「タクシー運転手」「1987、ある戦いの真実」など一連の民主化運動を題材にした映画の大元となる作品であることがわかり、大変勉強になった次第です。
正義の側(独裁を阻止しようとする側、民主化を求める側)は常に勝ってほしい。
史実を知らなかったので、最後には軍事クーデターを企てる側が負けて民主化されるとばかり思ったいたのでホントに驚いた。
観賞後、モデルが全斗カン元大統領とノテウ元大統領だったことを知った。
1980年の光洲事件は知っていたが、それもここ2、3年の韓国映画を見たからで、知ったのはつい最近の事だ。
政府権力側にも独裁を阻止しようという人物がいても、現実は今回のように独裁を目論む側が勝ってしまうことも在るのだなと改めて気付かされた。
この映画で描かれる当時の韓国に限らず、軍事力、警察力を掌握してる側が独裁政権を目指せば武力を持たない国民などはチョロいもんだと思った。
現実は悪の側が勝つことが思ってるより多いのかもしれない。
これは、商業映画としてありか?
歴史を知っていたとしても、商業映画でこの終わり方はありなのか?呆然としました。おもしろかったし、意外に他の方は満足気なのでこれでいいのか。救いのないラストはどうなんでしょう。(ファン ジョンミンの演技も薄口だったしなぁ)
この映画が1979年。光州事件等があり、本格的な民主主義と言えるのがノ ムヒョン大統領の2003年までかかったという事を考えると戦慄を覚える。
いつも思うのだが、このような素晴らしい作品を作れる国が、世界で嫌われているらしいというのが不思議でならない。映画などで見せる人間性や、優しさはフィクションだとわかって見ている大人の国民性なのか??本当に不思議な国だと思いました。
事実は勧善懲悪ならず、、、「ソウルの春(の終わり)」の一夜物語
鑑賞中、終始緊迫していた。カメラワークも役者たちの立ち回りもすごい迫力。
ソウルには行ったことないけど、友人からは「カフェがおしゃれで座ってぼーっとしているだけでも楽しい街」とも聞いていた。その落差に呆然。こんな一夜の歴史があったのか。70年代という近過去に。韓国の歴代大統領はことごとく不栄誉な最期を迎えている印象がある。しかし逆の立場であるイ・テシンの不名誉さというか悔しさは憤死モノだと思っていたらプログラムには「父親は憤死、ソウル大学の息子は自殺」と書かれていた。ラストクライマックスシーンの突撃(なんでだかいつの間にか反乱軍に警護する側が突撃する羽目に、、、)の際、奥さん気遣いのマフラーが彼のうなじに巻かれていた。
自国に軍を持つと言うことは、その刃が自国に向く可能性もあると言うのは考えてみれば当たり前のことだ。「成功すれば革命、失敗すれば反逆罪」。他人事でも過去の出来事でもない。
タイトルは終わりだった
隣国の文化についてここ数年昭和の感覚を修正しながら生きているオヤジです。で、映画について、日本に来るのは選り優りなのかも知れず、そのうち高評価のものだけを見てるからか、毎回完成度に感心する。自国の前政権を現政権が完全否定する環境半ながら、事件を客観的に適度にエンタメ化している。物語への家族の介入を最小限に抑えたところも良かった。名前が変えてあったので後半まで気づかなかったが、あいつらは全斗煥と盧泰愚のことだったのね。
そしてタイトル「ソウルの春」が、春が来るのではなく春が終わると言う結末には、史実だから気づいているべきなのだろうが、素直に驚かされた。
権力に群がる人々
1979年韓国大統領暗殺後のクーデター。
権力に群がる人々の醜さと自国を守ろうと
する人々の気高さが秀逸に描き
国の暗闇を真正面から作り上げている。
『人間は強い者に導かれたいと願っている』
残酷な言葉だ。
ファン・ジョンミンは嫌な役どころだったが
良い演技をするなぁ。
自国でこんな過去があった史実を
忘れては行けない気持ちが若者を奮い起たせて
動員数に結びついたのだろう。
正義は勝つ!!
話は、政権を奪取しようとする男と首都防衛の責任者がお互い権力・知力を尽くして戦うというものです。
韓国の歴史を全く知らないので、正義は勝つ!と、首都防衛司令官を心の中で応援して、あっという間の2時間半でした。
ギリギリまでどちらが勝つかわからないレベルだったのは、映画ならではのアレンジなのでしょうが、その攻防戦は文句なしに面白かったです。
民間の車を渋滞させて戦車を通さないようにするなんて平和かつ秀逸な作戦で、ヨシ!これで流れはこちらに来たんじゃないか?!と思ったり、無能な上層部が足を何度も掬ってきて呆れ果てたり。
でも、敵も、先輩たちは右往左往するだけの無能ばかり。ハナという結社の団結力(電話架けまくりなのは笑えましたね)と保安司令官の胆力と恫喝力がなかったら、どうなっていたことか。
保安司令官のクーデターへの持ち込み方が、頭の悪い不良の高校生みたいな計画性の浅い内容な上、成功した時には一番の親友とイタズラっ子のように笑いあったり、勝利確定後にハイタッチする様には邪気がなくて、本当はただ子供のままの魅力的な奴なのではと勘違いしたくなる瞬間を見せつつ、首都防衛司令官の敗北をトイレで1人馬鹿笑いして満喫する様は悪人そのものだったりと、味わい深いキャラでした。
とは言え、最後の最後まで、正義のイケメン側に何かドンデン返しがあるのではないかと思ってました。
そう、でも、たいてい史実物はツマラナイ結果なのです。
正義は勝たない………
嘘だろ……韓国……
この点で、☆0.5マイナスです。
ラストがイヤすぎます。
でも、こんな暗黒時代に突入した韓国が、どうやって今に至れたのか、ちょっと歴史読んでみるかという気にはなりました。
それと、まぁこんなことを言っても仕方ありませんが、アメリカが国防長官を追い返さず1日だけ保護していれば、歴史は変わったんだなとも思いました。
緊迫の124分
124分、緊迫感が途切れること無く続く。
テンポよく一気に見てしまう。
反乱軍vs鎮圧軍の2極対立構造で見せ、俳優が個性的で一目で誰か分かって混乱が少なく、複雑な状況を説明するのに地図を出したり俯瞰で捉えたりと、複雑になりがちな内容をわかりやすく見せる工夫があり、最後まで迷子になることなくついていけた。
多少のフィクションはあるのだろうが、こんな甘い計画のクーデターが成功するわけないと思っていたら、あれよあれよという間に反乱軍が首都を制圧してしまった。
政府や軍の高官の無能っぷりに呆れる
反乱軍を余裕で鎮圧できる場面がいくつもあったのに、都度鎮圧側の高官たちの判断ミス(事なかれ主義、無責任、腰抜け)でせっかくの機会を逃し続けて、よもやのクーデター成功、ひとり獅子奮迅のイ・テシンの無念さいかばかりか。チョン・ドゥグァンを排除しようとした一派が拷問されるところで、「タクシー運転手」で描かれたような光州事件につながっていくのだ、と暗澹たる気持ちになった。
朴大統領の暗殺から、民主化に向かえるかと思えた「ソウルの春」が潰えて、新たな暗黒時代の始まりになってしまった。
イ・テシンを心から応援していたので、見終えてやりきれないもやもやが残ったが、史実なので仕方ない。
非常事態での争いは、エゲつない方が勝つのだとつくづく思った。
ハナ会の組織力をフルに活用、ルール無用狡猾さむき出しの強引な爆走が故に、チョン・ドゥグァンは勝った。
また、リーダーのカリスマ性は、すごく大事なのだとも思う。
強烈な唯我独尊、自らを恃み先輩もコケにする高慢さとキレッキレの頭脳。
窮地に陥るたびに、おたおたするどころか不敵に笑い、次の手を繰り出すチョン・ドゥグァンは、手探りで進まざるを得ない人々には正直頼もしい。清廉潔白な人ではできないような発想で切り抜けどんな手を使っても勝ち抜きそうに見える。ふてぶてしさ憎々しさが逆に効果的で、この人についていけば大丈夫と思わせるところがある。
この嫌なやつをファン・ジョンミンが演じきってスゴい。
チョン・ウソンのイ・テシンにもカリスマ性がある。
ブレないところ、ひとりでも立ち向かう不屈の意思、信念と頭脳と人間性に惹かれて着いていきたいと思わせるものが大いにあって、高官たちが腰抜けじゃなければ勝ってたのになあ
チョン・ウソンとファン・ジョンミンの、演技が圧倒的。
このふたりががっつり組んだところが、映画の見応えを特上にしていると思う。
重厚な韓国の1番長い日的な作品
スリリングで素晴らしい作品でした。実際に起きた大統領暗殺事件後の「粛軍クーデター」「12.12軍事反乱」を映画化。クーデターを起こす反乱軍の首謀者の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(後の大統領)を悪として描き、首都警備司令官イ・テシンを高潔な正義の軍人として描く。わずか45年前の出来事なのに日本ではあまりにも知られていない韓国の黒歴史。クーデター成功後はチョンと仲間達で大統領など政権や軍内の要職をたらい回しにし汚職疑惑にまみれた韓国。日本の明治維新はクーデターでは無く維新ですがその後、政権をとった薩長同盟を中心とした人達の中にも伊藤博文、井上馨などチョン司令官的な人たちもいました。
大変興味深くは観たのですが‥
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作を非常に興味深くは観ました。
この映画『ソウルの春』は、1979年12月12日に韓国で起きた粛軍クーデター(12.12軍事反乱)を題材に描いた物語です。
1979年10月26日に、当時の事実上の独裁政権(民主主義選挙の現在と違い、統一主体国民会議による代議員選挙で野党候補のいない単独で選ばれた大統領制)を執っていた朴正煕 大統領が、KCIA部長・金載圭 氏(後に絞首刑)に暗殺されます。
その後に(おそらく史実通りに映画の設定でも統一主体国民会議の代議員により)チェ・ハンギュ(モデル:崔圭夏(チェ・ギュハ)大統領/役:チョン・ドンファンさん)が大統領に選ばれます。
そして、朴正煕 大統領の暗殺を契機に国民から民主化の要求が高まり、映画の中でのチェ・ハンギュ大統領のモデルとなった崔圭夏(チェ・ギュハ)大統領も民主化にこの時、舵を切ろうとしていました。
そんな中で、チョン・ドゥグァン保安司令官(モデル:全斗煥(チョン・ドゥファン)後の第11・12代大統領/役:ファン・ジョンミンさん)が、チョン・サンホ陸軍参謀総長(モデル:鄭昇和(チョン・スンファ)氏/役:イ・ソンミンさん)と対立します。
チョン・ドゥグァン保安司令官は、チョン・サンホ陸軍参謀総長に大統領暗殺の共犯容疑をかけ逮捕します。
これが映画でも描かれた粛軍クーデター(12.12軍事反乱)の始まりです。
チョン・ドゥグァン保安司令官は、自身が中心となり形成した軍隊の中の秘密組織「ハナ会」のメンバーを駆使して、クーデターを成し得て行きます。
そしてチェ・ハンギュ大統領は、チョチョン・ドゥグァン保安司令官が求めたン・サンホ陸軍参謀総長の逮捕の承認を当初は認めませんでしたが、結局は(映画の最後にも描かれたように)事後承認的に認めることになります。
当時は、暗殺された朴正煕 大統領の半ば独裁政権だった流れの中にあり、クーデターを後に成功させたチョン・ドゥグァン保安司令官のいる軍部にチェ・ハンギュ大統領が反旗を翻すことはほぼ不可能で、チェ・ハンギュ大統領によるチョン・サンホ陸軍参謀総長の逮捕の事後承認も致し方ない面もあったでしょう。
この粛軍クーデター(12.12軍事反乱)で今作の中でヒーロー的に登場するのが、イ・テシン首都警備司令官(モデル:張泰玩(チャン・テワン)氏/役:チョン・ウソンさん)です。
イ・テシン首都警備司令官は全く道理に合わないチョン・ドゥグァン保安司令官のクーデーターを批判し、クーデターの阻止に邁進します。
そして映画では、イ・テシン首都警備司令官を”善”、クーデターを起こしたチョン・ドゥグァン保安司令官や「ハナ会」のメンバーや毅然とした態度をとれない軍部上層部を”悪”として、善悪を明確に分けて描いている印象を受けました。
一方で、それぞれの熱演を含めて面白さも感じながら、私的には、この善悪を明確に分けて描く描き方に多少の引っ掛かりは感じました。
もちろん、クーデターを起こしたチョン・ドゥグァン保安司令官のモデルとなった全斗煥(チョン・ドゥファン)保安司令官は、この後、光州事件で、国民の民主化運動に銃を向けて民間人を射殺などし、150人以上の民間人死者を出した責任もあり、民衆を圧迫し弾圧した当時の振る舞いからしても、私的にも”悪”だと思われます。
しかしながら、イ・テシン首都警備司令官や(チョン・ドゥグァン保安司令官に逮捕された)チョン・サンホ陸軍参謀総長は、軍隊の影響が色濃い独裁的政権が継続していた当時、特にそれらを改めて民主主義の国にすると言う主張は見られず、あくまでチョン・ドゥグァン保安司令官の暴走を軍隊の規範の中で止めようとしたという職業上当たり前の行動をしていただけに思われ、”善”との持ち上げ描写はやや演出過剰には感じました。
個人的には、第2空輸特戦旅団(史実は第1空輸特戦旅団)が行ったり来たりするなどの滑稽さや、「ハナ会」などのクーデター側とそれを阻止しようとする首都警備司令部側の対立や、軍部上層部や、盗聴などを交えながらの描写も興味深く面白さはありました。
しかしながら、この映画の善悪がきっぱりと分かれた描写は、果たして本当の歴史の姿を描いていたのかは疑いはあるなとは思われました。
また映画では、チョン・ドゥグァン保安司令官や「ハナ会」のメンバーたちが軍部の中で異端的な描写もされていましたが、軍部の影響が色濃い独裁的な政権が当時、続いていた中で、チョン・ドゥグァン保安司令官の(現在からしても全く間違った考えですが)さらに独裁的政権を継続させようとする考えの方が、当時の軍部の中では主流だったのでは?との疑念は持ちました。
今回の点数はその感想も加味しました。
ところでこの映画では明確に描かれなかった背景にある、韓国の軍部が独裁政権的な政治体制を作れた要因に、【緊急措置権(国家緊急権)】があったことが歴史的に分かります。
当時の韓国は、【緊急措置権(国家緊急権)】を利用して、大統領選における民主選挙を止め、メディアなどを統制し、半ば誘導する形での国民投票による憲法改正で、政権がコントロールできる形(統一主体国民会議による代議員選挙で野党候補のいない独裁者の単独候補で選ばれた大統領制の)大統領選出の方法や(議会の1/3の議員を大統領が推薦し選ぶことで)議会のコントロールをすることを可能にしました。
韓国は元々、民主主義による大統領選であったのに、暗殺される前の朴正煕 大統領が【緊急措置権(国家緊急権)】を利用して民主選挙による大統領選の権利を国民から奪いました。
日本人からすれば、当時の韓国は【緊急措置権(国家緊急権)】の乱用により独裁的政権が誕生し、今回の映画で描かれた事柄も起こっている危険性も、日本で今後「緊急事態条項」の議論をする時によくよく考えておく必要があると、今作からも思われました。
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