「ひとりの男の危険な企ては一体どこへ、どこまで転がっていくのか」ソウルの春 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ひとりの男の危険な企ては一体どこへ、どこまで転がっていくのか
本作を観ながら、かつて胸を引き裂かれた『ペパーミント・キャンディ』『タクシー運転手』『殺人の追憶』『1987、ある闘いの真実』『KCIA 南山の部長たち』などの映画の時代背景が蘇ってきた。それらと直接的に繋がっていなくとも、韓国の現代史を織りなすパズルの重要部として本作は存在する。あえてフィクションを交えることでよりリアルに、歴史の闇を明るみに引きずり出した怪作というべきか。何よりもファン・ジョンミン演じる独裁的な男の立ち振る舞い、刻一刻とうごめく内面、垣間見せる狂気的な側面に、鑑賞中はもうずっと歯ぎしりしっぱなし。対するチョン・ウソンが映り込むとその精悍な姿に安心感や正のパワーの広がりを感じるわけだが、それも束の間。みるみるうちオセロの石がひっくり返っていく状況の激変ぶりに唖然とせずにいられなかった。軍事サスペンスとしてのうねりといい、人間ドラマとしての骨太さといい、かなり見応えがある。
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