「(長文注意)2回観に行きましたが、期待外れでさめました。」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 モギタジュンイチさんの映画レビュー(感想・評価)
(長文注意)2回観に行きましたが、期待外れでさめました。
TVアニメ1期でファンになり、それがきっかけで競馬の現地観戦も嗜むようになり、先日に欧州アイルランドを旅行してそこでのGⅢ競走も観に行くほどに至ります。
アニメ版は全て一周はしています。
私個人としましては、残念ながら全体として及第点ではないと感じられました。
「ウマ娘シリーズ初の劇場版作品」として物足りない箇所が多く、悪い意味で既存の一部ファン向けになってしまっておりました。
・説明不足が過ぎる。
本作品では、ウマ娘達によるレース、その学生リーグであるトゥインクルシリーズ、養成機関のトレセン学園の他、レースの上位入着選手によるウイニングライブの存在、そして彼女達の指導者であるトレーナー職について丁寧な説明が皆無でした。
劇場版である本作品は元々一定の視聴者層に限定したOVAや配信アニメではありませんし、地上波の民放でも大体的にCMを流しておいてこれでは新規ファン開拓の機能が果たしません。
作中で登場するレースについても、ただでっかく会場やコース距離などのテキストを出すのはお粗末です。
特に日本ダービーとジャパンカップは、実際の競馬競走として我が国でも格式の高い歴史ある存在です。
コースの形態や試合展開の傾向についても簡潔な概要でもいいので、トレーナー職やスタート前の実況に説明をさせるべきでした。
TVアニメ版で共に東条ハナトレーナーが率いるチームリギル所属であったフジキセキとテイエムオペラオーが本作品ではそうではなかったため、これまでのアニメ版とは異なるパラレルワールドの話である事が観に行ってから確実に判明しました。
フジの担当だというタナベトレーナーの存在が公式メディアに発表された時点でなんとなく「そうだろうな」とは思ってはいましたが、開発とリリースが難航していたアプリ版に先駆けて放送されたTVアニメ版第1期は全体として高評価を受けてアプリ版ユーザーとなるファン獲得に大貢献したとされており、そのオールドファンへの配慮として公開前の案内で大体的に説明して欲しかったです。
これまでのアニメ版ではトレーナーの執務室やチームの部室は校内にあり、練習場も校内にきちんと整備されたものを使用しています。
本作品でタナベTの執務室兼チームの部室がなぜ多摩川の河川敷にある木造のボロ小屋で、なぜか河川敷の草むらに設けられた練習コースもなぜよく使っているのかについてもスルーされていました。
本作でも駿川たづな役の方によるナレーションが序盤のみにありましたが、その内容は作中世界での神話の一つのようなものでふわふわしたものです。
その後もたづな役としての出演はありませんでしたので、どうせなら
「この世界には「ウマ娘」と呼ばれる女性の人達がいます」
↓
「その人達の身体能力に特化した芝やダートコースのレースがあり、「トゥインクルシリーズ」という中高生リーグがあります」
↓
「トゥインクルシリーズではレースだけでなく、ウイニングライブも重視されます」
↓
「そんなウマ娘達を指導するトレーナーという職種があり、彼らの多くは親・兄・姉のような感情をもって、教え子と一緒にレース活動に臨んでいます」
↓
「東京都府中市にはこの学生リーグの選手養成期間である通称トレセン学園があり、今日も生徒とトレーナー達が切磋琢磨をしております」
……というような語りでの導入部があって良かったと考えます。
中盤の集団夏合宿につきましては、実際の国内競馬事情に合わせて芝のGⅠレースのない時期に行われている、という設定の描写がなく、他の方のレビューで「ウマ娘を知らない同行の友人が「唐突に始まってついていけなかった」」などの意見も見受けられました。
・主要キャラの掘り下げが浅いorない。
アプリゲーム版で育成未実装であったジャングルポケットを主役をするのであれば、彼女のパーソナリティの根幹となる幼少期や家庭の話などのバックグラウンドに触れるべきでした。
なぜTVアニメと配信版のRTTTでもやってきた流れを踏襲しなかったのかが疑問です。
またポッケがお守りのように持っていた水晶のようなアイテムについて一歳触れられなかったのは、創作全般としても論外です。
今作でポッケと共にメインキャラとしてパンフ絵などに描かれたアグネスタキオン、マンハッタンカフェ、ダンツフレームについても物足りなませんでした。
ポッケの因縁の好敵手となったタキオンについてはある程度の出番や見せ場はありましたが、アプリ版で僅かながら言及されていた家庭環境やサイエンティスト気質については触れられていません。
カフェにつきましては、タキオンの皐月賞、ポッケのダービーと共に菊花賞でクラシック三冠を仲良く分け合った大功績者のはずなのに、本作で菊花賞の栄冠はあっけなくダイジェストとして流されたため何の余韻もございませんでした。
「おともだち」というイマジナリーフレンズ?の存在についてもスルーされており、ポッケとは決して仲違いはしていないが特に友情を思わせるようなやり取りもありません。
ダンツに至ってはアプリで育成未実装のためポッケと同じく丁寧に紹介されるべきであったのに、結局ウマ娘としてどのようなパーソナリティとアビリティの子なのかがわからずじまいでした。
・フジキセキの扱い方のズレ。
フォーカスがされた内容の時間と内容の密度的にも、本作品の事実上の準主人公はフジです。
パンフ絵でも最後のライブシーンでもポッケの隣にいるべき立ち位置でした。
私個人としてもフジはお気に入りのウマ娘の一人であるので、本作品である程度以上の尺が割り当てられた事自体は良かったです。
ですが、TVアニメ版やアプリ版とは異なるパラレルワールドかつモデル馬の史実準拠とはいえ、大怪我でクラシック路線を離脱した事にはやるせない気持ちでいっぱいでした。
幸いにも引退まではしていなかった事と戦力自体は失っていなかった事が救いではありました。
フジは公式設定で有名舞台女優の母を持つ元子役であるので、他のウマ娘達と比べてもエンターテイナーとしての意識が人一倍高く、よく手品を披露するのもその現れです。
また学生寮の一つである栗東寮の監督生たる寮長も務めており、世話好きで特に下級生からの人望も厚いです。
これまでのアニメ版では上記の要素が描写されており、本作品でも上手く反映させて学園生活自体は問題なく送っている事を強調して欲しかったです。
また人知れずにリハビリに取り組んだり、小さなレースには出走していたりする様子などに触れる描写があっても良かったと考えます。
・引き立て役にされた実装ウマ娘へのケアの無さ
本作品ではポッケのモデル馬のキャリアに合わせて、ナリタトップロードやメイショウドトウ、そしてテイエムオペラオーなどの育成実装ウマ娘が対戦相手として登場しました。
ですがレース後に前向きにリベンジを誓う様子やそれぞれのトレーナーからの労いを受ける場面はありませんでした。
特にオペラオーに関しては、モデル馬のキャリアとしては自分の時代の引導を渡された敗北ともされているほどなので、アニメ版でのハナに代わるトレーナーを登場させて心のケアをしてあげて欲しかったです。
・ストーリーのテンポが悪い
特にダービーからジャパンCまでの夏合宿を中心とした期間についてが非常に停滞しており、「チケット代返せ」と言いたくなるようなレベルでした。
大目標であったあのダービーを優勝したにもかかわらず、タナベTの心のケアも結果として無駄になってしまったとも言えるようなポッケの独りよがりな葛藤をダラダラと見せつけられるのは苦痛でした。
代替案のアイデアを出せるのであれば、育成未実装のダンツやクラシック三冠の最終戦である菊花賞を制するカフェのバックグラウンドにフォーカスをし、ジャパンCを控えるポッケにとっては前向きな「気づき」のための時間に充てた方が良かったのではないでしょうか。
・トレーナーの存在意義。
ウマ娘の活躍はトレーナーの適切なサポート無くしては成立しません。
そしてプレーヤーがトレーナーとなって担当ウマ娘と二人三脚でトゥインクルシリーズに挑戦し、モデル馬が成し得なかった記録も達成する事ができるのも、このシリーズで中核となるアプリゲーム版の醍醐味です。
そしてこれまでのアニメ版でも沖野Tや沖田トレーナーなどオリジナルのトレーナー達が登場し、地道なレースや対戦相手の分析、時には風変わりなトレーニングメニューの編成、そして教え子達への労いや心のケアなどが、丁寧に描かれています。
本作品のタナベTは、大ベテランだからこその重みのある言葉でポッケ達と接していたのは非常に良かったです。
しかしながら、作中での役回りは傷心の主人公を労る父親や祖父のような印象にとどまり、沖野Tや沖田Tのような具体的なトレーニング指導等は描かれませんでした。
何故カタカナ表記なのか?、トレーナとして今までどのような成績を残しているのか?、そして過去の回想シーンに登場した彼の師匠と思われる人物は一体何者なのか?
とにかく謎が謎のままで終わってスッキリしませんでした。
また先述に触れたオペラオー達のトレーナーだけでなく、タキオンやカフェ、ダンツ達のトレーナーも出して欲しかったです。
特にタキオンに関しては、これまでのシリーズ作品とは異なって自己中心的で不遜な言動が非常に目立っており、ポッケやカフェ達に愛想を尽かされた直後に研究室の外から聞こえてきたモブのトレーナーとその教え子達のやりとりを茫然としながら聴いていたかのような姿には、ただただやるせなさを感じられました。
問題のある態度を注意したり、故障後の本人の意思を尊重しながら見守ったり、復帰の決意を後押しをしたりするような指導者がいても良かったと思います。
またカフェとダンツについては、中盤以降ポッケ達と共にタナベTの指導を受けていたので、同じチームなのかどうかをはっきりとさせるべきでした。
・なおざりにされたウイニングライブ。
ウイニングライブはウマ娘コンテンツにおいてレースと同等の重要要素です。
アプリゲーム版でも、その存在意義について取り上げた育成シナリオが実装されています。
コンパクトにまとめてでも、TVアニメ版のようにその華やかさや練習風景も丁寧に言及して欲しかったです。
・作画崩壊。
TVアニメ版までの表情の温かみと安定感のある作画が好きなので、ポッケのアメーバー化や、8、90年代のギャグ漫画のような変顔、レース中の目ん玉が飛び出るのではないかレベルのエッジの効き過ぎた作画は自分の肌には合いませんでした。
・音楽編成のズレ。
OPにはフェンではない一般層にも比較的知られている『うまぴょい伝説』を、EDに今作の主題歌を充てて締めるべきでした。
うまぴょい伝説は良くも悪くも結局は「電波ソング」で、今作では出番の少なかったウマ娘役の方々も集めた大合唱型式でした。
2時間近くも拘束されてのこのエンディングでさらに興ざめになりました。
・キャラクター作品としての物足りなさ。
ウマ娘シリーズは、とにかく多くのウマ娘を実装してそれぞれのファンを獲得しているスタイルです。
最初のアニメから6年、アプリ版リリースからは3年も経ちますので、少なくとも本作品の制作時点で実装されたウマ娘を全員何かしらの形で登場させるご配慮ぐらいはあっても良かったと思います。
セリフについても、もちろん声優さん方のご事情で新規収録ができなかったにしても、可能であればこれまでの作品の録音音声での参加という方法もあったのではないでしょうか。
また背景が暗幕のままであったEDロールで、これまでに実装されたウマ娘の姿と名前をワンシーンでもいいので全員分載せて流した方が良かったです。
そもそも論になってしまうのですが、TVアニメ版のように特定の一陣営のみを中心とするのではなく、第1期のOVA『BNW』とRTTTのように複数の陣営にも焦点を当ててサブのキャラクターも多く出しやすい群像劇にした方が、多くのファンの印象も良かったと思います。
以上です。