「1回観て微妙だと思った君たちへ」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 炭酸スイさんの映画レビュー(感想・評価)
1回観て微妙だと思った君たちへ
自分はウマ娘のコンテンツは一通り追ってる身ではあるが、1回目の鑑賞では正直に言って期待した程ではないと感じた。
この評価に落ち着いてしまったのは、この作品の前日譚であるROAD TO THE TOPが面白すぎるからとも言える。
ウマ娘の作品に初めて触れる人には映画ではなくこちらをオススメしたい。エンタメとして純粋な面白いものを観たいと思うのであれば、RTTTは映画に勝っているといえるだろう。
各配信サイトや今であれば公式のYouTubeチャンネルから全4話を観ることができる。纏まりが非常に良く理解もしやすい。映画から初めてウマ娘に触れた人にこそ是非観てほしい。頼む、観てくれ。
先程にも言ったように純粋な面白さではRTTTに分があると感じている。
しかし!新時代の扉はそれを超えていると自信を持って断言したい!
それにこの作品は2回目の鑑賞によって真価を発揮することを伝えたい!
もし君たちに余裕があるのであれば、ジャングルポケットの持つアクセサリーの意味や放つ言葉の一つ一つ、それぞれが勝った時の演出に意識を向けて、再度映画館に足を向けてほしい。
一度映画を観た君たちならそれぞれの演出の持つ意図に気付けるはずだ。それらを改めて解釈することによって評価が一転することを約束したい。
ここからは私個人の感想、というか解釈を述べていこうと思う。
これらを読む前に是非2回目の鑑賞に向かえるのであれば向かってほしい。他人の解釈を一度意識してしまうと、これはそういうものだという正解を持ったうえで観ることになってしまうためだ。
まず、この映画は本当に”よくできてる映画”と言いたい。
急にガキっぽい感想になったなとか何様のつもりやねんなどと思われるだろうが、本当にこの映画はよくできてるんです。いやマジで。
映像作品として本当に凄い。演出の一つ一つにちゃんと意味を持たせている、そしてそれが非常に丁寧であると。それをウマ娘というコンテンツでやるんだから凄いとしか言いようがない。
その中でも印象的かつ象徴的なのはジャングルポケットの持つアクセサリー、あれがもたらす意味について。
アクセサリーが何を意味するか、ここは各々の解釈に依ってくるが、私はあの中にジャングルポケットにとっての”最強”を象徴していると考えている。
最序盤、ポケットはフジキセキのレースを観てトゥインクルシリーズにおいて最強を目指すことを心に決める。
アクセサリーに反射したフジキセキこそがポケットが初めて見出した”最強”であり”憧れ”なのである。
アクセサリーを空に投げそれを掴み取る様子はまさしく、これから最強に向かって突き進む覚悟と憧れに並び立たんとする意識が見て取れる。この時点で後半のフジキセキとの併走を示唆しているようにも思える。
その後、アグネスタキオンにフジキセキと同じく最強を見出し、最強への第一歩としてタキオンに勝つことを宣言するも、願い叶わずタキオンのレース無期限出走停止。つまるところ、ポケットは最強への第一歩を踏み出せないまま、日本ダービーに勝利することになる。
日本ダービー勝利後、明らかにアクセサリーが翳っている様子が映し出される。また、夏祭りにおいてアクセサリーを象徴するような描写がいくつか見受けられる。
スーパーボール掬いでポイが破れる場面や、ラムネの中のビー玉の無機質で一片の輝きもない様。
僅かに付いた炭酸の泡が取れてしまう様子を見ると、ラムネ片手にした会話の中で最強であり憧れであるフジキセキが再び走るという僅かな希望が無くなるようにも見え、ポケットの心情が事細かに映像で示されていることが分かるだろう。
菊花賞での敗北を経て自販機前での語らいののち、フジキセキとの併走、預かられていたアクセサリーをレース開始の合図として空に放り投げ渡す。
改めてポケットが最初に感じた”最強”をフジキセキ自ら示し渡すことによって、タキオンの幻影を払い初心を思い起こさせることができた。
ここでのレース結果は明確に描かれてはいないが、ポケットが勝利したのではないだろうか。
ここに来てタキオンに対して切った啖呵、最強の第一歩目に倒すというものをフジキセキが代わりに担うことによってポケットは改めて最強への一歩目を踏み出し、見事ジャパンカップにて最強になることができたのだ。
更にだ。ポケットが持つアクセサリー、これをアグネスタキオンも所持していることに2回目の鑑賞を経た君たちであれば気付いたことだろう。
それはタキオンの研究室、窓の横に吊り下げられている。
さてタキオンの持つアクセサリーが意味することはポケットと同じであろうか?
いや違う。タキオンがアクセサリーに見出したものは”ウマ娘の可能性”、”限界を超えたその先”であることが作中を観ていれば容易に想像がつく。
そこで窓の横に掛かっているという点がとてつもなく活きてくるのだ!!!これ本当に凄い。自分で気付けて本当に良かった。
タキオンは最初から一貫してウマ娘の持つ可能性を探ることに重きを置いている。それは自分が達成しても他者が達成しても良いものだった。
つまりはアクセサリーを窓の横に置くことによって、窓を通して外にいるウマ娘が達成しても構わないことを示しているのだ!!!
これはすごい演出ですよ…。
しかしジャパンカップ前、ポケットが研究室を訪れジャパンカップに出ることを宣言した後、タキオンは窓のカーテンを閉める。
これが示すことは言わずもがな、他者が達成することへの拒絶である。そして間もなく研究室から出ていくのである。
ここでタキオン自身が”ウマ娘の可能性”に対してのスタンスに思い悩んでいる様子が描かれているといえる。ただ悩んでいる描写は菊花賞の映像を観ているときの様子や部屋の片付け具合からも察せられることではあるが。
アクセサリーだけでこんだけ言えることがあるんだよ。いや凄くないかこの映画。正直軽い論文なら書けるんじゃないかこれ。
他の演出もまた細かい!
ポケットが自販機前でフジキセキに悩みを吐露する場面。タキオンに敗北した際のことを思い出しているときに飛行機の音がする。タキオンが勝利した場面でもまた飛行機が飛んでいる。
映像にはポケットしか映っていないが、敗北した光景をフラッシュバック、トラウマとして思い起こしている様を飛行機の音のみで表現しているのだ。
また日本ダービーでポケットが勝った時の雄叫び。正直1回目の鑑賞ではどうにも違和感があった。いまいち伸び切らないというか勝利の感覚がないような印象を受けた。実際それが正しかったと思い知るのは映画を全部鑑賞してからになる。
改めて2回目を観に行った際、ポケットが最強ではないという意識のもと、日本ダービーを勝ってしまったという認識で雄叫びを聞いた際、声優さんの凄さを思い知った。
あの雄叫びは勝利の雄叫びではなく、自身が最強ではないということを思い知ったうえでの叫び、どうにもならない感情の発露だと理解すると、ポケットの心情が直に伝わってくるような感覚がした。この雄叫びを聞いた瞬間、2回目を観に来て正解だったなと心からそう思った。
まぁ長ったらしく自分の解釈を書いたわけではありますが、最後に本当にすごい作品だなと。それぞれの心情を画面で、音で、映像で、しっかりと描いている。その上で、レースやストーリー的にも面白い!
演出をしっかりと噛み砕いてみると、それぞれがパズルのピースとして役割を果たし、ちゃんと噛み合ったときの心地よさがとてつもなくある作品だなと感じています。
ただやはり、一回観ただけで伝わるような情報量ではないこともまたいえるでしょう。ウマ娘好きであればあるほど、間に挟まる小ネタやキャラクターに気を取られ見逃すことも多くあるかと思います。
だからこそ! ぜひ2回目を! 観に行きましょう!
1回観ただけでは貴方はジグソーパズルのパッケージを一通り眺めて終わっただけに過ぎません!
2回目を観ることによってパズルをはめる感覚、伏線を一つ一つ拾い、嵌めていくことで、初めてこの作品のすべてを楽しんだといえるでしょう!
レビューを書くのは初めてだったため纏まりも悪かったとは思いますが書かずにはいられませんでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
貴方が2回目を観たことを信じて、次は3回目を観ましょう!
自分は4回目を観に行きます!
個人的にですが1回目の時点で大いに期待外れで、少しでも良いところを見つけようとした2回目でもむしろ作品として足りない要素の方が多かったです。
個人的にですが。
そうですよね!
この映画は圧倒的なクオリティや情報密度でぶん殴ってくるので1回目は理解しきれないまま観てしまうところもあり、2回目を観ると色々と整理された上で色々な演出意図の答え合わせが出来るようになっていて一回目より2回目3回目の方が面白くなっていると思います
あまり詳しくは無いのですが、どうやら画面の中での左右という演出もかなり凝っているようで、レースシーンは特に顕著に見えますね(弥生賞や皐月賞の中盤までずっと左に向かって走り、皐月賞の最後の方は右に向かって走る等)
光と影の演出もですし、映像として語るような映画に仕上がっているため、1度だけ観るのは勿体ない!私もそう思います