「ちょっと変な作品」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 柘植行さんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと変な作品
※競馬はあまりよく知りません
たしか序盤15分あたりで音楽のギター、ピアノがフェードして次のシーンに移る場面があったのですが、音楽の音量がすでにほぼ無音になっているところに明らかにギターをミュートしたな、あるいはピアノのペダルを離したなと分かる音響演出があり細かいなと驚きました。
あまりこういった(?)映画でこの種の込んだ演出をやると思っていませんでした。
その後も無音とほぼ無音の違いのような、微妙な空気感の変化を終始明らかに意図を持ってコントロールしていて、正直もっとアニメ的な、大ぶりな演出がメインだと思っていたので予想を裏切られました(後で気になって調べたところ音響の方も当作をエクスペリメンタルな仕事だった、と言っており納得しました)。
大枠の妙な設定からくる外連味とその辺りのディテールのかみ合わせがうまく消化出来る人もいれば合わないという人も当然いるだろうなという感じです。
挑戦的な作品だというのは間違いないと思います。
王道ストーリーものと言われていますが、作りはキャラクターものらしくない攻めた作りでした。明らかに敢えてキャラクターに焦点を当てすぎないよう注意しているように思います。かといって空気感とかストーリーがメインという感じでもなく、つまるところ、何より「走る」ことに何かしらの比喩を乗せて全力で描いている作品でした。
正直なところどう言語化していいのかよく分からない妙な映画ですが、だからこそまさに映画的な作品だと言えるように思います。
映画のような大きな表現物は大概どこかしらプロダクト感というか仕事感が出てくるのがいつも嫌なのですが、この作品は制作陣の前のめりなくらいの全力を感じられて非常に気分が良かったです。
最後のライブシーンは正直良く分かりませんでしたがその辺りはご愛敬ということで。
ありがとうございました。