「2010年代や昔のジブリを思い出すような凝った作りの作品」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 BOSSさんの映画レビュー(感想・評価)
2010年代や昔のジブリを思い出すような凝った作りの作品
レビューが非常に長いことはご了承ください
※6/1に2回目の視聴、6/11に3回目の視聴、7/14に追記
先ずは作品がクロスメディアコンテンツとしての体裁故の注意事項、6/13にゲーム版にジャングルポケットが実装されましたが"本映画とは全くシナリオが違う"ので、"本作品は本作品の中でしか完結出来ない"ことを念頭に置いてください
現在、7月一杯までは冒頭の7分公開をYoutubeにて配信されていますので、そちらを見てから見るのを判断されるのが一番かと思われます
また初見でしか味わえない部分もありますので、その部分が損なわれるのは嫌な方はここで引き返してください
あまり言いたくはありませんが、曲解や虚偽、いやがらせなレビューが多く、コメントを閉じてまでファンに擬態したレビューも少なくないので他レビューを見る際はご注意ください
少なくともウマ娘を全く知らない連れを連れていっても作品を楽しんで貰えるくらいには分からない部分はありません、分からないとしたら子供ぐらいなので、大の大人が分からないと言ったら、だいぶマズイくらいには深く入らなければシンプルなレベルです
会話には用語が1割満たないレベルでしか出てきません
一応、補完も込めた小説版も販売していますので、舞台裏やより細かい心理面とかも知りたい方は角川文庫出版の小説版を是非
アニメ映画として見た場合のレビュー
本作の製作スタジオであるCygames Picturesは映画事業は全くの初
しかし、初とは思えない作りの良さ、アニメ映画としてはまるで2010年代の名作達や昔のジブリを思い起こす様な映像からも心理を読み取らせようとする演出もあり、昨今のアニメでは失われつつある絵や音による心理描写が非常に多くあり、音響も素晴らしくシリーズを見てきた自身ですら驚くレベル、五感を総動員して楽しめます
中にはちょっとした背景での立ち位置や部屋の変化で登場人物の心理が見え隠れしたり、それぞれの立場が分かるような意図した作りを入れています、これはウマ娘作品でもここまで多く入れたのは初めての試み
また、タイトルがタイトルなので中々、視聴に抵抗がありそうですが、ここら辺も2010年代からある「見た目・タイトル詐欺」レベルの少年漫画的演出やシナリオ、展開だったりしますし、作り込みはそれを遥かに上回るレベル
ヤングジャンプでコミカライズ展開している別作品・"ウマ娘 シンデレラグレイ"の雰囲気に近い作風だったりします
作画も動と静がハッキリしている作り込み、表情の変化も非常に細かく「あれ?何だか様子が?」って意識させる作りが非常に多いです
しかし、シナリオは至って王道、小難しく考える必要もないが、演出における解釈を加えて、心理を深く見ても面白くなる様な作りにはなっています
物語のイントロを少しだけ
主人公のジャングルポケットが友人と気まぐれに見にきたレースで「お嬢様学校の連中」とたかを括っていたら、フジキセキのとんでもない走りに惹かれて自分もそのレースシリーズである、トゥインクル・シリーズ出場を目指し、その惹かれた走りのような強いレースで時代の最強を目指すところから物語は始まります
このように言わばジャンプ漫画みたいな分かりやすく、熱血王道的な導入から始まり、ここから主人公のスポ根的成長物語ともなります
基本的には見易く、取っ付きやすい物語の作りではあると思います、また登場人物が学生なので合間に日常シーンで緩急をつけたりして上手くメリハリが効きながらも、しかし要所要所の演出による心理描写や表情に伏線があったりと五感全てで楽しめる作品になっていると思いました
世界観どうしても細かい設定が気になるって方はウマ娘 公式ポータルサイトまたは映画の公式HPや映画Xでの公式アカウントで用語集を調べてから見るのが良いかと思います
実際の競馬や競走馬等に基づいたエピソードはありますが、知らなくても分かるレベルでしか入っていません
ここら辺はあくまでも"作品の世界観の独自性"も維持するために物語のノイズにならないよう上手く取り捨てしています
では、ここからは作品シリーズのファン目線で
実質的な前作で前日譚でもあるROAD TO THE TOP(以下RTTT)からより進化した作品でありながら、シナリオの作り自体はナリタトップロード(以下トプロ)の二人三脚で頂点を目指す物語とは異なった作り
トプロの物語は群像劇スタイルで主役3人にフォーカスを当てる視点に対して、今作はジャングルポケットを中心に同期のライバルであり友人達との成長物語を描いているので、シリーズファンに言えば別スタジオの作品であるTVアニメ1期の様に見せつつも、実際はアプリのメインストーリーの様なスタイルと作風を意識した作りで展開しているいわば、メインストーリーEXと思えば良いと思います
ただし、作風自体は同じサイピク作品であるRTTT味は健在、迫力のある作画やさらに進化したカメラワーク等には圧倒されました
また、BGMも新しい試みがあり、タキオンという異質な存在をアピールさせるための曲調にしたり等と、RTTTとはまた違った良さがありました
皆が期待しているであろう00年有馬記念のテイエムオペラオーは想像以上に凄かった、PVでは映像のみだったが、実況は「当時のモノの方が凄みが伝わる」との脚本家の采配でまさにほぼ同じものだったので更に迫力がよりありました、演出面も「これからとんでもないことが起きますよ!」と言わんばかりの派手さ
基本的にはレースシーンはRTTT以上にエンタメ的迫力を重視しつつも、想いの心理は全く変わらずでした
強いて言うならレースの展開やポッケの内面的成長が物語の中心なこともあってか、戦略的な面はRTTTと比べて少なめ、一応最初のレースでポッケ自身のレーススタイルは本人が触れているが、セリフからして"天性のレースセンス"と持ち前のフィジカルで行くタイプ
しかし、勝利への執念を見せるべく想いをぶつけ合うような描写もあり、モブにも「勝ちたい」という強い意志を見せたりとこれまでの集大成的な作りが見受けられました
とにかくレースでの内面心理描写は過去一まであるかもしれません
また物語も最強を目指すポッケが同期のライバルが離脱して目標を失いつつも世代最強を目指し、さらにはタナベTとフジの夢を受け継ぎ、より強く目指そうという意志を持つものの、世代最強になっても「タキオンには勝っていない、勝つことはない」という事実に悩まされ、虚しさとも戦っていく"アスリートは常に自分との戦いでもある"という側面をも描いています
他ライバルであるタキオンやダンツにも心理面をかなり描いています、特にタキオンは裏主人公とも言えるポジションなので、アプリでタキオンファンになった人は感慨深いかも
フジキセキももう一人の裏主人公orヒロイン的ポジションであり、史実ルートに行ってしまった時の掘り下げがたくさんあります、いつもの寮長としてのフジではなく、1人の先輩アスリートとしての側面を見せてくれるのでイメージが変わるかと
そして、ポッケ以外にもこの裏主人公2人の物語でもあることが分かってきます
タナベTもRTTTの沖田Tと同様に欠かせない、二人三脚をする、夢と想いを託す人物としては大事なキーパーソンの一人でした
ここまで長々と話しましたが、RTTT同様に登場人物がそれぞれの役割を持ち生き生きとしています
また、結構な数のキャラクターが1シーンだけでも出てきたりしますので、楽しい部分も多し
さらにアプリ出できたあのキャラクター達も
ではここからは悪かった点に
・完全初見向けの世界観説明が冒頭以外にない、ただし尺の都合もあり、潔くカットしているのとシナリオ自体は初見でも問題ない内容だが、ファン向けな部分も少なくはないのでここら辺は公式ポータルや映画のX公式アカウントで用語等を事前に調べてください
・マンハッタンカフェが物語の展開上、レースシーンが少ない
クラシック期がほぼ全休に近かったことからレースシーンが少ない、出番自体はあるものの、ポッケ中心の物語である以上は仕方ない側面もある
監督からも雑誌にてコメントがあり「物語上、出番が少なめになってしまったのはごめんなさい、代わりではありませんが、出てくるシーンは一層気合いを入れて作りましたのでご容赦ください」とのこと
ただ、遅咲きであり、これから覇王に引導を渡したり、世代の頂点を奪い取るので、カフェの為の後に展開がありそうな切り方ではある
カフェ自体の心理的な面はアプリユーザーでも見たこと無い部分や表情を描いているので、また新しい一面が見えるかも、ちゃんと役割もあるのでいなくても変わらないなんてことはありませんでした
・テイエムオペラオーは"最強という概念"的象徴のため、物語にはほぼ絡んでこない
あくまでポッケが目指す"最強の称号"を持つの1人の目標
序盤で時代背景をアピールをしただけで存在感がありすぎるので反って目立たせ過ぎなくて正解かなと、RTTTとは違う"世紀末覇王"としての姿には感動してしまうかも?
・プリズムのサンキャッチャーの意味が人によっては少し分かりにくいかも?ポッケの大事なアクセサリー的な立ち位置としての解釈でも十分だと思われるが、実際はポッケやタキオンの精神状態を端的に表しているモノでもあったりする
非常に長くなりましたが、総じては
・作品ファンなら映画館で見て欲しい、物語もポッケにふさわしく、キャラクターの新たな一面に推しが増えてしまうかも、少なくとも大半の人がモルモットで光輝いていたりやポニーちゃんになってしまうくらいには魅力的な描かれ方をしています
・シリーズ作品始めてでも入ってきやすいシナリオ、小難しく考えず正面から純粋に受け取るのが一番良いでしょう、されどコアなアニメ作品好きを唸らせるような演出描写が多彩
・競馬ファン向けに言うと史実に沿うだけがこの作品の良さではないことも証明しています、時にはこれをいれてしまうと物語のノイズになってしまうという取り捨てをしっかりしています、例を上げるとクロフネはポッケの物語である以上は絡ませにくい&クロフネの名称使用許可がない為、シリーズによくある苦肉の策・代名であるペリースチーム(ペリーの黒船をもじっている)で代用している等と決してクロフネの存在を無視してはいません
脚本の方も何度も元になったレース映像を見直したり、エピソードを拾ってきて物語を作る上で取捨選択をする努力をパンフレット内でインタビューしていました
この世界観の独自性を失わずに元の題材を大事にしている姿勢が両者の原作をしっかりと尊重しているシリーズトップクラスの名作です
長々と見辛い部分もあると思いますが、レビューを見ていただきありがとうございました
少しでも見たいと思える様になれば幸いかと思います
何だかんだ5回見ていますが、未だに新しい発見があるくらい情報量が膨大にある作品です
物語自体は1回見れば誰でも分かるくらいシンプルなの反面、一瞬たりとも目をを反らしてはいけないくらい物語りが常に動いている作品でした
追記:よりファン向けなネタバレを言うと、1期、2期、RTTTにもあった「走りたい」「走り続けたい」というウマ娘という種族の本能についてもまた新しい形で描いています
1期のスズカの時や、2期のブルボン、テイオー、マックイーンらの様に、RTTT終盤のアヤベが本心を吐露した時の様に、挙げた全員が"魂に刻まれた運命"に抗い「まだ走りたい」と本心を露にする点を、今作はどんなに理屈で抑え込もうとも「走りたい」という本能には抗えない、どんな形であっても「また走り続けたい」という魂の叫びが今作にもしっかり受け継がれています