「ファン向け映画の域を出ない凡作」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 パンダ42世さんの映画レビュー(感想・評価)
ファン向け映画の域を出ない凡作
史実のレースや競馬事情を知っている視点での評価です
ネタバレは出来るだけ避けますが、どうしても外せないポイントもあるのでご容赦を
冒頭からテンポ良く話が進んでいくが、動機や背景といった世界観やキャラ描写に関する説明や描写をユーザーの知識ありきで描いている印象
故に史実を知らない、ゲームをやっていない一般層が見ると「何故そう思ったのか、何故そうしたのか」といった動機や背景が非常に分かりづらく、物語に入り込めない
ジャングルポケットは最強を目指している事が劇中では伺えるが「何故最強になりたいのか、そもそも漠然と最強とはどういう状態なのか」が分からないので感情移入出来ない
アグネスタキオン、マンハッタンカフェ、ダンツフレームなどの同世代馬との群像劇を描きたかったのだろうが、カフェとダンツに関しては描写が非常に薄く、活躍したレースもカット、ダイジェストになってる事が殆どで見せ場を奪われており、更にポッケのクリスタル、カフェのお友達のようなキャラ描写の掘り下げに関しては特に謎が解明する訳でもなく放置されたまま終わる
皐月、ダービーは描写したのに特にカフェとジャンポケが直接対決した菊花賞がほぼカットされた点は疑問符しか付かない
その反面ポスターや事前PVではサブキャラだと思われていたフジキセキの存在感が高く、キャラそのものは悪くないのだが、カフェやダンツの描写をカットしてまで入れる必要があったのかどうかは賛否が別れる要因かと
また、事前ではラスボスとして君臨しているような印象を受けたテイエムオペラオーに関しては有馬記念の描写はあったものの、劇中では殆どセリフも無ければ登場もせず、更にジャンポケとの接点もまるで無い事からJCでの対決も史実をなぞっただけに過ぎないのでカタルシスを感じられず、ジャンポケが最強になる為の相手としては動機も伏線も接点も弱すぎる事を踏まえるとせっかくのラストラン(映画では)なのに白けてしまった
その癖本筋とは関係の無い描写(特に中盤以降)にそれなりに尺を割いており、モブやギャグ要素、アンバサダー芸人の出演的な描写も含めると「それ今見せる必要あるの?」という疑問が幾度となく浮かんでくるのが残念でならない
レース中も作画は良く出来ており、RTTTのような迫力を演出しようと頑張ってはいたが、肝心のレース展開への言及、出場キャラの心理描写などは殆ど無く、オーラと叫び声で誤魔化しているだけで史実であった主戦ジョッキーの神騎乗や戦略などは微塵も感じられず、ただ気合いを込めて走っているだけに過ぎない
実際の競馬は出走馬の傾向や事前調教、パドックでの状態、スタートからのレース展開、ジョッキーの作戦、天候や馬場、レース場や距離を含めた外的要因、故障や落馬といったアクシデントなどレースに影響してくる要因が多岐に渡るのだが、この映画のレースは総じて「結果が決まっているので、説明を省いて作画だけに全力を出しました」と言っているようなもの
例えるなら三国志で史実の結果のみを伝えるだけであり、そこにあったはずの群像劇(所謂フィクションだが三国志演舞のような要素)が全く見えてこないし見せようともしていない
if要素に関しては個人的には表現しても良いのだが、それは史実の再現と実際のレースの魅力を引き出してこそだと思うので本作に関してはウイニングライブを含めて蛇足感が強い(ライブの選曲、メンツにも疑問)
総じて評価するなら「監督や脚本家がやりたい事、見せたいものを描いた」だけであり、そこに説得力が生まれていないので、「キャラファンやコンテンツの為だけのファンアイテム」と化しているに過ぎない
個人的には素材は良かったのだが、調理に失敗している印象しかない残念な出来なのでリピートする事は無いです