「私の心には物語が伝わってこなかった。」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 東條胡桃さんの映画レビュー(感想・評価)
私の心には物語が伝わってこなかった。
私はウマ娘アプリユーザーでアニメやRTTTも見て、競馬も少々理解あります。
そんな私でも、感情移入ができませんでした。
RTTT劇場版も見てものすごい感動しました!これよりすごいのが来るんだと、楽しみにして見ました。たしかに作画はRTTTよりすごかったです。ただ、すごさのベクトルが自分が思っていたのと全く違う方向性でした。
【どこの客層にむけた作品だったのか?】
フジとポッケの実馬の関係性をしってる人ならいいんでしょうけど、知識がないと、ポッケに肩入れする動機が弱い、そのあたりの掘り下げが欲しかった。
フジトレーナーの人物像が謎、トレーナー小屋はなぜボロい?何故橋の下?引退してた?調教師のエピソードか何か由来なんでしょうか?
競馬やウマ娘の超マニアか全然知らない人とかのほうが楽しめたのかも、中途半端にしってる分へんな詮索ばかりしてしまった。
カフェのお友達についての説明がほぼないため、競馬知ってれば、サンデーサイレンスかな?とか思うけど、知らない人だったらわけわからん。
夏合宿に行く流れとか、アプリやってれば何も思わないけど、競馬知らない人はなんで夏にレースしないのかもわからないよね。
ウイニングライブは競馬のウイニングランのかわりで・・
ウマ娘知らない人と劇場版RTTTを見たのですが、なんで最後だけアイドルみたいに歌ってるの?と聞かれました。
アプリでは当たり前ですが、暑苦しいスポ根見たあと急にアイドル化する、というのは理解に苦しむと思います。
他にも元ネタあるんだろうなぁとか思うシーンもちらほら、わかれば楽しいと思う、でもわからなければ謎のまま進行していき、苦痛でしかない。
後ろでオグリが大食いしてるとか、ストーリー上関係ない小ネタならまだマシですが、物語の根幹の元ネタについては知識0でも理解できる形にして欲しい。
【フジキセキがほぼ主人公では?】
フジキセキが怪我で叶えられなかったダービーをポッケに託す。
というのは理解できるが、その描写に多くの時間が割かれていたため、ポッケの人物像や気持ちが掴みきれないまま物語が進行してしまった。
ここでコケてしまった人多いんじゃないかと思う、ここで感情移入できないと、どんな演出も台詞も心に響かずシラケてしまった。
フジキセキとポッケが河川敷で走るシーンって、見る人によっては、うぉーフジ先輩勝負服で走る!ポッケが復活するきっかけに!ってなるんだろうけど。
私は、え?フジ先輩走れるの?河川敷にそんなコースあるの?その勝負服ヤバない?って無粋なことを考えてしまった。こういうタイプの思考の人が今回ついていけなかったのかもしれないですね。
【アグネスタキオン、狂気の学者感出したいんだろうけど】
ウマ娘の研究をしているのはわかるが、具体的にどうしたいのかが謎、わかりやすく研究が活かされている描写が欲しかった。
練習しない勝利も興味ない、というのはキャラ設定上わかるが、血統や素質(ウマ魂)だけで勝てるってことなの?
真面目に練習してる娘たちは無駄なの?ってなってしまう。できれば、見えないところでは勝利に向けて努力してる描写があって欲しかった。
個人的にはタキオンの隣にいたトレ風の人可愛かった。
【怪我による引退】
フジキセキもタキオンも怪我で実馬は引退している。
フジはダービーをポッケに託し、タキオンは休止発表をする。
怪我で惜しまれつつ引退するからこその美学もあるとおもうんですよね・・・
しかし、ウマ娘という作品は怪我による引退を救済するストーリーが多い、そのため?か、今作においてフジやタキオンは怪我後も走るシーンが描かれる。
最終的には走れるようになるの?復帰見込みあるなら、そんな重苦しい展開にならないんじゃ?という疑念が発生してしまう。
これは今作の問題というより、ウマ娘という作品全体のジレンマかも。
【謎のアクセサリー】
ポッケが持ってるクリスタルあれなんですか?タキオンも部屋に同じのぶらさげてない?説明なくて謎のまま終わって出てくる度なんだろうって、最初から最後までストーリーの邪魔でしかなかった。
【登場人物多すぎ】
カフェって菊花賞勝ってたよね?というぐらい菊花賞の駆け足感。
走る理由お友達を追う?お友だちってなに?なんで追わなきゃけないのか?疑問だった。
ダンツは登場時間が少なすぎ、キャラの個性が感じられなかった、普通の作品ならモブ扱いだろうけど、アプリではキャラとして実装されるわけだから、出さないわけにもいかない。結果として中途半端な扱いになってしまった気がする。
クロフネの名前が出せないというのも、ウマ娘の都合上致し方なしですが、どうせ扱えないんだから、RTTTのラスカルスズカみたいなモブ衣装の扱いで片付けてもよかったかも。
ポッケの取り巻き3人組、ポッケのリーダー的存在をアピールするために登場したと思うのですが、劇中ではポッケのリーダー要素必要なかったですね。
3人組は途中でフェードアウトするか台詞なくてもよかったんじゃないかと思います。
オペラオーはRTTT見てるとか、テイエム来た!が好きな人なら、いいかもしれないですが、知らない人への凄さがわかりにくいですね。
ラスボス感はかっこよかったですが、JCでの一瞬の輝きが見えただけで、もっと深堀りを!と思いましたが、今回はオペラオーは主役級ではないので、あまり深い掘り下げもできず、これも史実を元に脚本を作らなければならない難しさですね。
ふわふわアヤベ、ネットでも話題にされてある意味成功なんでしょうけど、こういったキャラの台詞をカットして、メインのダンツやカフェの言葉にしたほうが心情が掘り下げられてよかったのでは?
トプロ&トレーナーも出番ありましたが、今回のトプロの活躍レベルなら、キングヘイローみたいに出走映像だけの出演でセリフはいらないのでは、もうこれ以上人増やさないでって見てました。
ウマ娘は大量にいて、いろんなファンに見てもらうため、大量に出したいというのは理解できますが、中途半端に台詞があると、この子はこのあと絡んでくるのかな?とか考えてしまう。けれど殆どの場合その後は大したからみもないので、ストーリー全体を見ると必要性を感じない。
もちろん、ネットで私の推しが出てた!とか話題になるのを加味して出しているとは思うが、重要なシーンじゃないのにキャラの濃い子たちが出てくると、そっちに意識が持っていかれストーリーを無駄に散らしてしまい、うるさくなっただけの気がします。
【レース名の出し方】
エヴァとかシン・◯◯みたいな雰囲気。
みんな同じゴシック体で背景は上空からのレース場写真。
どれが皐月賞でダービーで菊花賞なんでしょうか?思い出せない。
RTTTのときはコースの図解も作中に出てきて、スタートやゴール位置、直線が長い云々まであってわかりやすかった。
思い切ってレース名はアプリのロゴ使うとか、スタイリッシュさよりも、わかりやすさがほしかったですね。
【映像について】
作画は良いです。むしろ良すぎるのかもしれません。
画角も普段のアニメで使われるような、口パクだけとかの単調なものではなく、煽りや俯瞰といった奇抜なアングルからの、キャラを舐めるように動くカメラ。
技術は素晴らしいと思いますが、見やすいか?分かりやすいか?と言われればまたそれは別の話になってしまうのではないか?
最近のアニメはデジタル&3D技術によってかなり書き込めるようになりました、そのためリアリティは増しているのですが、逆に映像の情報量が多く何を重点的にみればよいか、わかりにくくなっているのかもしれません。
ウマ娘特有の問題かもしれませんが、小ネタが仕込まれている場面があるので、それを必死に見ようとしているのも、本来見なければいけない映像を見落としてしまう要因かもしれません。
もう中年の私が理解できなかったのはコンテンツのスピードについていけていないのかもしれません。
最近のアニメは「よく動く」「細かく描かれる」ことが良いアニメみたいなイメージもあると思います。ただ、延々と動き続けて細緻な書き込みがずっと続いて良いことではあるのですが、すべてが全速力で駆け抜けていってしまい、印象に残ったシーンというのがあまり思い出せない。手抜きとか中だるみと言われるかもしれませんが、印象的なシーンではあえて無音にしたり、静止画を長く入れたりしてメリハリがあったら私は嬉しかった。
【レースシーン】
序盤のただ走るシーンはかなり短くなっていたと思います。
カメラアングルが目まぐるしく変わるため迫力はありますが、位置関係がわかりずらく、レース展開とか掴む前にスパートシーンに入っていってしまった印象。
スパートシーンはかかっこよく描かれているとは思いますが、感情移入しきれていないため、エフェクト的なものばかりが目立って画面がうるさすぎるように見受けられました。
プリティーを捨てていてかっこいい、という評価もよく聞きますが、今作は行き過ぎてしまったと思う。猛々しくし過ぎかなって。
本当に最後の最後だけ出てしまう抑えきれない荒御魂!って表現なら良かったけど、序盤からプリティーは捨ててきたって感じ。
普段は女子中高生のウマ娘ちゃんが必死に努力して勝利を掴む!が見たかったけど、真ゲッターロボ見すぎたバ美肉おっさんが必死に叫んでる!が画面の向こうに見えた。
今作ではたくさんのキャラが書き込まれ、臨場感あふれるアングルで、たくさんの演出効果が描かれ、壮絶なレース映像を浴びせられました。制作者の熱意や技術力は素晴らしいのですが、すごいレース映像をお見せします!というドヤ感が見え隠れした気がします。走ることしかできないレースの演出には限界があるとは思う、それ故シリーズを重ねるたびにドンドン効果が足されていく。しかし、視聴者はすごい技術を見たいのではなく、よい作品に適切な映像効果をつけてほしいのです。
【尺足らずのストーリー】
本当に見せたいモノは何だったのか?小ネタばかりブッコミすぎでは?
とにかく彼女たちが何故必死に走っているのか伝わりにくかった。
そりゃウマなんだから必死に走るよ。勝ちたいに決まってるじゃん。だけじゃない理由が明確にほしかった。
RTTTのトプロはトレーナーと応援してくれる人のために、アヤベは亡き妹のため、オペラオーは評価されていない自身の能力を認めさせるため。というような走る目的が明確にあり、それを私は素直に応援できた。だからこそレースシーンでトプロもアヤベもオペラオーも頑張れ!って応援できて楽しかった。
今作においてポッケはフジ先輩やトレーナーのためなんだろうけど、ポッケ自身の最強を目指す理由が見えなくて、フジ先輩の身代わりで走ってるように感じた。
カフェとダンツはなんで必死に走ってるんでしょうか?その描写明確にありました?
タキオンは研究のため走るってことだと思いますが、自分の足を壊してまで走らなきゃいけない、研究の理由と内容がわからないので釈然としなかった。
菊花賞で主人公が勝つのなら3レースで終わるのに。菊花賞でポッケが負けてしまうため、JCでオペラオーという上の世代のラスボスまで出演させる必要があった。つまり今回のボリュームをやろうとするのに対して尺が短すぎる。ポッケメインならダービーとっておめでとう!で終わりでいい。しかし三冠の同世代にこだわると、その脚本ではマズい。史実を再現している。というのと、ライブの歌とか声優といった要素もあるのかな?ウマ娘特有のストーリーの組み立ての難しさ、取捨選択は今後に期待。
【主人公が2人以上いてもいいのでは?】
アニメ3期のピークアウトも違和感がありましたけど、競馬を元にしているため物語の構成としては破綻してしまうケースも有ると思うんですよね。1人の主人公で無理やり90分とかもたせるよりも、競馬の素敵なエピソードをウマ娘をつかって素敵にアレンジして短編集みたいにまとめたのを3、4本立てで流すとかでよくない?って思った。
実装ウマ娘と現役のサブキャラウマ娘の怪我による引退は、たとえ番外編であっても決してあってはならない事だって個人的に考えます。
育成ゲームの根本から破綻させるので、元も子もない話になります。
ウマ娘だからこそできるIF展開の醍醐味がありますし、馬主の皆様方も「史実より活躍できる」という要素に嫌な顔をされるとは思えません。
テレビアニメ版でもスズカとマックイーンの大怪我からの復帰で大批判を浴びたという話は聞きません。
また私はフジをお気に入りの一人としているので、劇場版でも引退まではしていない事とまだ戦力は健在であった事はほぼ唯一の救いに感じられました。
個人的には密かにリハビリに取り組み様子が描かれていればもっと良かったのですが。