「同期や覇王世代が、まるでその他大勢扱い」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 スミスさんの映画レビュー(感想・評価)
同期や覇王世代が、まるでその他大勢扱い
「はじめに」
ウマ娘のアプリゲームを2年以上プレイ中で、且つアニメ1期、2期、3期、RTTTも観ている中での感想です。
とはいえ、ゲームのサポカや全キャラクターのストーリーを読んでいない事と、史実の競馬の知識は乏しいので、それらの知識が事前に十分に持っていれば、もっと満足できたのかもしれません。
ここまで事前に書くのは、それ位に登場人物の性格や設定の説明描写がないからです。
(聞き逃しや読み取れるほどの知識・観察力が足りていなかったのならスミマセン)
史実に思い入れがあったり、ジャングルポケット・アグネスタキオン・フジキセキの3人が推しならば大満足かもしれませんが・・・といった印象での評価となっておりますので、ここから先はマイナスの事ばかり書きます。
ご了承の上でお読みください。
「懸念点」
①ジャングルポケットが何故「最強」を目指すのか不明
ウマ娘が本能的に競争と勝利を渇望するなかで、主人公のジャングルポケットがなぜ「最強」を目指すのか?そこは描かれているように見えませんでした。
ジャングルポケットがフリースタイルレース上がりという話は出るものの、そこが不良の溜まり場であり仕切っていたというのは、ウマ娘のアプリゲームをしていないと分からない前提知識です。
その後の仲間との会話でも、何か特別にレースに対する熱い思いが語られる訳でもなく、不良=負けたくない?のイメージで引っ張っているだけのように見えました。
劇中では勝てなかったダンツフレームでさえ、レースに出るからには1番になりたい旨を話しており、なおさら何故ジャングルポケットはその中でも「最強」を目指しているのか、主人公の個性・モチベーションとなっている部分が、他者との差別化が出来ていないように思いました。
ジャングルポケットがフジキセキのレースに魅せられた後のシーンでも高々と投げてキャッチしたプリズムの意味も特に説明がありません。例えば誰かとの思い出があるとか、託されたとかなく、それでも意味深に寄せる描写があったりします。でも説明がないので、描きたい側の演出と、観る側の立ち位置がズレているように感じました。
練習は一生懸命にしているし、時にはムードメーカー的に仲間を巻き込んで走ったり、慕われている描写もあるので、ジャングルポケットの人柄が良いことは分かります。
ただ、全編通して相手選手の分析やレースの作戦などの話はほぼ出ず、トレーナー任せな形であり、それがアスリートとしてどうなのか?相手選手へのリスペクトは走ってみてからの感想になっているけど良いのか?という、選手としての浅さみたいなのも描写が足りない為に良くない印象を持ってしまいました。
②RTTTの続編だけど、RTTTの皆の描写は薄い
際立っているのが最後のオペラオーとの対戦。
前年の有馬記念でのオペラオーの走りを観たトレーナーやフジキセキが驚いただけで、ジャングルポケット自体は、ジャパンカップ当日のレース中にオペラオー達の世代の凄さを目の当たりにしつつも、結局は勝ってしまうというストーリー。
なので、結果としてオペラオーの世代は本当に凄かったのか?と、映画のみを観た人には凄さが伝わらなかったのではないかなと感じました。
レース中の描写が激しかったので、そこで両者の強さが反映されているといえばそうなのですが、個人的に描写が激しかったのは、ダービーでのダンツフレームと競っているところ。
時折レースで競るときには、ゲッターロボ張りに激しい描写が繰り返されるので、オペラオーとのレースだから、という「だからこそ」みたいな決め手にはなりませんでした。
史実の結果を改変するわけにはいかないので、
せめてジャパンカップになる前のところで、練習で対戦して全然敵わないとか、覇王世代のレースを観るとかして実力差を感じて、燃えて練習に火が付くとか作戦をトレーナ達と練るなどの描写があれば、より燃える展開+納得感を得られたと思うのです。
ジャングルポケットが意気消沈するのは、いま走っている同期やライバルではなく、先に引退したアグネスタキオンの走りに一生追いつけない、負けっぱなしの人生だと思っていたからなので、オペラオーの世代は、ジャパンカップが始まるまでジャングルポケットの頭の中には居ないように見受けられました。
映画の中だけの描写だと、テイエムオペラオーってなんか凄そうな人なんだけど、一発で倒されたよねという「かませ犬」的な結論になっています。
特に対策を練っていたようにも見えず、ジャングルポケットの本能や才能だけで勝ったのかなという形に見えました。
本編はRTTTの続編という位置づけとの事だったので、RTTTのメンバーの掘り下げも多少あるのかと期待してしまっていただけに、かなり肩透かしを食らいました。
本編中で2~3言しか話していないのでは?の中でのRTTTのメンバーの印象
・ナリタトップロード:ジャングルポケットの同室だけど、ほぼセリフなし
・アドマイヤベガ:合宿先の布団と綿あめのフワフワソムリエ(ギャグ担当)
・テイエムオペラオー:結果としてかませ犬的な扱いにしかなっていない
・メイショウドトウ:テイエムオペラオーの従者かのよう
ジャングルポケットの頭の中には最後の方までアグネスタキオンがこびり付いているので、映画のラスボス的位置づけのテイエムオペラオーが、正直かませ犬的な扱いになってしまい、それが映画のラストのレースなので、かなり尻すぼみな結末になってしまいました。
最後にIFルートとしてアグネスタキオンが復帰(アプリゲームだと、マンハッタンカフェシナリオ等でも復帰してましたが)したものの、これは直接対決する描写はなく、やはり映画本編の中で描かれる最後のレースは、先のオペラオーとの件で終わりの為、史実も知らない人が見たら「え、対戦しないで終わるの?」と思うこと請け合いのラストでした。
③マンハッタンカフェの扱いが酷い
個人的にカフェ推しという事もあるのですが、
クラシック路線の終盤まで故障していたマンハッタンカフェが勝利する菊花賞、有馬記念、天皇賞(春)が本当にスルーされます。菊花賞で勝つシーンは、アグネスタキオンが再生する画面上でしかなく、誰もその実力を称賛したり恐れたりしません。
そのため、史実を知っているかアプリゲームをしている人でないと、映画のみの印象だとマンハッタンカフェは「お友達」の事をやたら話すスピリチュアルな?、でもなんか練習や合宿に付き添っているコーヒー好きな人?くらいの印象しか持たない描写になっています。
合宿や練習にはスイープトウショウも当然のように加わったりするので、よりマンハッタンカフェがその他の1人のような扱いで存在感が薄いです。
映画公開前の情報だと、もっとジャングルポケットの同期がそれぞれ色々と描かれるような印象(覇王世代も同様)でしたが、蓋を開けると、ジャングルポケット5割、アグネスタキオン3割、フジキセキ1.5割、残りの登場人物で0.5割を奪い合うくらいの尺とセリフでしかなかったです。
ダンツフレームも、なんか競るけど負ける人と言う位置づけになってしまい、同期なんだけど型落ち感が否めない。
史実としては宝塚記念を優勝しているけれど、今回の映画の主要キャラクターが出走していないからか描けず、ダンツフレームの凄さも日本ダービーだけの印象しか残らず、そこがピークだったのか?みたいな印象で終わってしまう。
性格として、ジャングルポケットが荒っぽく、アグネスタキオンが狂気じみていて、マンハッタンカフェは一歩引いて存在感薄く+スピ系で、同期の中でダンツフレームが唯一の常識人ポジではあったのですが、先に書いたように同期で満遍なく描いていく映画ではないので、ポッケ・タキオン・フジの3人をがっつり描く構成からあぶれた同期も覇王世代もレースに出てこない間は本当に存在感がない形です。
その関係で、ジャングルポケットと走ったレースですら省略されたマンハッタンカフェは、その中でも群を抜いて存在感が薄くなってしまいました。そこがかなり不満です。
ジャングルポケットがテイエムオペラオーに勝利したジャパンカップを最後にする構成なので、その後の天皇賞(春)などを描けないのは理解できています。
それだけに、それなら映画中の時系列のなかで見せれるクラシック路線の最後の菊花賞は描いて欲しかったなぁと切に思った次第です。
④ウマ娘の引退と復帰の基準が不明
娯楽作品なのだから割り切ろうという視点もあるかと思うのですが、
見るものを魅了する素晴らしい走りをしたフジキセキとアグネスタキオンが、それぞれの葛藤や諦めも含めて一度は引退を決断します。
足のケガなどが原因で、たとえ復帰しても日常生活に支障が出ない程度、現役の選手に追いついて勝利する程には回復できないからの引退と予測されます。
ウマ娘のアプリでも描かれますが、ジュニア・クラシック・シニアの各1年間は非常に重たいです。それ故に、故障後の引退から復帰はリハビリや練習を頑張っても全盛期には戻せるのは稀。
ですが、この2人は2人とも映画後半でIFルートとして復帰します。
それ位にジャングルポケットの走りに勇気づけられた・嫉妬したと解釈はできるものの、引退が軽く感じてしまい、いささか納得感が足りなかったです。
足のケガがキッカケで一時の燃え尽き症候群で引退を決意し、ジャングルポケットの走りを見て火を点け直したから復帰という話なのか?
柳の下でのフジキセキとジャングルポケットの描写が、カエルの姿に勇気づけられて奮起する書道家と重なるなど憎い描写もあるが、そういう分かる人にしか分からない描写で、急に河原であの勝負服で走るのは見る側としては結構驚く。EDではなくて、後半でフジキセキが復帰するのは性急すぎた感があります。同期他が励ますのは弱いと考えたからなのかな…
「さいごに」
ジャングルポケット、アグネスタキオン、フジキセキ推しの人には大絶賛な映画だと思うのですが、それ以外のキャラクターの描写を期待されていた方からすると、かなり肩透かし・拍子抜けをする映画となっています。
レースの激しい描写をスクリーンで味わう絶好の機会なのですが、先にRTTTがyoutubeや映画でやっているので、そこを売りにし過ぎるには弱いかなと言う印象。
アプリゲームをしている身からすると、時折ゲーム内のキャラクターが観客の中や電車・廊下・黒板他に紛れているのを探すなどの楽しみ・小ネタもあり、そういうニヤッとする楽しみ方もできました。
アプリゲームの友人カードからですと、安心沢と3女神以外は居ましたよね?あとアストンマーチャンのトレーナーも確認しました。
リピートするときの楽しみの一つとなる事でしょう。
3期をリアルタイム視聴した身として
登場人物が多く、且つ1人の戦績に重点を置きすぎた結果、主役以外の人物の描写が「結局どういう人なの?」で終わってしまったのが、デジャヴに近い感覚でした。
3期終了後にドゥラメンテらが実装された時と同様に、ジャングルポケットがアプリゲームに実装されれば描写の保管があるのかもしれませんが、それを映画本編の評価と結び付けてはいけないでしょう。
それ故に、アプリゲームの楽しみ・ネタバレにならない程度にキャラクターの描写に深みを与えるべきだったのでは?と思ってしまいます。それ位に深みがないです。
史実とのバランスを考えつつ、師弟関係とかライバル関係、挫折と復活、上の世代に勝つ、描きたいものがある中で取捨選択が大変だったとは思いますが、描くレースと描かないレースにメリハリがある訳ではなく、なぜこのレースの描写は長く、このレースは省略されたのか?の基準があいまいで、それもバランス感覚を欠いた印象を持った要因となりました。
ウマ娘自体のコンテンツは好きですし、今後もできる範囲で見届けたいとは思うのですが、今回の映画は大ヒットは難しい出来なのかなと感じた次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。