「他を知り俯瞰する寡黙な同行者の1人になる」ゴッドランド GODLAND humさんの映画レビュー(感想・評価)
他を知り俯瞰する寡黙な同行者の1人になる
〝現地の人々と環境に適応するように努めろ〟
司教は、30年前の自分と似ていると言う牧師•ルーカスにあえて厳しい任務を与えたが、その不安は的中していく
デンマークからアイスランドに舟が着く
船酔いでよろよろと歩くルーカスと対比させるようにそこに根をおろす浜はこべ(?)のたくましさが印象的だ
そして始まる布教のための陸路
遠く続く平原はルーカスとガイド•ラグナル率いる一行の平行線のままの関係にみえ、増水していく河は深まる溝を暗示し、ちらつき始めた雪が想像以上に過酷な旅を想像させる
風土、風習、それらから生まれる時間の感覚の差、言葉などに馴染めないルーカスは現地同行者の精神や肉体の強かさを目の当たりにするたび気を滅入らせているようだ
植民地に降り立った神職者としての自負がややこしい感情を刺激しているのだろう
敬意を払う様子はまるでない
過酷な大自然のなかで次々起きるアクシデントに剥き出しになるルーカスの人間性
周りの人々が助け舟を出すものの主たる任務を成し遂げるには致命的なのは彼の〝わかりあうつもりのなさ〟なのだ
彼を見通し意地悪したくなるラグナルとはウマがあわず、皆の辛抱強い見守りも見限りに変わっていったと思う
半ば自分のエゴで命を落とした通訳の残像や物言いたげにじっとみつめる犬にさえ責められている気がするほど衰弱したルーカス
瀕死の状態で倒れついに自然の掟により放置を余儀なくされた
淡く霞む山々がみおろす草原で死を覚悟したような彼は我を省みることなく神を責めただろう
しかし彼はラグナルに助けられ、デンマークにルーツがあるカールの家庭に運ばれていた
ハーブ療法などで献身的にに介護され体は回復する
しかし、ルーカスの目は虚ろで姉の心が宿るようなシジュウカラのさみしげな歌だけが閉塞する気持ちに響いている
挟み込まれる司教の曇る目を思い出しつつ、案の定、支援や仲介を無駄にして浅はかさを繰り返してしまうルーカスに私も絶望してしまう
だからこそ岩場でのラグナルの要求と懺悔は胸を打った
あれは別れの前にルーカスにさしのべた最後の思いやりであり渾身の賭けだったのだろう
しかし彼の狂気はそれにも気づかず最悪な道のりを選びとった
白夜と荒涼の旅路の果て、若き牧師にお手上げし神は消え去った
父の様子から牧師が2度と赦されないのを察した姉
その硬直した眼差しの鈍い光と雪解けの草むらで最後の祈りをささげた妹の清らかな涙に自然の一部の自分達が抗えないことを理解しているのを感じた
かなしいかな牧師はあの世に行ってもまだ彼女たちがそれぞれ心の奥にしまったものなどには気が付くことはないのだろうが
次々と息を呑む美しさで惹かせながら決して寄せつけない厳かさも抱え持つ大自然に囲まれ、立場や考え方の違う小さな人間たちの右往左往は、そばで感じる動物たちの純粋さを知るほど滑稽に映った
そして、凝り固まる人の頑なさと身勝手さは地上の平和の仇であるということを思い知る
地位や栄誉にこだわり、虚勢を張り、欲に囚われ、エゴに走る人間が放つおそろしく強烈に哀しい匂いは、遥か昔からあり未だに変わらない生と死の匂いだ
不思議なうなぎの話にもぷんぷんと漂うものがあった
怒りの身代わりに引き裂かれたうなぎたちの跡にも、羊や鶏や馬や人間がそれぞれの理由で断たれた運命の跡も皆そうだったように、その土の肥やしになり新たな息吹きとなる
自然はたゆまず力を貸し地球の傷跡に寄り添い続けているのだ
何よりも忘れてはならないことはそれへの畏怖につきるのかも知れない
自然、文化、言葉、宗教(思想)、歴史を駆使した巧みな物語の力がものすごい重量で心を抉る
時代をこえて訴えかけてくる圧巻の余韻が深く留まる