劇場公開日 2024年3月30日

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「神vs神」ゴッドランド GODLAND かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0神vs神

2025年1月12日
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デンマーク人の巨匠カール・テオ・ドライヤーを評して、その昔日本の大島渚監督がこんなことを述べていました。(キリスト教の)神と対峙する覚悟をもった映画監督である、と。敬虔なプロテスタントその中でも特に厳格なことで知られるルター派の教えを国教として定めているデンマークでは、ラース・フォン・トリアーをはじめとして反キリスト教的な映画を撮る映画監督が多いような気がします。

デンマーク国教会からアイスランドに布教のため派遣されたルーカス牧師。教会建設予定地には船で行けば楽チンなのに、わざわざ過酷な陸路を選択するのです。その案内役ラグナルは道中ことあるごとにルーカスと対立、水かさの増した川をルーカスが強引に渡ろうとしたことがきっかけで、唯一言葉の通じる通訳を失い、心身疲労したルーカスも途中でいきだおれてしまうのです。

そんなルーカス牧師の唯一の趣味が写真撮影。陸路を選んだ理由の一つに、壮大なアイスランドの自然を写真におさめたいという欲求があったのでしょう。この映画正方形に近い変わったアスペクト比が用いられていることにお気づきかと思われますが、まるでルーカスがカメラで撮った写真のように映像の四隅がラウンドしているのです。おそらく、写真家でもあるルーカス牧師をアイスランド生まれのデンマーク育ちフリーヌル・パルマソン監督の分身として演出しているのでしょう。

では、ルーカス牧師いなパルマソン監督が、フィルムにおさめたかったものとは一体何だったのでしょうか。それは、デンマークという文明国家が持ち込んだキリスト教的な“神”と対峙する、荒々しい手つかずの自然の中に息づく神々の姿だったのではないでしょうか。霧に煙るゴツゴツとした岩山、飛沫をあげながら落水する大滝、強風に耐えられるよう砂地に張り付くようにして生えている植物におおわれた草原、黒々とした岩肌を切り裂くように流れ出る真っ赤な溶岩....そんな大自然のダイナミズムの中に監督は“神”を見いだしていたに違いありません。

命からがら運び込まれた教会建設予定地で、神々の宿った大自然に圧倒されっぱなしのルーカスは、そこで大罪をおかしていくのです。この辺りは、同じアイスランドを舞台にしたスリラー『ラム』と同じ演出といえるでしょう。自分が自信満々で辺境の地に持ち込もうとした神が、大自然を前にどんどんどんどん小さく卑近に見えてきてしまったルーカスは、キリスト教の教えを次々と破っていくのです。道案内係のラグナスとルーカスの対立関係にそれがよく暗示されているように感じられます。

地元民にはひたすら尊大でお礼の一つも述べることなく、殺人、姦通、盗みまでし出かした挙げ句結局逃げだそうとしたルーカス牧師が、アイスランドが過去に不参加を決定したEUに重なって見えてしょうがなかったのですが、ご覧になった皆さんはどんな感想を持たれたのでしょうか。死んだお馬さんの肉が腐敗しやがて白骨化して自然に返っていく。まるで仏教の九相図のようなこのシークエンスこそが、神の御業に他ならないのではないでしょうか。そこには国家も文明も宗教も存在しない、あるがままの自然の営みだけが撮されているのです。

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かなり悪いオヤジ