「プラバース、危険に向かうが本能か。 そんなに高圧的な「プリーズ」があるかっ!!」SALAAR サラール たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
プラバース、危険に向かうが本能か。 そんなに高圧的な「プリーズ」があるかっ!!
治外法権の犯罪都市国家「カンサール」に起因する暴力の連鎖の只中に身を置く”狂気"の男、デーヴァの戦いを描いたバイオレンス・アクション。
『バーフバリ 王の凱旋』(2017)、『RRR』(2022)、『Kalki 2898 AD』(2024:日本公開未定。死ぬほど観たいぞ!)に次ぐ、テルグ語映画史上第4位の興行収入を記録する2023年における南インド最大のヒット作。
主演を務めるプラバースはテルグ語映画トップ4のうち3作品で主演を務めているトップスター中のトップスターである。
『チャトラパティ』(2005)や『バーフバリ』シリーズ(2015-2017)など、とにかく地上最強の男を演じさせればこの男の右に出るものはいない。
槍の一突き、刀の一振りで数人をぶっ殺すことが出来るインド最強のワンマンアーミーっぷりは本作でも健在で、インド政府でも手出し不能な極悪独裁都市という「んな訳ねーだろっ!!」というトンデモ設定も、プラバースの肉体的説得力により「まぁそういうこともあるか…」と飲み込めてしまうから不思議。流石スーパースターは違う。
構造としては『バーフバリ』シリーズを思い起こさせる。まずは謎に満ちた現代パートを描いておいて、そこから因縁が明らかになる過去パートに時制を飛ばし、そして次回作で過去編と現代編のクライマックスを描き切ろうとしている。
今後の展開的に親友と敵対することになるのだろうが、そこからは『RRR』の影響を感じずにはいられない。
大スターを起用し、ヒット作の定石を踏む。とにかく何がなんでもこの映画を当ててやろうという意気込みというか気迫が本作からは感じられる。
二部作の前半ということもあり、クライマックスへのネタ振りに終始している感はある。この一作だけではまるで物語に決着はついておらず、ヒロインが命を狙われる理由すら正直よくわからない。
しかし、現在パートと過去パート、それぞれに明確な見せ場が用意してあり、その画力の強さには脱帽するより他ない。
本作は典型的な「舐めてた相手が殺人マシーンでした」映画。喧嘩もできないヘナチョコ〜〜笑笑なんて虐げられていた男が、実は最狂のヒューマノイド・タイフーンでした、というなろう小説も真っ青な厨二病ど真ん中な作品である。
このプラバースのブチ切れっぷりが超爽快!✨1時間近く舐められ続けた主人公が、暴力的な扱いを受ける女性の姿を見てついに爆発!「てめえらに今日を生きる資格はねえ!!」と、ケンシロウばりのバイオレンスを見せつけてくれる。この女性のために封印していた力を解き放つというのが、女性差別というインドに根付いた悪習へのカウンターになっている。こういう問題提起を見せ場と直結させているところがなんとも良い♪
悪漢をぶっ飛ばした後にブーツに挟んでおいたタバコを吸う、殺したザコたちの手がまるで千手観音のように主人公の背後で扇状に広がるなど、超絶カッコいいシーンが漫画でいう見開きのような感じでドンッ!!と映し出される。これがたまらなく快感!アクション映画はこうでなくてはならないと言いたくなる、素晴らしい見得を観る事が出来、それだけでもう大満足という感じです😋
”狂気”と呼ばれる主人公。その二つ名は伊達ではない。一度動き出したら止まらないその殺人マシーンっぷりは映画史に残るレベル。親友を守るためならいついかなる時でも即座にスイッチが入ってしまう。特にあの大領主をぶっ殺すシーンなんて本当に見事で、拍手を送りたくなっちゃった👏そんな高圧的な「プリーズ」があるか!!
人を斬れば手足が吹っ飛ぶし、首チョンパも日常茶飯事。返り血の量も半端ではない。インド映画のバイオレンス描写はもっとマイルドなものだと思っていたので、ここまでハードに描いても良いんだなと少々驚いてしまった。なんにせよ、暴力を暴力的に描けているという点だけをとってみても、本作はとても芯の通ったバイオレンス映画である。ハードなアクション映画ファンにはマストで鑑賞して欲しい一作である。
暴力の嵐を描くためか、色彩は全体的に暗め。鮮やかなのは返り血の赤色くらい。このノワールな雰囲気は悪くないのだが、反面インド映画らしい鮮やかでカラフルな画面が恋しくなってしまうのもまた事実。
また単純に暗すぎて観づらく、せっかくのアクションが勿体ないなと感じてしまうシーンも多かったので、もう少し色調を明るくしても良かったように思う。
1番問題だと思ったのは謎の部分を引っ張りすぎな事。前述した通りなぜヒロインの命が狙われているのかよくわからないし、ヒロインの命を狙っている者たちの正体はなんなのか、主人公は一体何者なのか、そういった事がまるで明かされないまま1時間30分くらいドラマが続く。これだけ長い間色々な物事を放置されてしまうと、なかなか物語に気持ちが入ってゆかないのです。
後半はガツンと盛り上がるのだが、前半はどうにもたるい…。もう少し早めにギアを上げて欲しかった。
また、この映画登場人物がとっても多い。とっても多いのだが、我々日本人にはインドの人たちの顔の見分けがなかなかつかない💦ただでさえみんなおんなじ顔に見えるのに、さらに髭で顔の半分覆われてるし、もう無理だわこれ。
名前も全然覚えられないし、部族の名前もごちゃごちゃしてるし、正直後半のカンサールパートはバイブス重視で観てました。ぶっちゃけ誰と誰が敵対してんのかよくわかってない😑
本国インドの人なら問題ないんだろうけど、こういうところにはどうしても文化の壁を覚えざるを得ないのであります。
インドでバカ当たりしている割には、日本では全然話題になっていない…。『RRR』はあんなにヒットしたのに…。みんな『RRR』級の面白さを期待しているのだろうが、あれと同じレベルを求めるのは流石に酷というものでしょう。
『RRR』と比べなければ十分面白い映画なので、もう少し注目されても良いと思うんだけどなぁ。
※原題は『Salaar: Part 1 – Ceasefire』。
ちゃんとパート1であることを明示しているが、日本公開時にそれを取っ払っちゃった。
日本の興行ではこういうことがよくあるけど、普通に考えてこれアウトだよね。「全然お話し終わってないじゃねーか!!😡」なんて怒っちゃう人が出てきても不思議じゃない。配給会社の人たちには、もう少し消費者目線でモノを考えて欲しいものである。
共感いただきありがとうございました。日本人がイマイチ馴染めないこの映画の土着的背景、インド映画の癖みたいなもの?・・・が正確に言語化されていて素晴らしいレビューと思いました!