劇場公開日 2024年2月2日

「わかりやすさを優先されたのかもしれないが…」夢みる給食 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)

わかりやすさを優先されたのかもしれないが…

2025年1月19日
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鑑賞方法:その他

同監督の他作ではあまり気にならなかったのだが、本作に関していえば、根拠となるデータの扱いがあまりに雑で、医学的根拠や環境問題を語る人物についても、肩書きで権威づけようとしている様に見えてしまった。難しくし過ぎないという配慮なのかもしれないが、「オーガニックのよさ」の根拠が、雰囲気でしか伝わってこないし、給食をオーガニックにしたことで、発達障害に起因する課題が少なくなったという言説等、ドキュメンタリーと謳いながら、乱暴過ぎる表現も何ヶ所か目に付く。そのため、申し訳ないが、見たくもないのに流れてくるネットCMや、煽りで視聴者を増やそうとするYouTubeに似た肌触りを、自分は感じてしまった。

映画の言わんとすることはよくわかる。子どもは食べたものでつくられていくというのは間違いないし、小さい頃口にしなかったものは、大人になって味覚が変わっても口にできないので、舐めるだけでも大切という話も聞く。なので、給食を中心に、子どもの食を大切にしていこうということ。そのために、努力されている方々がたくさんおられるということ。そうした力が集まれば、市町村単位や、各給食センターであっても、可能な取組はいくつもあるということ等々。
それらに関しては、全く異論はないし、大切なことだと思う。

けれど、本作は、オーガニック食材を使っていない現在の給食は、まるでダメという言い方こそ出てこないが、「よい給食」=「オーガニックかどうか」で線が引かれてしまったため、映画自体が、今もできる範囲の中で、精一杯子どもたちの育ちを考えて努力されている方々が浮かばれない構造になってしまっているところが残念。

例えば本校には、その時々の一番いい物を搬入してくれる地元の各農家さん(本当に「子どものために」と細々とつくり続けてくださっている)や、デザートのりんごも、その度に違った品種で準備してくださるりんご農家さんが支えてくださっている。そして、そうした食材の調達について、コーディネート役を果たしてくださっているJAの係の方もいる。食材の高騰は悩ましい問題だが、それを回避するために簡単に大量加工の冷凍食品に手を出すということはなく、地産地消が叶わなければ、国内産の確かなものをと考えて栄養士さんも努力を重ねている。それに、市長や教育委員会や農政課も、給食に関しては、シティプロモーションという視点からも、力を入れようとしている。なので、有機米や有機野菜に本当に価値があって、科学的なエビデンスが関係者に共有されたとするならば、ある一つの難しい問題以外は、取組スタートの壁は決して高くはない気がする。

では、難しい問題とは何か。それは、農業従事者の高齢化だ。有機米や有機野菜の生産に舵を切るとして、それだけの資金や意欲や体力が、果たして各零細農家さんにあるかというと、かなり厳しい印象をもっている。
映画後にオオタ監督が述べていた様に、他人を変えて動かそうとしてもうまくはいかない。この取組が動き出すためには、まず、有機米、有機野菜栽培を行おうとされる方々が出てきてくださるかどうか。そこにかかっているように思う。

また、給食にまですぐには結びつかないかもしれないが、それぞれの学年・学級で取り組んでいる、生活科や総合的な学習の時間を手がかりに、まずは子どもたち自身が有機米や有機野菜について学んだり、自分たちで作ったりしてみるということもよいきっかけになりそうだと思うがどうか。

sow_miya