「スタント出身の監督だから描ける裏方の熱量。セルフオマージュ&パワーアップした演出も見どころ。」フォールガイ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
スタント出身の監督だから描ける裏方の熱量。セルフオマージュ&パワーアップした演出も見どころ。
スタント出身のデヴィッド・リーチ監督が手掛ける、スタントマンを主人公とする作品。早速冒頭のスタントシーンから、現場の緊張感を無線の音声によって作り上げているところに「さすが」の一言が頭に浮かんだ。映画の裏側を見せるということは、スタント上のワイヤーや安全装置も丸見えになってしまう。それではインパクトも半減じゃないかと思ったけれど、現場の段取りや無線でのやりとりで作られる緊張感が、補って余りある役割を果たしていた。
そんなスタントシーンがあるからか、密売人やトムたちとの「(作中では)スタントではない」アクションがより真に迫る迫力があった。一方でスタントマンという職人芸を活かして車に轢かれたり、空砲で撃たれたフリをしてやり過ごすスタントマンとしての特技が光るアクションも面白かった。
物語からはスタントマンという役割と、その矜持を感じた。
主人公・コルトはスタントでの怪我によってふさぎ込み、仕事やガールフレンドのジョディと距離を置く。本来であれば復帰までの苦悩をジョディに吐露してもいい状況だが、スタントマンはセリフのない職業だ。仕事では一流の腕を見せるのに自分の気持ちを上手く伝えられないという設定が、スタントマンという役割に重ねているのが巧い。そしてその「セリフがない」というスタントマンの役割が、怪我をしたら使い捨てられて当然、といったようなコルトの「フォールガイ(身代わり)」としての覚悟を感じる序盤だった。
しかし再びジョディと再開することで、コルトが、コルト自身の人生において身代わりではなく主役であることを自覚したように感じた。だからこそトムが仕組んだ身代わりの陰謀にスタントマンの技を活かして立ち向かう。「スタントマンは所詮身代わり」と軽視するトムにスタントマンとしての矜持を叩き込むラストは、シンプルながら大暴れするカタルシスにあふれていて、とても楽しかった。
デヴィッド・リーチ監督が関わってきた作品のセリフオマージュも印象に残った。
冒頭で自作品のアクションシーンを使っていたり(『アトミック・ブロンド』のアクションがやっぱりカッコいい…)、『ワイルド・スピード』のセリフを引用してたり、リーチ監督がスタントとして参加していた「ボーンシリーズ」っぽいアクションをやりながら「ジェイソン・ボーン!」ってセリフがあったり。
そしてなにより『ジョン・ウィック パラベラム』を彷彿とさせる犬・フー。犬が出てきた時点でまさか…と思ってたけど、犬が走り出したときにはテンション上がった。さらには序盤のダッヂチャージャー、終盤のジョディのペンと本を使ったアクション…『ジョン・ウィックシリーズ』ファンとしてはニヤリとするところが多かった。
パワーアップした演出もあった。『ジョン・ウィックシリーズ』や『ブレット・トレイン』にもあった、蛍光色を使った画面の色味。『ジョン・ウィックシリーズ』では画面内の明暗をハッキリさせるために使っていたり、『ブレット・トレイン』ではサイバーチックなネオンや「ヘンテコ日本」的色味の演出が印象的だった。
本作ではヤクを飲まされたコルトの、サイケデリックになってしまった視界の表現で使われていた。それだけだったら今までとほとんど似たような使われ方だけど、本作では時間速度の変化、相手への攻撃に合わせた明度の変化があって、よりインパクトあるアクションシーンになっていた。
「スタント出身監督」ならではの物語と、「デヴィッド・リーチ監督」ならではのアクションや演出が堪能できる一作だった。