「女子高生の口を借りたジェンダー論」水深ゼロメートルから 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
女子高生の口を借りたジェンダー論
舞台劇っぽい映画だなと思ったら、何と徳島市立高校の演劇部の生徒が原作を創った舞台劇の映画化作品でした。
野球部のグラウンドから飛んできた砂まみれの空っぽのプールを、女子高生たちが掃除しながら悩みをぶつけ合うお話ということで、青春ど真ん中のお話でした。ただ単なる青春群像劇に止まらず、野球部のエース(勿論男子)に水泳で負けてしまった女子水泳部の部長の挫折であったり、子供の頃から阿波踊りの男踊りを踊ってきたものの、高校生になって恥ずかしくなって来た生徒の微妙な心情であったり、周囲に可愛がられることを目的に、熱心に化粧をする生徒の屈折した心理だったりと、彼女たちの悩みは”女”であることに起因したものでした。そういう意味では、思春期の悩みに絡めつつも、彼女たちの口を借りて”女性”全般、そして”性差=ジェンダー”というものを考えさせる話になっていて、非常に興味深かったです。
映像的に面白かったのは、野球部のグラウンドから飛んできたらしい砂を掃除するものの、一向に片付かなかったこと。まあ彼女たちがあまり真面目に掃除していなかったこともあるのですが、何となく賽の河原で石ころを積み上げても、鬼に壊されてしまう光景を連想しました。つまりは、彼女たちの悩みは中々簡単には解決しないんではないかと思わせられました。
そしてそんな砂の上を泳ぐ真似をしてみたり、阿波踊りの練習をしてみたり、はたまた本音を言い合って喧嘩してみたりと、この辺りは青春ドラマそのもので、微笑ましかったです。
最終的に、本音をぶつけ合い、先生を含めて相手の心の内を知り、そして自らの心の整理をつけ、前に一歩進んだところでエンディング。正直それほど期待していた訳ではないだけに、意外に面白い一作でした。
難を言えば、時間の概念が緩すぎて、テンポが感じられなかったこと。また、夏日の炎天下でプール掃除をしているのに、彼女たちがあまり暑がっておらず、全く汗をかいておらず、そのため臨場感があまりなかったように思われました。また、砂の上を泳ぐ真似をするのに、制服が全然汚れなかったのもあれって感じでした。まあ話の本論とは関係ないと言えばないことなので、無視しても良いと言えば良いのですが・・・
そんな訳で、本作の評価は★3.5とします。