「良さはある映画と思われましたが‥」水深ゼロメートルから komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
良さはある映画と思われましたが‥
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
まるでアイドルPVのような魅力を持った瑞々しい映画だとは思われました。
ただ映画の内容は一方で、その表現の仕方とは違って重さも秘め、しかしその踏み込みは本質の手前で終わっているようにも感じられました。
その理由は以下だったと思われます。
まだ男女区別が未分化の子供時代の男踊りにこだわるミク(仲吉玲亜さん)と、同様に中学では男子に水泳で凌駕していたチヅル(清田みくりさん)の、おそらく女性への自身の身体的変化に戸惑いある2人の悩みは、本質的には対男性に振り回されていて、本当の自身の望みの底には到達出来ていないとは思われました。
また、化粧をして女性を意識して生きようとするココロ(濱尾咲綺さん)も、ミクやチヅルとは一見対照的に見えながら、本質的には対男性に振り回されていて、自身の望みの底に到達出来ていないのは2人と同様だとは思われました。
このことは、ルールにこだわり、自身は化粧を周りの価値観に配慮して抑制している山本先生(さとうほなみさん)も同様だと思われました。
即ち、(後輩のチヅルに期待をかけていた水泳部の元部長ユイ先輩(花岡すみれさん)はそこまで描かれていませんでしたが)男踊りにこだわるミク、水泳部のチヅル、化粧にこだわるココロ、そしてルールに縛られ自身感情を普段は抑圧している山本先生は、男性の陰や価値観に振り回され、一方で女性としての戸惑いや不安定さの感情あるいは自身が本当はどうしたいのかの本音を、直接はほとんど表現出来てないように思われました。
この悪く言えば幼く、良く言えば可愛らしさの魅力は、映画の表現としてはその方向性としては成功している面もあるとは思われました。
ただ一方で、映画では直接登場しない男性に翻弄されているのは分かったけれど、それぞれ自身はそれで男性関係なくどうしたいのだというリアルな心情への踏み込みの弱さが、この映画が食い足りなくさせている要因に思われました。
(ラスト辺りの化粧にこだわるココロの女性として生きる表明も、趣旨は男性の価値観に依存して生きるしかないとの内容で、本当にそれはリアルな彼女自身の本音の心情なのか‥とは疑問を持ちました。)
もちろん、”女性の自立”などといった、リアルな心情から遊離した空疎なスローガンでは全くの台無しですが、それとはまた違う、それぞれの彼女たちのリアルな底の本音は何だったのか、それを表現するもう少し映画としての踏み込みは必要だったのではないかとは思われました。
それがこの映画の、可愛らしさの魅力と、食い足らなさの欠点の、要因だと僭越ながら思われました。