「ラップとワーグナーと金塊と」RHEINGOLD ラインゴールド 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
ラップとワーグナーと金塊と
クルド出身の主人公、ジワ・ハジャビの激動の半生を描く映画でした。”事実から着想を得た物語”ということで、実在の人物であるカターことジワ・ハジャビをモデルにしていますが、金塊強盗はさすがに創作でしょう。
まあ何処までが本当で、何処からが創作なのかはさておいて、序盤に描かれるジワの生まれた前後から、ヨーロッパまで逃れていくまでの物語と映像は、かなりリアリティがあって怖かったです。元々イランに住んでいて、父親がオーケストラの指揮者だったジワの家族でしたが、1978年に始まったホメイニ師を指導者とするイスラム勢力によるイラン革命の影響で、洋風の音楽会は反イスラムとされて襲撃され、その上クルド族は弾圧の対象に。そして母親がジワを身籠る中、クルド族の居住区に砲撃の雨が降り注ぐ。この砲撃シーンは、自分が砲撃を受けているんじゃないかと思えるほどの映像と爆音で構成されており、本当に震えました。しかもそんな砲撃を掻い潜って、ジワの母は一人洞窟に逃げ込み、一人でジワを出産するんだから衝撃でした。序盤のシーンでしたが、ここが本作で一番印象に残るところでした。その後もイランイラク戦争の中、イラク経由でヨーロッパを目指すも、イランのスパイと言われて拘束されるなど、ジワ一家の苦難は現在のパレスチナやシリア、アフガニスタンなどにも通じるものが感じられました。
何とかヨーロッパに移り住んだジワの家族でしたが、両親の離婚で赤貧に陥ることに。ここからはある意味良くある話で、ジワがアンダーグラウンドに落ちていく様を描く物語に。学校でのポルノビデオの販売を手始めに、ドラッグの密売やバーの用心棒など、今風に言えば半グレ道をひた走る。そしていよいよ金塊強盗までするジワとその一味たち。まあこの辺りの話だけ観れば眉を顰めざるを得ない話なのですが、何せそれまでのジワの苦難の人生を見せらているため、結構感情移入してしまいました。
最終的に金塊強盗の容疑でドイツで逮捕され投獄されたジワでしたが、獄中でラップを作り、刑期を終えた後には音楽の世界でトップに上り詰める。隠した金塊の在り処を愛娘に教えたところでエンディング。そして、「ラインゴールド」という題名が、何故付けられたのかも教えてくれる親切設計でした。
そもそも「ラインゴールド」と言えば、かのドイツが生んだ天才音楽家であるワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」4部作の第1部として有名。邦訳すれば「ラインの黄金」となりますが、本作でもワーグナーの調べが流れてました。同じ音楽とはいえ、ラップとクラシックというかなり離れたイメージのある両者を結び付けて創られた中々面白い作品でした。
そんな訳で本作の評価は★4とします。