「悲恋もまた恋なり」チェンソーマン レゼ篇 yuki*さんの映画レビュー(感想・評価)
悲恋もまた恋なり
藤本タツキ氏の漫画を初めて手に取ったのは「ファイアパンチ」で、一巻読んだところで「ふぅ、【変な漫画】だなぁ」と思った。良い意味でも悪い意味でも、他の誰かがレビューしていたように、頭のネジが何本か飛んでいる。感性に歪みがなく、まっすぐファンキーな方向にぶっ飛んでいるのだ。これは「進撃の巨人」を読んだときにも感じたが、こちらはファンキーではなく純文学的で繊細なのに頭のネジが飛んでいるあたりが良かった。
「ファイアパンチ」には途中でついていけなさを感じて疲れてやめてしまったが、「チェンソーマン」は読み始めてすぐに好きになり、ぐいぐい読めた。ある意味で【カンタン】になっていたからだ。狂気と正気の境も、モラルとインモラルの境もない。なんのためらいもなく、特別感もなく超越し、行ったり来たりする主人公。勢いと気持ちよさ、残酷性とファニーさ。ギャグなんだか何なんだか、笑っていいのかわからない天然の滅茶苦茶さ。生い立ちの壮絶さから、普通の人間の感じるタイプの恐怖や執着も、道徳観や背徳感も彼にはない。しかし、彼と、彼の周りのキャラクターたちを描き出すうえで、作者の持つクレバーさ、賢さと、象徴を多用して表現を重厚にするMAPPAの力が存分に下支えしている。
アニメーションはポップで過激で、外国のグロテスクで鮮やかな色のお菓子の中に頭を突っ込んだみたいになる。期待通り。
戦闘シーンも、ポップでチープで過激で残虐でカラフルな、スピード感のあって気持ちのいい仕上がりになっている。
レゼも大変に魅力的に描かれ、プールや教室のシーンは、彼らの生い立ちを思うと切なさが満開になる。だがこの物語は社会批判ではない。彼らは自分自身を力いっぱい生きているだけだ。それが【青春】というものだろう、と思う。
極限まで、命と死と暴力で繋がりあった2人の関係は、言葉を尽くして語るよりも深く、
その表現、表情やセリフ回し、役者の力量も見事だった。
まぁ、やはり人気があるのはサメの魔人、ビームか。わかる。いい味を出していた。
アキと天使の関係も、激しさの中にしんみりしたものを加えてくれてよい。あと、噛ませ犬の男、ああいうのがいてくれないとこの作品の味が出ないよねと思う。
戦闘描写でカラフルな煙がバンバン出るのも良かった。あれならコンプライアンス筋からも文句ないでしょう。
時々、この作品について考えるとき、「人がより恐怖する名前のついた悪魔ほど強い」という設定について、どんな悪魔なら強いかなと色々想像を巡らせる。「怖いもの」ならば何でも強いのだろう。日本なら「津波」「放射能」あたりは強そうだ。「リストラ」「パワハラ」「ワンオペ」も強そうだな、、
米津玄師の歌も相変わらず好きだった。
ラストもとても余韻があって良かった。
水や水中に関する表現も美しく、飛行機から雨滴が命中するようなシーンも好き。
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