「とにかく再現度が凄いのだが、クリス関連もきちんと描いて欲しかった」アイアンクロー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
とにかく再現度が凄いのだが、クリス関連もきちんと描いて欲しかった
2024.4.9 字幕 T・JOY京都
2023年のアメリカ映画(132分、G)
実在のプロレス一家フォン・エリック家の栄光と悲劇を描いた伝記映画
監督&脚本はショーン・ダーキン
物語の舞台は、1980年代のアメリカ・テキサス州のダラス
父フリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)は現役を退き、プロレス団体を設立し、息子たちを鍛え上げる方向にシフトした
長男のジャック・ジュニア(ロメオ・ニューカマー)は5歳の時に病気で亡くなり、父の期待は次男のケビン(ザック・エフロン、幼少期:グラディ・ウィルソン)に注がれた
ケビンには、陸上でオリンピックを目指す弟ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)、同じくレスリングをしているデビッド(ハリス・デッキンソン、幼少期:ヴァレンタイン・ニューカマー)がいて、末っ子のマイク(スタンリー・シモンズ)は大学生の友人たちと音楽活動に励んでいた(実際には六男のクリスが存在するが映画では割愛されている)
彼らは母親ドリス(モーラ・ティアニー)の愛を受け、それぞれの進むべき道をひたすら走っていくことになった
転機になったのは、ソ連のアフガニスタン侵攻を受けて、アメリカがモスクワ五輪への不参加を決めたことで、これによってケリーは目指す道がなくなって、実家へと戻ってくる
ケリーは父に促されてレスリングの道を進み、頭角を表してくる
元々不器用なケビンは、力をつけてタイトルを獲っていくものの、マイクパフォーマンスではデビッドに圧倒され、ファンの獲得もままならなくなってくる
弟二人に先を越され、父もその状況を容認し、ケビンは華々しい舞台の一歩後ろで、弟たちの活躍を見守ることになってしまうのである
映画は、フォン・エリック一家の「呪われた」負の連鎖を描いていくのだが、映画的には「毒親の影響で道を誤った」というふうに描かれていく
実際にどうだったかはわからないが、唯一生き残ったケビンがプロデューサーに名を連ねているので、息子目線ではこう見えたということなのだろう
ケビンは呪いの存在を信じていて、自分の息子の名前に「フォン・エリック」をつけないのだが、プロレス自体は愛しているので、息子たちを鍛えてデビューさせている
あくまでも、自分たちの不遇は両親の方針とタイミングだった、という感じに描かれていた
世代としては、少し上の世代で、日本での興業などもあったが、あまり興味のない時代だった
それでも、名前ぐらいは聞いたことがあるというくらいの知識で観に行ったが、問題なく理解できるように作られている
プロレスは興業であり、いわゆるエンタメとして「台本がある」のだが、それを後のケビンの妻になるパム(リリー・ジェームズ)が突っ込むシーンは面白い
この時のケビンの反応が「スターになれない感」を醸し出していて、彼が向かうべき道は「オリンピックのレスリングだった」のではないかと思わせるのである
いずれにせよ、プロレス好きだと「日本関連がほとんど描かれない」ので不満かもしれないが、日本人プロレスラーを演じられる俳優が皆無なのでやむを得ないと思う
フォン・エリック兄弟たちを演じた俳優たちの見事な体の作り込みを再現することは難しいので、割愛されても仕方ない
また、六男クリスは悲劇的になりすぎるとのことで割愛されたが、映画的には描いた方が良かったと思う
クリスも自殺をしてるのだが、彼が自殺した理由が「プロレスラーとしての体格に恵まれなかったから」というものなので、これを描いてこそ、フリッツの方針の無茶さというものが浮き彫りになるのではないかと感じた