「就活×『サバイバー』×青春本格ミステリ。意欲は素晴らしいが、大学生に全く共感できず。」六人の嘘つきな大学生 じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)
就活×『サバイバー』×青春本格ミステリ。意欲は素晴らしいが、大学生に全く共感できず。
昔、『サバイバー』ってクッソ面白いリアリティ・ショーがありまして。
アメリカの番組で、無人島に放り込まれた20人くらいの面識のない人たちが、共同生活でサバイバル・ミッションをこなしながら、定期的に行われる審議会で、自分たちの投票によって追放者を決めて、ひとり、またひとりと人数を減らしていく。で、最後の一人に残ったサバイバーが、賞金100万ドルを手に入れる。
虚々実々の駆け引き。仲良しごっこの裏で展開される壮絶な足の引っ張り合い。合従連衡を繰り返して多数派を形成しようとする出演者たち。
あれは、マジで面白かった。
まだ若かった僕は、それはもう異常なまでにのめりこんで観てました(笑)。
全員で自分以外の誰かに投票して、生き残りを決める。
まさに『サバイバー』の投票ルールだ(サバイバーでは「追放者」を決めるんだけど)。
『六人の嘘つきな大学生』は、就職活動に『サバイバー』のルールを掛け合わせたうえで、過去の悪事の暴露というイベントを仕組んだ何者かの暗躍を含めて、密室劇を構成した本格ミステリ原作の映画化である。
僕は原作未読だが、「このミス」でも「文春」でも一昨年のベスト10に入っていて気になっていたのと、推しの浜辺ちゃんが出てるのとで、観に行ってきました。
みなとみらいであった演奏会の帰りに、横浜の映画館のレイトショーで観たのだが、30人くらいのお客さんがみんな本当に大学生~社会人の若い子たちばかりで、とてもいいことだなあ、と。きっと若い子だとキャラクターへの共感度が全然ちがうんだろうね(笑)。
あくまで自分はおじさん目線(むしろ最近はだいたい二次面接をやらされる立場)でしか観られないんだけど、それはもうしょうがない。
最初にいっておくと、結構面白かった!
映画.comの評価は残念ながら低めだけど、
僕はこういうチャレンジャブルな企画は大好き。
もうさ、本格ミステリなんて10年以上前にだいたいネタ的には煮詰まってるわけ。
新しいものなんて、そう簡単に出てこない。
そんななかで、たしかに「就活密室サバイバル・ミステリ」てのはなかった気がする。
いや、設定自体に無理があるから誰もやらなかっただけかもしれないが、多少無理をしてでも新しいネタにチャレンジする精神というのは素晴らしい。
どうせ、本格ミステリなんてものは、人工美なんだから。
映画としても、基本はよくできてると思う。
なんてったって、佐藤祐市監督はあの傑作『キサラギ』の監督。
密室劇はお手の物だし、演出も間合いも勘所をつかんでる。
だから、そこまで悪しざまにいうような出来じゃない。
ただ……この映画化に関していうと、
入口戦略のところですでに軽く失敗してるような(笑)。
だって、ぜんぜん主人公たちに共感できないんですよ。最初から。
あと、入りたい理想の会社のようにも、ちっとも思えない。
だから、寄り添えない。
観察するだけになっちゃう。
そのあたりで、客をつかみきれてないのかな、と。
まず始まって最初に思ったのが、
なんていけすかない学生どもで、
なんていけすかない本社ビルで、
なんていけすかない仲良しごっこなんだと(笑)。
すいません。心が穢れきってて。
まずは「スピラリンクス」。
むっかつくオフィスだよなあ。妙にこぎれいでさあ。
なにがITベンチャーだよ、けっ!! みたいな。
しかも出てくる人事担当が漫画みたいな類型的なキャラ。
いねーよ、こんなやつ。
だいたい、10000人から6人ってなんだよ。
費用対効果の面で、すでに企業の採用業務として大失敗してるんじゃん。
しかも、財務上の理由で6人から1人に変更しましたって??
そんな内幕、就活生にバラす企業がありますかいな。
そもそも最初に言った就活のルールを変更するようなことやってたら、労働局に怒られるよ。まして学生同士で落としあいさせるとか、ふつうに訴えられますよ。
それを録画して別室で観てるとか? あんな展開になっても誰も止めに来ないとか?
ありえねーだろ、さすがに(笑)。マスコミに密告されて一撃で「いなば食品」みたいになっちゃうでしょ。
……ってまあ、作り話に目くじら立てても、立ててるほうがダサいだけではあるけど(絵空事として楽しめたほうが結局は勝ちなんで)、少なくとも思うわけ。
「こんな会社、死んでもいやだ」って。
あと、なんか主役であるところの学生たちが、あまりに感じが悪い(笑)。
就活で出会った6人でグループ・ディスカッションやらされることになったから、そのあとファミレスで対策を練ることになった。そこまではいい。僕でも若いときにあったもの。最終面接メンバーでファミレスでお茶でもするかって流れ。
でもさ、若者6人で集まって、あんな「人事に対して話してたまんまの入社動機」をしたり顔で語り合うとか、まずありえないような。
ああいう場だと、ふつう生々しい話とか会社の悪口とか、「露悪的」なノリになるのが「健全」な若者ってもんじゃないの?
なのに、なんなん?こいつら??
「週末にあつまらないかい?(キラーン)」
「それ、賛成!(キャピーン)」
って、おまえら、きっしょいんだよ!(笑)
しかも6人の学生が、まんま大学名のパロディみたいなキャラクターしてるわけ。
今日日のドラマで、大学名が実名で出てくるの珍しいよな、とか思って観てたら、
「早稲田の社会学」の浜辺ちゃんが、ほんといかにも早稲田のできる女子学生の子っぽいんですよ。マジでいるわ、毎年会社のオリエンとかでこういう子!
「慶応」のお坊ちゃんも、いかにも慶応にいそうな感じで……てか、これDaiGoの代わりに顔の似た佐野勇斗くんキャスティングしてるんでしょ??(笑)
あと、いかにも明治の国際にいそうな子とか(これはディスリになっちゃうか? 明治さんすいません)、六大学縛りでうちの母校かと思ったら一ツ橋だった倉くんとか(ああいうの結構実際にいたけど……なんで一ツ橋設定に逃げた??)。
このドラマのつくり自体は、とても正しいと思うんですよ。
出だしで「仲良しぶり」「善良ぶり」を強調しておいて、
中盤の「サバイバー投票」でひっくり返すってのは。
ちゃんとキャラに愛着を持たせておいて、それを叩き落とす。
そこの落差があるほどに、ミステリとしては衝撃性が増す。
なのに、アバンの仲良しごっこで、
観客の微妙な「なんだよこのぶりっこ早稲田女」
「英語以外に何か国語もできてよござんしたねw」
「でた、慶応ですかしてるDaiGoみたいなやつ!!」
といった、生々しい「ヘイト」をかきたてて、
なんでか客を挑発してきてる(笑)。
それは、たぶん逆効果だと思うわけです。
で、立教ボーイがいちばんまともで、いちばん空気が読めるって?
そんなん逆差別やろ!!(逆学歴コンプレックスw)
― ― ― ―
「サバイバー」ゾーンに入ったあとも、いろいろと「唐突」なシーンが多くて、前半でけっこう疲れちゃう部分はある。
たとえば最初の「暴露」で山下美月ちゃんの明大生がいきなり切れ散らかすシーンとか。
ああいう子だって予兆あったっけ?
せめて、切れ散らかしたあとで、慌てるとか、取り繕うとか、そういうしぐさくらいあってもいいのに。いったん「豹変」したあとの居直りぶりも激しいし……「はいはいわかりましたよ、こういう人間だったんですよ!」みたいな小芝居が挟まってもいいような。
あのあと、法政君と明大生が、ひたすらヘイトを集める担当にさせられてて、作劇上、美月ちゃんと西垣君はかなりババをひかされてた感じがあるから、なおさら……。
総じて、サバイバー投票の「重苦しさ」「重圧感」「追いつめられた結果の攻撃性」といった部分をあまり強調していないせいで、急に全員が人格崩壊していくみたいな、ダサいつくりになっちゃってるのがなあ。
西垣君演じる法政君も、よくよく考えるとあの件はいくらでも言い訳のしようがあるわけ。むしろ、うまく反撃すれば、最初の時点で犯人の思惑を叩き潰せたくらいだ。
それなのに、なんであんな態度をとっちゃったかというと、最終面接の空気感と、いきなり美月ちゃんに拒絶されたショックなのかと思うのだが、そこがうまく演出できていなくて、もやもやする。「完落ち」の激しさでは、一ツ橋君もあまりにもろすぎるけど。
だいたい、ビデオカメラが回っている前提の部屋で、映ってる範囲に封筒を置きに行くバカがどこにいるんだとか、封筒を「最初に誰が開けたか」が実はきわめて重要なファクターなのに(暴露していく「順番」が結構重要で、そこを犯人はコントロールしようとしている)ぜんぜん取沙汰されないとか、細かく考えるといろいろひっかかるところが多い。
それに、ふつうならそんな得体のしれない封筒が郵便受けに入っていて、しかも持ち込みをせざるを得ないように書かれてたとしたら、僕なら何はともあれ片端から「開けてみる」けどなあ。あとから別の封筒に入れなおして封をすることくらいできるんだから。だって気になるじゃん。
で、開けたら100%会社の人事の仕込みなどではないことがバレちゃうし、同封の脅迫文も目にするわけで、かなり当日の展開も変わってたと思うけどね。
あと、「何が何でも、相手を蹴落としてでも入社したい」って話と、「過去の悪事をばらされたくない、犯人は誰で何が目的なんだ?」って話が、途中から完全にごっちゃになってるというか、「一つの椅子争奪戦」のほうの就活話がうやむやになってどうでもよくなってるのも、つくりのまずさなような気がする。
ほかにも、こういった投票をするときに、なんの打ち合わせもせずに「ホワイトボードにビジブルで誰が誰に入れたかわかる形で投票する」方式になるのかなあ、とか。ふつうは(誰かが強く言わない限り)無記名のメモ回収/開票方式になるもんじゃないのかな?
それから大前提の疑念として、この犯人、異常に調査能力高いよね(笑)?
最終面接の方式が変更になったことを知って「から」本格的に調査に取り掛かって、5人分の書けることを探してこれるって、ちょっと凄すぎないか? しかも結構な人間に取材かけないと、特に高校時代の野球部の話とか聞きだすの難しいと思うんだよね。これ、聞き込みしてまわってると(暴露シーンでカットインされる映像が「そうじゃない」ことはわかったうえで言ってます)絶対面バレするシチュも出てきそうだし……。
作品の構成として、そこに説明をあまり割けないのはわからないでもないのだが、「どうやって、数日間のうちにここまでの準備ができたのか」の説明って原作だとしっかりあるんだろうか?
後半戦については、さらに言いたいことがいろいろあるが、紙幅もつきたのでここではやめておく。まあ、なんといっても誰もがひっかかるのは「動機」だろうね(笑)。
そんなことで、ここまでのことを仕込むやつは、絶対いないから……。
思いのほかここの総合評価点が低いのだって、6割がたはこの「動機」のせいじゃないのかな……?
パンフを読んでたら、犯人役の子までそう思ってたらしいのがアリアリで、「それを超えた想いもどこかであるのかもしれないなと感じました。そうじゃないと、あそこまでの行動には出ないと思うんです」とか言ってて笑った。なるほどそういうBL的関係性ね。でも「その人を会社に殺された」くらいの理由がないと、やっぱりあんなことはしないし、そもそも残り5人を貶めて何をしたかったのかっていう。しかも最終的に勝者として●●さんを送り込む形になって、会社に貢献しちゃってるわけだし。
「6人を1人に」「大学生どうしで落としあう」って人事に言われた件を、マスコミに流して大騒ぎにしてもらったほうが、1000倍、人事担当者をぎゃふんと言わせられたと思うんだよね……。
ちなみに、僕自身は「6人のうち1人が自分の知り合いを死なせた当事者であることに気づいた犯人が、なんとかして全員の前でそれを自ら告白させるように誘導するために仕組んだ」という真相を予想していたんですが(石持浅海風)、思い切り外しました(笑)。
ちなみに、浜辺ちゃんはかわいかったです!
返信ありがとうございます。
自分も疎いのですが、最近はSNSを活用する作品が多いですよね…
ちなみに、本当に親しい人間は当然情報を売っておらず、友人の友人など遠い関係から仕入れていました。
明言はされてませんが、これにより“真実”まで辿り着かず悪しざまな“噂”だけ知ったのかな、と。
>本格ミステリなんてものは、人工美なんだから。
ミステリとかシチュエーションスリラーには、そういう心構えって必要ですよね。笑
犯人の調査能力については、原作ではSNSを使って悪い噂を買い取ってました。
動機が薄いの確かなのですが、犯人が他5人に失望した理由などはもう少しちゃんとしてたのですが…
気が向いたら原作読んでみてください。