「監督自身の物語の背景を加味すると角度が違って見えるかも」スオミの話をしよう 夜さんの映画レビュー(感想・評価)
監督自身の物語の背景を加味すると角度が違って見えるかも
WOWOWで久しぶりに鑑賞しました。映画館でも観に行っていました。
当時の簡単な感想は1番下部に置いてあります。長いです、今感じていることとも似ていますが、どうぞ。
縁あって三谷監督の脚本演出の映画や、特に舞台をよく観劇しに行っていた時期がありました。(舞台での生演奏が好きで)
舞台作品をDVDでも繰り返して見ていたから気づくのかもしれないややマニアックなレビューです。
映画作品だけ観ていると確かにこの作品はあまり映画向きではないんだけれど、有名な「ラヂオの時間」「みんなのいえ」などなどをはじめ、映像作品、劇場の舞台モノ作品も含めて、三谷幸喜さんは案外というか結構、ご自身の私生活や周辺のネタをわりと細かく観察しては赤裸々に執拗なくらいこねて描いている人だなと感じたり、察してしまうことが多い。
オケピ!などでも、関係者との交流で仕事ぶりに感動したことから作品の原案が発生したりしているのでその辺りが見て取れる。
ご本人はほとんどにおいてフィクションですと言ってはいるけれど、いろいろな方々との関わり、取材、仕事現場での体験、生活の中から得たアイデアや、恋人から夫婦への変化、結婚生活の中での数々のネタがかなり盛り込まれていると見ています。特に三谷さんの夫婦もの結婚ものは、細かい観察からによるあるあるネタが本当に多いからです。
舞台明けからの映画作品だからか、小中規模の劇場やテレビサイズなコンパクトめのスケールになっていたんじゃないかなとも感じたりしました。
舞台の作品を映画に持ってきたという感じでしょうか。
長澤まさみさんの表情が変わる演技や、ちょいちょい男のプライド加減は面白いですが、テレビサイズでツッコミながら見たい感じの映画ではあります。
日本の映画館ではツッコミも笑いも基本的に抑圧されがちな空間なので、相性が悪かった、あるあるネタややってみたかったことにオチや意味を追求してしまうと「?」とわからなくなったり…と言うのもありそうです。
久しぶりに映画作品にするのであれば、焼き直しになってしまうけれど、三谷幸喜脚本演出の舞台作品の『グッドナイト スリイプタイト』も良かったのではないかと思ってしまいました。
公演では恥ずかしげなのを怒っているような雰囲気でごまかしていましたが、フィクションですと本人は言っているものの、
ある夫婦が離婚に至るまでの物語、なぜ結婚したのか、なぜ別れたのか‥いつからすれ違いがあったのか?
そんな話を描いた『グッドナイト スリイプタイト』。
劇中のあれらのやりとりのくだりは、確実に長い生活の中で監督元夫婦もしていただろうなと言う共通の表現が多く詰め込まれている作品。
このスオミでも、物語の中で元夫たちが語る話に通じてきます。
そしてその『グッドナイト〜』という作品、監督自身の結婚生活〜離婚までにかけてのターニングポイントとなっている作品であるとも確信しています。
優しく楽しい笑いもあるのですが、後に重なりすぎる深い痛みがあり、いくつかの核心が描かれることで、そのターニングポイントとなる出来事、ボタンのかけ違いから確実に泣ける作品になっていました。(思い出して込み上げてしまう)
未鑑賞の場合はぜひこちらも観てから再びスオミを観ると、何かしら印象が変わるかも知れなくてこの話を書いてみました。
その後に製作された舞台作品も観ていくと、人物への描き方の変化から、なんとなく今作に関しては、製作に至るまでの深層心理がうっすらぼんやりと浮かび上がって見えてくるようで。いろいろなものでカムフラージュしたりオブラートに包んでいるけれど、手紙のように感じる作品。
『スオミ』とは、表している象意は何なのか、1人の女性を取り巻く元夫の言い分や在り方具合は一体何なのか、に対してなんとなーく答えが出たり理解が深まるのではと思います。
スオミに対してのそれぞれの印象の話で、第一の夫トトヤマが他の元夫たちに、「この人たちは、女性のことを1つの側面だけで捉えようとするんだ」というようなセリフが2回位出てくるのですが、
そのホンを描いている自分がまさにそうであったか、5人(6人)の男性たちに「そういえばあの時のあれはこうもとれた」とそれぞれに言わせているのかもしれない、とこの作品を作るに至っての無意識の心理を深読みし、思いを馳せてしまうのでした。
監督もシャイながら面白おかしく描いて無意識に元妻の思い出を昇華しようとしている(していた)のではないかなんて。
誰しも見せていない・気づかない顔があり、それを知ったときにたとえ衝撃を受けても、それでも思い出の人の事は魅力的に見え続けてしまう人もいる…。
背景から見る、長い月日を共にしてきた女性像に対しての理解の昇華。
「スオミ(あのひと)」が本当は強がっていたこと、恥ずかしさを誤魔化していたこと、言わなかったこと、言えなかったこと、言いたくても飲み込んできたこと。自由がなかったのではないかと想像してあげたこと。
先述した舞台作品内でもそのあたりの物語が描写されていましたが、夫婦関係が終了しても良い関係を続けていることができたから、このような作品が生まれたのかなと解釈しました。
そんな視点観点も持ってスオミ映画を見てみると、それこそキャラクター的な個性はあれどいろいろな表情を持つ監督自身にも、どんな男心があって、何を投影していて、男側にも様々な側面があって(シャドウやペルソナなようなもの。大作家先生であり、緻密な推理の刑事的な側面でもあり、少年のような心も持ち得ながら、冒険もしてみたい、時にはハイ、と忠誠心のある召使のようでもあり……)、
どんなプライドが細かくあったのか、どうご自身のことを思いたかったのか、美化された元妻との思い出と、女性の芯となっているまっすぐな夢、しなやかさが魅力的に映っていたことが覗けるのかも…
なんて考察してみるとまた観る角度が変わって見えてくる、クスッとなれる作品でした。
もちろん全てが全てそうではないと思いますが、こういうネタってあるよねと言うのが散りばめられてはいます。ちょっとサイズが演劇的な小ネタ感なのかなとは思います。
再婚されてからはホンの面白さの質がまた変わったと言う話も聞きました。
元妻への(女優としての演技的なものも含めて)さまざまな魅力は何だったのかを改めて描いたような、そしてそんな元夫たちのそれぞれの言い分は、非言語的なある種の未練たらたら物語でもあるのではないか‥とすぐに感じられたのでした。
特にフィンランドの話が出てきたあたり。もろわかりでした。両者を知っていると、さらに楽しめると思います。
もちろん、フィクションであると思います。ですが、それは作り手の言い分と言うもの(笑)
この方の作品には、原作があるもの以外は、その元ネタとなった実話からのインスピレーションが多いので、それを踏まえると大変笑わせていただきました。
WOWOWはよく三谷さん特集をしますし、長回し作品もやりますが、そんな感じでテレビで見る位がちょうど良いのかもしれません。
夫婦で別れても、いろいろあっても、やはり強烈なインパクトのあった人は忘れられないということが伝わってきます。
長澤まさみさんのスタイルが良すぎてファッションも楽しめました。
そして男性陣が最後に踊るシーンは、私は笑いました。瀬戸くん以外ではこの役者さんたちがそんなシュールで滑稽な踊りを踊るのはめったに見れる姿ではないので。
それも監督が「いくつもの顔を保つ(ように見えるが旦那の要求に合わせていただけ)そんなスオミを忘れられず、いつまでも愛している滑稽な男」をやらせたかったのでしょう。
映画作品は監督自身の人生の物語とリンクすることが多いようですので、それらを加味すると楽しめると思います。
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2024年10/10に映画館で鑑賞時↓
三谷幸喜脚本・監督作品は観るようにしている。
今作は舞台ものがスクリーンに来たと思って観る方が良いかも。
過去映画もだいたいが舞台的な演出に近いのだけど、過去の三谷作品でも小劇場などで生演奏付きの舞台があり、それらを今でも繰り返し見るほど大好きです。
正直、『グッドナイト・スリィプタイトㅤㅤ』こそ映画化してほしさもある!
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このスオミは、舞台版で見たほうが小ネタが活きてより面白さが伝わるかもしれないとは感じた。
はちゃめちゃドタバタしている場面は特に。やはり劇団的。
そして、なぜかどうしても三谷さんの元奥さんが浮かび上がってくるような、ずっとちらついてしまって、なんだかラブレターのように感じたりして…。
そんなことないとは言っているものの、フィクションと、自分の体験をわりと、いやかなり織り交ぜていることが多い人である。
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舞台『グッドナイト〜』に心動かされ沁みたのも実体験から来ているようなかなりリアルな体験談、エピソードが本当に多かったから。
長く夫婦をやっていると感じられるアレコレが詰まってくるものです。苦い思い出も、楽しかった記憶も。
劇伴の音楽を聴きに行くのが目的でもあったのでそういう意味では三谷さんと荻野清子さんタッグがまた聴けて満足でした♪
少し古畑チックな音楽が聞こえてきたりも。
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サスペンスとしてスカっとするかと言うと、うーん?そうでもなかったような…という事は意図や目的は別にあるのです。
ただ、何かを作り上げると言うのは凄まじい熱量と根気が要ることなので、新しい作品を生み出すことを続けているのは本当に尊敬&感謝です。