「オーレンカがフィンランド好きならスオミになるのか」スオミの話をしよう さくやさんの映画レビュー(感想・評価)
オーレンカがフィンランド好きならスオミになるのか
明かりがついたとき、笑いに来た観客たちは、ポカーンとしていました(笑)
三谷幸喜監督だから、何かメッセージがあると思うのですが、残念ながら、私にはその端緒さえつかめず。
チェホフの『可愛い女』は、多分女性と男性で感想がずいぶん違うだろうと思います。
容姿が抜群に可愛らしく、無垢で明るいオーレンカ。
好きになった男の考えを100%トレースし、自分というものがない。
読み終わった後、多くの女性が「こんな女に自分はなりたくない」と思うと思うのですが、チェホフは、オーレンカのことを本当に「可愛い女」として描いたのだそうです。
スオミは「誰もが綺麗だと思う女性」という意味ではオーレンカと同じですが、行動はオーレンカよりずっと自覚的です。
三谷幸喜監督の舞台「You are the top」は、二人の男が一人の女をまったく違うキャラクターに見ていたという物語なので、今回もそれに近い感じかと思ったら、好きになった男の好みの女を、自分の意志で演じていました。
それは、後半の、元夫たちとの全体会議で、返事をする相手によってキャラクターを変えていることからもわかる。
ただ、それがなんのためになのか、三谷監督はヒントをくれてたかなぁ……。
父を早くになくしたスオミが父性を求めていたというのでは、ちょっとあんまりにも予定調和すぎる気がするし……。
そこを小難しくすると、テーマがブレるので、いっそのこと「ヘルシンキのため」としたのだろうか。
う~ん、よくわからない。
細かい部分ではいろいろな気づきがあるんですよ。
たとえば、西島秀俊演じる草野刑事は、「何もできないスオミのためにいろいろしてあげている」つもりが、本当は「してあげさせてもらっていた」のだというくだりでは、人と人の関係性ってそうだよなと思ったりしました。
子供が生まれたとき、同じように親も生まれる。
「自分」なんていない。
「この人の前の自分」がいるだけ。
……とある真言宗のお住っさんに、「空とは何か」と聞いたとき、「そりゃあんた、空がわかって実践できたら、それは悟ったってことですわ」と言いながら、なんとか説明してくださった言葉なんですけど、そういうことが言いたかったのか?
……とも思えない。
う~~~~~ん、よくわからない(^^ゞ
ただ、三谷監督の作り出す世界。
どこか情けなくて、浅はかで、自分勝手で、優しくて、愛おしい人しかいない世界が好きなので、観ておいてよかったです。
あと、トキューサがこの映画でもトキューサのままでした。