「結局、スオミがどういう人間なのかが分からない」スオミの話をしよう tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
結局、スオミがどういう人間なのかが分からない
誘拐事件の成り行きと、スオミという女性の正体にまつわる展開には引き込まれる。
ただ、誘拐事件の方は、警察に通報することを拒否したり、脅迫状を破り捨てたり、本当に犯人と電話で話しているのか怪しかったり、身代金の一部を他人に出させようとしたりと、明らかに現在の夫が怪しいと思われるのだが、それがミスリードであるということも、おそらく狂言だということも、何となく分かってしまうところはいただけない。
結局、身代金の受け渡し場所である公園には誰も行かないで、全員がセスナ機に乗り込んでしまい、しかも「空中浮遊」というドタバタ劇になるに及んで、「犯人探し」という要素がどうでもよくなってしまうのは、ミステリーとしての失敗だろう。
一方の、スオミの正体にしても、長澤まさみの七変化ぶりは堪能できるのだが、三谷幸喜がこれをやりたかったのだとしたら、「コンフィデンスマンJP」の二番煎じと揶揄されても仕方がないだろう。
自分が愛してもらえるよう、相手の好みのタイプの女性になりきるというスオミのキャラクターは理解できなくもないが、スオミがどうしてそうなったのかが分からないし、彼女が結婚相手を愛していたのか、あるいは、結婚生活に何を求めていたのかといったことが、最後まで明らかにならなかったことには不満が残る。
父親が愛したフィンランドに住みたいというスオミの夢も、父親との思い出のようなものが描かれないので唐突感が否めないし、ラストのミュージカル・シーンでも、「どうしてヘルシンキなの?」と何だか呆気にとられてしまった。
宮澤エマ演じるスオミの補佐役との関係性も含めて、スオミの人生や人間性がまったくと言っていいほど掘り下げられなかったために、彼女に共感することも、感情移入することもできず、人間的な「深み」を感じ取ることができなかったのは、物足りないとしか言いようがない。