「なぜ、このシリーズは面白いのか。それは人が求めてやまない「物語」の祖型的なありようを、とことん追求しているからでしょう。」キングダム 大将軍の帰還 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ、このシリーズは面白いのか。それは人が求めてやまない「物語」の祖型的なありようを、とことん追求しているからでしょう。
原泰久の同名人気漫画を実写映画化した大ヒット作シリーズ第4弾。4日間のオープニングでは、興行収入22億円。邦画実写作品の歴代1位となっています。
前作「キングダム 運命の炎」では春秋戦国時代、13歳で秦の王となった政 (吉沢亮)が中華統一の悲願を抱くに至った経緯を描かれました。今作では、政の懐刀として下僕から大将軍を目指す信(山崎賢人)が戦場で初めて知る挫折にフォーカスします。
●ストーリー
春秋戦国時代の中国。前作では、原作者原泰久が創作した「馬陽の戦い」において秦が20万の兵で韓に侵攻している隙をつかれ、隣国の趙に攻められることから始まりました。 そのラストでは、隣国・趙の敵将を討った秦国の飛信隊の信たちの前に趙軍の真の総大将・龐煖(吉川晃司)が突如登場したのです。
そして本作冒頭、自らを「武神」と名乗る龐煖は圧倒的に無敵の強さで、その急襲により部隊は壊滅的な痛手を追い、半減以下に追い込まれます。飛信隊の仲間たちは致命傷を負った信を背負って決死の脱出劇を試みます。一方、その戦局を見守っていた総大将・王騎(大沢たかお)は、ほう煖の背後に趙のもう一人の化け物、それは遠くから戦いを静観する天才軍師・李牧(りぼく)(小栗旬)の存在を感じ取っていたのです。そして劣勢を覆すべく最強の大将軍として再び戦地に舞い戻ったのです。
前線で直接対峙することになる王騎と?煖には過去の因縁がありました。。趙を率いる?煖は、かつて王騎の片腕で許嫁でもあった武将膠(新木優子)を手に掛けた男だったのです。
今、因縁が絡み合う馬陽の地で忘れられない戦いが始まります。
●解説
本作の素晴らしさは、何と言っても話の展開のダイナミズムにあります。前作で一段と存在感を増した大将軍・王騎を中心に、封印されていたかつての王の逸話、王騎の宿敵の登場、王騎を脅かす新たな強敵の出現。何層にも膨れ上がる話の畳み込みが圧巻でした。
但しこのシリーズの本筋は、大将軍を夢見る主人公・信と、中華統一を目指す若き王嬴政の成長譚とも言える歩みが描かれることにあります。それが次第に、戦いの実践に卓越した力を発揮するカリスマ・王騎の存在感が増していくのです。圧倒的な強さを見せつけるほう煖と互角以上の戦いを見せつける王騎には、この将軍はこれほど強かったのかと驚きました。戦い終わった後の自軍に獅子吼する姿と相まって、まさに大沢たかおのワンマンショーとなっていました。彼を取り巻く多彩な人物像の厚みが今回、最高度の熱量で描出されたのです。
史書にかすかに残る痕跡を膨らませた原作の濃いキャラクターに負けないほど、肉体を異形化することに懸けた大沢の王騎像は擢媛との一対一の戦いでようやく報われた感がします。
今作で徹底的に描かれるのは「守る」ことの難しさでしょう。 王騎は、100の城を落としたら妻にするという膠との約束も、一対一で指導するという信との約束も力及ばず、ほごとしてしまうのです。
彼が振り回し、信へと受け継がれる矛の重さ、すなわち戦場での選択の重さをどう描くか、次作以降の務めとなります。
一方、攻めの能力で地位を上げてきた信も、鹿媛の攻撃で重傷を負い、子供時代からの親友、尾平・尾到兄弟の献身で九死に一生を得ます。信に夢を託す尾到役は三浦貴大。その芝居の確かさが、犠牲を受け止めてなお進む信に説得力を与えていました。
●感想
なぜ、このシリーズは面白いのか。それは人が求めてやまない「物語」の祖型的なありようを、とことん追求しているからでしょう。「物語」の祖型とは、娯楽映画の原点だと思います。存分に盛り込まれるスペクタクルシーンも含め、原作人気の上に立ち、それらが幅広い層の熱い支持につながっているのことなのだと思います。
ドラマの終盤、信は負傷した王騎を馬に乗せて、敵陣突破をはかります。王騎は信に、将軍の馬から見る景色はどんな風に見えるかと訪ねるのです。やはりその景色は特別に見えました。そして将軍とは、何万の部下を見殺しにし、何万の敵を虐殺してきたうえにたつものだ。その命の重さに耐えなくてはいけないという言葉の重みと相まって、是非皆さんも王騎が見た景色を、劇場でご覧になってください。
そして本作には、また次があるのでしょうか。ぜひ続編に期待しています。