劇場公開日 2024年8月17日

「2024年に生まれた奇跡の作品として、長く語り継がれるべき映画だと感じた。」侍タイムスリッパー シモーニャさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 2024年に生まれた奇跡の作品として、長く語り継がれるべき映画だと感じた。

2025年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

笑える

癒される

2024年の映画界を語るうえで、『侍タイムスリッパー』は欠かすことのできない一本である。
自主映画であり、出演者もポスターも地味。誰もが「小規模な話題作」で終わると思っていた作品が、まさか“2024年を代表する奇跡の大ヒット作”になるとは、誰も予想していなかっただろう。
その奇跡を生み出した中心にいるのが、監督・安田淳一だ。
米農家として働きながら、1500万円の貯金をすべて投じ、愛車のスポーツカーを500万円で売却し、さらに国の補助金600万円を加えて、総額2600万円を製作費に全投入。
撮影後の預金残高はわずか7000円。
ここまでして作品を完成させようとした“覚悟”と“行動力”が、映画そのものに宿り、観客の心を動かしたのだと思う。

脚本は、現実には起こりえない設定であり、もし起きたとしても映画のように物事が進むはずはない。しかし、この作品は単なるコメディに留まらない。
笑いの中に、武士の誠実さ、人情、そして“人が人を思う温かさ”が深く流れている。
出演者たちの素朴で誠実な演技が、脚本の矛盾を自然に補完し、物語を違和感なく前へ進めていく。これは、“役者の身体性が脚本を救う”典型的な成功例と言える。

特筆すべきは、東映の殺陣専門家が役者として出演している点だ。
現実の殺陣師が虚構の中に入り込むことで、作品は“現実と虚構の交差”という独特の構造を獲得している。
東映が長年培ってきた時代劇のノウハウが、エンターテインメントとしてわかりやすく、かつ愛情深く表現されているのも魅力だ。
『侍タイムスリッパー』は、幅広い層が楽しめる娯楽性を持ちながら、同時に“時代劇の面白さ”を再発見させてくれる作品でもある。
そこには、時代劇を支えてきた人々の努力、誇り、愛情が確かに息づいている。

自主映画という枠を超え、
「時代劇とは何か」
「人が誠実に生きるとはどういうことか」
を、笑いと温かさの中で静かに伝えてくれる一本だった。
2024年に生まれた奇跡の作品として、長く語り継がれるべき映画だと感じた。

シモーニャ
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