「低予算を取っ払っても、いい映画」侍タイムスリッパー 西の海へさらりさんの映画レビュー(感想・評価)
低予算を取っ払っても、いい映画
いい意味で自主制作映画的。場面転換に大きな幅がないところは、逆をいうとCGにもロケにも頼り過れないというところだ。ここがいい意味で自主製作映画的と評したところ。つまりは低予算という縛りをうまく活用していると思う点だ。
こうした低予算つまり、制約性を取っ払って観る。脚本の芯がスッと通っているから、ブレずに没入できる。タイムスリップものとしては、ありがちだが、斬られ役というところに着目したところが侍のタイムスリップとしては、ドラマが進みやすい。
主人公がその設定を少しずつ理解し、受け入れていく流れに多少の引っ掛かりを持つのだが、その前段の現代の平和な世界と豊かな食生活に驚くあたりで解消を試みているのがとても良かった。いつまでも、現代の生活に驚き続けるのではなく、ちょうどいいところで幕末との違いを受け入れるあたり。ここを引っ張り過ぎると、食傷気味となるのだ。
物語は時代の生き方・立場・信念を呼び戻し、敢えてそこに身を投じ直す二人の侍がぶつかり合う。斬られ役ということで、劇中劇の視点が必然的に取り入れられ、ある意味メタ的な俯瞰視点に切り替わるのかと思えばそこに執着しない。
安田監督のテクニカルで情熱的で映画への溢れるまっすぐな想いが伝わってくる。「ほら、それはキミの思い通りの展開とちがうで」と言われているように。
優子ちゃんのかわいらしさが、ラブコメ路線を裏側で牽引している。深入りしないラブコメさはとてもココチいい。また、京都のいい意味での閉鎖的な土地柄・「いけず(イジワル)」さを知った上で、和尚夫婦をはじめとする「人間の優しさ」ってものが人情味を深める。つまり、よそ者に厳しい京都人のくせに、優しいやん!ということだ(筆者は生まれ育ちいまなお京都人である)。
7,000万円という低予算に対して、興行収入10億を越えたこと。日本アカデミー賞「最優秀作品賞」とのことだが、注目されるきっかけを与えてもらわなくては観ることもなかった自分の映画眼(ムービーアイと呼んでいる)がフシアナなのが恥ずかしい。
主演の山口馬木也さんはテレビでちょいちょい目にすることはあった。もっと光を浴びて欲しい役者というのが世の中にまだまだいるのだろうと感じてしまった。
斬られ役といえばの「福本清三」さんと侍がタイムスリップするというCMを結び付けたあたりが、安田監督の眼のよさなのだとつくづく思った。良い映画だった、ちょっと疲れた大人は必ず観るべきだと思う。