「良い映画を観た良い時代劇を堪能したこのような満足感がしっかりと残りました」侍タイムスリッパー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
良い映画を観た良い時代劇を堪能したこのような満足感がしっかりと残りました
侍タイムスリッパー
おーこれは面白い!
しかも、なんか感動した
内容は題名の通り
幕末の侍が現代の撮影所にタイムスリップしてというコメディ
簡単に予想できるようなシーンは早々に序盤に展開されます
しかし、おちゃらけ、内輪受けネタ、蒲田行進曲的なネタは予想に反してほとんどなく、現代の撮影所で如何に時代劇の伝統を絶えさせないように多くのスタッフが熱意を傾けているかを描きます
そうしてさらに中盤におっ!なるほど!という設定が入ってからは時代劇の持続性の追求と物語がシンクロし始めるところが見事で、心を震わせてきます
クライマックスはカタルシスを感じました
つまり映画として立派に成立しています
良い映画を観た
良い時代劇を堪能した
このような満足感がしっかりと残りました
ショーグンの世界的な大ヒットで時代劇が俄かに注目されています
もしかしたら世界の映画界の新しい金鉱の発見となるのかもしれません
ですが、肝心要の日本自体で時代劇の持続性が失われつつあります
しかし決して失わせはしない、必ず次世代につないでいくのだという決意を表明した作品になっています
一度失われたなら二度と再現不可能な世界がある
殺陣だけでなく、衣装、カツラ、小道具、セット美術、所作、言葉遣い、時代考証などなど、膨大な宇宙
それらを支え続けていくこと
私達観客もまた時代劇の持続可能性に取り組む同じ仲間です
慰労会での風見恭一郎のスピーチにはグッと来ました
本格の時代劇と今日性への拡張、世界的普遍性の獲得の両立
時代劇の持続可能性への回答は様々に考えられます
これから多くの試みがなされることでしょう
しかし本作のような人々の一本筋の通った時代劇でさえあれば
うるさがたの時代劇ファンもついていくと思います
本作はそうした時代劇の持続可能性への最初期の試みとして遠い将来まで記憶に残る作品になるのかもしれません
ここからネタバレ含みます
真剣使用での時代劇の撮影
実は過去に本当にあり、死者をだした事故の忌まわしい前例があります
1989年の松竹の映画「座頭市」で、撮影中に俳優の振った真剣が殺陣師の首に刺さり死亡する事故が起きています
殺陣のリハーサル中、勝新の息子でこれが映画デビューとなる奥村雄大が持っていた日本刀が、子分役の俳優の首に触れたのです
助監督が真剣を渡し、それが真剣であることを伝えなかったことでの事故だったといいます(本当に?)
もちろん非難轟々となり監督でもある勝新太郎への批判が高まります
映画製作を中止すべきとの声が当然上がり、公開が危ぶまれました
撮影は事故の起きた立ち回りのシーンを残すだけだったそうで、大出血で俳優が危篤状態の中、勝新太郎は俳優の家族に頭を下げ、撮影を続行して映画を完成させることになったのですが、とうとう俳優は亡くなっていまいます
それでも撮影は続行され、被害者の死後一週間後にようやくすべての撮影が終わり、予定通り公開されたのです
ハッキリ言って異常です
今ならとても考えられないことです
SNS でのバッシングは凄まじいことになったでしょう
本作では真剣使用での殺陣のシーンがクライマックスとなります
そしてそれまで待たなくとも主人公がタイムスリップして来た時、彼の刀は当然真剣のままです
序盤の時代劇撮影に彼が紛れ込んだ時に、彼は普通に真剣を抜いて切り結んで事故が起きるというような映画の展開になるのではとハラハラしましたが、実はそれがクライマックスの伏線になる仕掛けであったわけでした
黒船来航ポスターの30年時間が合わないの謎も良い伏線でした