劇場公開日 2024年8月17日

「ぶっつけ本番でどうどす」侍タイムスリッパー かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ぶっつけ本番でどうどす

2025年3月22日
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米農家との兼業で映画を撮り続けてきた安田淳一監督の執念が実ったのか、インディーズながら全国展開へ、ほんでまさかの超ロングランを記録。おまけに日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた2024年の大ヒットムービーどす。映画を撮り上げた時は、銀行預金残高が7000円やったちゅうさかい驚きや。過去、私財を作品に突っ込んでそのままま消えていった監督がぎょうさんおいではった中で、この安田監督まだ運がええほうやろう。

ではなんでこのチャンバラコメディ、かくも日本人に大ウケしたのやろうか。『カメラを止めるな!』同様に、映画いな時代劇復活にかけるスタッフや俳優たちの熱き想いが作品に乗り移ったさかいやろうか。TV時代劇がお茶の間から消えていくご時世にあって、ほんまもんの侍2人が○○で切り合うちゅう真剣さ?がスクリーンから伝わって来たさかいやろうか。山口馬木也とその他脇役人の逆転したポジションが、罪務省デモに参加するZ世代にとっても心地よかったさかいであろか。それとも、昔とった杵柄の剣術で一発逆転ねろうとる侍に、AIやIT小僧に仕事を奪われっぱなしのバブル世代が共感を寄せたさかいであろか。

京都太秦撮影所にほんまもんの侍タイムスリップするお話は、ありきたりちゅうたらありきたり。ドラマ『不適切にもほどがある』で昭和から令和の世にタイムスリップしてきた阿部サダヲのように、オラオラ感丸出しで平和ボケした日ノ本にカツを入れるのか思いきや、この会津藩高坂新左衛門(山口馬木也)一瞬にして現代の生活に馴れ親しんでまう。剣術以外にわしが取り柄のあらへんこと重々承知してる高坂は、飯を食うていくためには“斬られ役”しかあらへんと、現実主義者らしい選択をするのや。

唯一の心残りは幕末の戦で散っていった会津藩の仲間たちのこと。苦悩する高坂をかつての宿敵風見は「わしらはあの時代を精一杯生きた。それでよいとちがうか」て慰めるのんどす。この台詞、カズオシイグロの『浮世の画家』で、戦中好戦的な絵ぇ描き続けてきた老画家が友人に慰められる台詞とほぼおんなじなのどす。後世の人々になんと非難されようけど、その時代の一時期を真剣に生きたことに後悔は無用むしろ誇りにこそ思うべき、そないなニュアンスなのやろうか。

もし、この映画大失敗に終わり安田監督米農家を続けられへんくなったかて、「わしの映画人生に悔いなし」てケンシロウに破れ天空に拳を突き上げたラオウのごとく、華々しゅう散る覚悟ができとったのかもしれへん。そやけどな、映画当たったさかいええようなものの、興行撃沈しとったら残された👪️は路頭に迷うことになるのんどすえ。そないな一か八かのギャンブルは一平ちゃんに任しといて、本作のリメイク権をどこぞの大手配給会社に高額で売り飛ばして、残りの人生は堅う生きまひょうや、ね監督。

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かなり悪いオヤジ
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