劇場公開日 2024年8月17日

「傑作 演者の力 脚本の勝利 逆算の妙」侍タイムスリッパー にぺさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0傑作 演者の力 脚本の勝利 逆算の妙

2024年10月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

興奮

幸せ

一言、すばらしい映画鑑賞体験をさせてもらいました。
私はある程度レビューを見て鑑賞するほうなので、評判の本作、俄然期待が高まった。しかしその結果は、鑑賞前の期待を悠々と超え、自分の内包する情緒の振れ幅に戸惑ったほどだ。永く傑作として残るだろう。

幕末の京、勤王の志士である長州藩士と刀を交えた佐幕派の会津藩士、高坂新左衛門が雷によって現代に飛ばされたお話である。序盤はタイムスリップもの特有のドタバタ劇もあり、またホームコメディタッチのほのぼのお笑いシーンあり、まずはゆっくりと気持ちを解される。
中盤からは新左衛門が時代劇の切られ役として成長する様を、周りの人たちと一緒になって応援するが、とある大物俳優の登場から物語は意外な方向に展開していく。
そして切られ役として、また侍としての矜持をかけた終盤に向け一気に突入していく。
ここから先は実際に自分の眼で、映画館で観て欲しい。
観て損はない。いや、観ないと人生における損失だと言ってもいい。

たいへん失礼ながら不肖の私が知らない役者さんばかり。しかし主役の高坂新左衛門を熱演した山口馬木也さん、大物俳優を演じた冨家ノリマサさんをはじめ演者の皆さんの力で、この奇跡のような物語が私の魂に届きましたよ。
また、侍が現代にタイムスリップするという手垢のついたプロットから、よくぞここまで魂に響くレベルでお話を広げられた安田淳一監督にも大拍手である。

と、ここまで書いて気がついた。ひょっとして安田監督は、最後の劇中劇の監督と同様に真の侍の真剣勝負を撮りたかったのではと。武者小路監督だったか?彼こそが安田監督の代演者だったのではと。しかし現代に本物の侍などいる筈もない。仕方ない。強引にタイムスリップさせるしかないじゃないか。タイムスリップというプロットは逆算の結果のような気もする。

本作は安田監督のほぼ自主制作映画と聞く。限られた予算であれば、あれもやりたい、これも撮りたいはできない。予算の面でも逆算引き算の妙で、かえって締まった作品に仕上がったのではないか。低予算映画にありがちな些細な突っ込みどころは確かにあるかもしれない。しかし「木を見て森を見ず」ではないが、小さな枝葉に文句を言って、森どころか木さえ見えなくなることのないように鑑賞者自身で脳内補完すれば、きっとすばらしい映画鑑賞体験ができでしょう。

にぺ