劇場公開日 2024年8月17日

「2000万円でこれだけの作品が作れる!!」侍タイムスリッパー 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

5.02000万円でこれだけの作品が作れる!!

2024年10月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

ホームのシネコンでポスターは目にしていた。ただ、観賞するかしないかキャスティングを一番の判断基準にしている俺にとっては、知っている役者名皆無の本作は選外だった。が、最近一館の上映から始まってどんどん上映館を増やしている(今週231館)ことを知った。製作費2000万円とも。 こういう話を聞くと、当然同様の経緯を辿った“カメラを止めるな”が思い起こされ、これも面白いに違いないという気になり、急遽観賞することにした。

予定変更は正解だった。

【物語】
幕末の京都。会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)は、ある寺の出口で長州藩士を襲撃するために潜んでいた。出て来た男といざ刃を交えた瞬間に雷に打たれて気を失う。目を覚ますと、現代の京都の時代劇撮影所にいた。

混乱して撮影所内をフラフラと彷徨っている間に撮影機材に頭を打って倒れてしまう。通りかかった撮影所で助監督として働く山本優子(沙倉ゆう)に助けられて入院する。入院中に江戸幕府が140年前に滅んだことを知って愕然とし、生きる気力を失うが、山本優子や迷い込んだ寺の住職夫妻らの善意により新左衛門はこの時代で生きる気力を取り戻すのだった。

しばらく寺の居候生活を送っていたが、切られ役という仕事を知った新左衛門は剣の腕しかない自分が役に立てるのはこれしかないと、劇撮影所殺陣師の門をたたく。

【感想】
期待どおり面白かった。
俺は高い評判を聞いてから観ても良かったと思うのだから、最初の1館で超マイナー作として期待も持たずに観賞した人はさぞや「儲けモノ!!」と思ったに違いない。
他人に熱心にクチコミしたであろうことも良く分かる。

本作の良さは、まず設定の巧みさ。
タイムスリップものは既に腐るほどあるわけだが、侍のタイムスリップ先が時代劇撮影所という発想は秀逸。 そして、最初の発想だけでなくその後の展開も含めて、脚本が素晴らしい。あえて難を言うなら、新左衛門が「現代に馴染むのが簡単過ぎ」とは思った。140年のカルチャーショックはあんなものではあるまい。でも、練り上げられた脚本全体を考えると、2時間の枠の中に収めようとしたときに、その部分は割り切ってそぎ落としたのかも知れない。

前半は「時代劇撮影所へのタイムスリップ」という設定から来る面白さをコメディータッチで楽しめる。並みの脚本ならそれで1作終わる。が、本作はそれだけで終わらず、後半は第2段の設定が待っており、終盤に掛けて迫真のヒューマンドラマ風味に変わって、さらに楽しませてくれる。
さらにもう1つ褒めたいのはラストシーン。
「え、それか!!」と思わず声に出したくなった。
最後は予想してなかったオチまでつけてまた笑わせてくれて終わるのだ。

今回もつくづく思うのは制作費2000万円でも脚本さえ良ければ製作費200億円の並みの作品より面白いものを作れるのだということ。 公式HPを覗くと、本作は未来映画社の3作目で、前作は2017年とのこと。前作から今作公開まで7年掛かったことになるが、その間、構想から始まって、脚本も第一稿が出来てから数えきれないほど版を重ねて、練りに練ったことが想像できる。

もちろん脚本が良いだけでなく、役者も良かった。いわゆる“主演級”俳優は皆無だが。
主演の山口馬木也、本作では何と言っても剣術・殺陣が上手く無ければ様にならないが、完璧だった。侍としての趣も十分。経歴を調べてみると、非常に多くの時代劇に出ているベテラン俳優らしい。残念ながら記憶には残っていないが、長年の経験・努力が遺憾なく発揮されている。

その他の俳優も主演級ではないものの、経験を十分に積んでいるベテラン俳優が充てられているため、演技において安物感は無い。唯一、助監督役沙倉ゆうは経験が多くなさそうだが、未来映画社3作では常に主要CASTを務め、本作で実際助監督を務めていたというのだから当然かも知れないが、自然だった。

本作は誰よりも、邦画制作に関わる人に観てもらいたい。
恐らく色々な人にお金度外視の協力を取り付けたであろうことも含めて、予算不足は言い訳に出来なくなると思うから。

泣き虫オヤジ
amariftさんのコメント
2024年10月22日

沙倉「ゆうの」さんですね。
その他は全く同感です。
風間恭一郎の正体が分かった時には思わず声が出ました。
最後の立ち回りはどう始末を付けるのかと思ったら、そう来たか…とか。
最後のオチの時には周りも声を出して笑っていました。
確かに最初、訳も分からず彷徨う所では、警察に職務質問されたら一発アウトだよなぁ…とか、黒船来航のチラシを見てた時は数字とか全部読めるのかなぁ…とか思いましたが、お寺に身を寄せてからは出演者の名演技でストーリーに集中でき、全く気になりませんでした。
全員知らない役者さんでしたが、皆キャラが立ってて嫌味無く、非常に楽しめました。
正直、今年観た作品の中で一番面白かったです!
周りにも勧めてるんだけど、どうも反応が今一つなのが悲しいかな…

amarift
みかずきさんのコメント
2024年10月21日

はじめまして、みかずきです

仰る様に、低予算でもやればできるんですね。
製作費が少なくても、良い映画を作ろうという情熱と、
今まで売れなくとも懸命に精進してきた演技力と殺陣、
秀逸な脚本があれば、良い作品はできるんですね。

ー以上ー

みかずき