「侍の生き様に魂が震える」侍タイムスリッパー @花/王様のねこさんの映画レビュー(感想・評価)
侍の生き様に魂が震える
作り手の時代劇を愛する熱意を感じて目頭が熱くなる。
設定はSFなのだが、役者の鬼気迫る演技により物語の世界にグッと引き込まれていく。
主演の山口馬木也さん演じる会津訛りの真面目でお茶目な侍・高坂をいつのまにか応援し、共感して一緒に涙している。
佇まいが武士らしく、背筋の伸びた美しい所作に役作りへのこだわりを感じる。
冨家ノリマサさん演じる風見は物語の展開を加速させ、どちらに転ぶか予想できない結末に緊張感を保ちながら終盤の殺陣へと物語を盛り上げていく。
舞台挨拶のインタビューを読んだのだが、俳優陣やスタッフが忙しいスケジュールの中で合宿を組んで少しずつ撮影して完成させた作品だそうだ。
時代劇を愛する人が時代劇の良さを歴史に刻もうと挑んだ作品だからこそ観客の胸を熱くさせることができたのだと思う。
劇中で使われる「だが、今日じゃない」と言う台詞は映画「トップガンマーヴェリック」からの引用だと受け取った。
こちらの作品もトムクルーズがCGに頼らず今までの映画作りの原点に立ち返り、実際の戦闘機に乗る訓練を俳優陣が体験してリアルな表情を見事にフィルムに納めた映画史に残る作品だった。
両作品とも作り手の生き様を体感することができる。
ポリコレ配慮で時代背景にそぐわない俳優を起用し、史実をねじ曲げて映画に残すハリウッド作品に今作を見て学んでほしい。
時代を生きたキャラクターの所作や時代背景を尊重することで本当に描きたい世界を観客に伝えることができることを知ってほしい。
時代劇が地上波放送から消え、デジタルコンテンツでの映画配信に戸惑う年配の方も多いとお察しする。
劇場ではご年配の方も鑑賞されており、時代劇を映画として残したいのだと言うセリフに涙を拭っていらっしゃった。京都や松竹のスタジオで撮られた時代劇が懐かしい。
日本の時代劇=アメコミヒーロー的な立ち位置だと思う。
国民的に愛された勧善懲悪の物語はみんなが平等で悪者なんていないとする現代の価値観では描かれにくくなったが、今作では時代をタイムスリップさせることによって主人公を含めたキャラクターの心情の変化として描かれたことで物語に深みが増すと言う効果が生まれていたのは見事な脚本だった。
自分の好きな邦画第一位になった。
単館1館から全国上映にまで広がった侍の生き様をぜひスクリーンでご覧下さい。