「日ノ本はよい国になったのですね。こんな美味しいものが口にできる豊かな国に。」侍タイムスリッパー 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
日ノ本はよい国になったのですね。こんな美味しいものが口にできる豊かな国に。
とても、映画愛、時代劇愛に溢れた映画だった。正直、出てくる役者たちはみな歳をとりすぎていて、時代劇の現場の斜陽感がにじみ出てはいた。おまけにあまり拝見するような役者の顔ぶれではない。だけど、さすが皆、第一線で時代劇を支えてきた人たちだっていうプロ感は伝わってきた。そして本気度も。だからこそ、愛に溢れているのだ。
山口馬木也も歳をとった。剣客商売に出ていた頃の初々しさはとうに褪せている。だけど、剣を握らせたら一級品なのは変わっていない。ライバル役の冨家ノリマサもよく時代劇ではお見掛けしていたがここまで殺陣がお上手だと思ってもいなかった。つまり、劇中のシーンと同じように、ひそかに修練を重ねていた賜物なのだろうと感じ入った。そのお二人の、殺気みなぎる対決シーンは見ものだった。
そしてただの時代劇ではなかった。幕府側、倒幕側、どっちがいい悪いの描き方をしていないのが嬉しかった。なぜって、あの当時、どっちの陣営の武士たちも、自分たちは間違っていない、自分の進む道が国を良くすることだと、心底信じ切っていた。だから高坂は、現代に生きる人間にとってなんでない苺のショートケーキを口にしながら、涙を流すのだ。そして高坂も風見も、そんな純粋な侍の精神を持ち合わせている相手には、敵ながらリスペクトをするのだ。それがとても心地よかった。
で、そこまでの熱さがありながら、湿っぽくないのがいい。押しつけがましくないのがいい。やりすぎない笑いがあるのがいい。なにより、展開が想像と違った方向に転がっていって飽きさせないのがいい。最後、ああそうだ、どうなっていたのかちょっと気にはなってたよ、って終わるところも、とても憎い。
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