劇場公開日 2024年8月17日

「「カメラを止めるな!」を上回る大ヒット作品に化ける可能性大です!あっという間の2時間11分。面白さは断固保証します!!」侍タイムスリッパー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「カメラを止めるな!」を上回る大ヒット作品に化ける可能性大です!あっという間の2時間11分。面白さは断固保証します!!

2024年9月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

興奮

 現代の時代劇撮影所にタイムスリップした幕末の侍が時代劇の斬られ役として奮闘する姿を描いた時代劇コメディです。
 自主制作作品でありながら東映京都撮影所の特別協力によって完成させました。上映後にはまるで試写会会場のような、観客からの万雷の拍手に包まれました。これはもう同じ自主製作の小規模公開から火が付いた「カメラを止めるな!」を上回る大ヒット作品に化ける可能性大です!あっという間の2時間11分。面白さは断固保証します!!

●ストーリー
 幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は家老から長州藩士を討つよう密命を受けますが、標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまいます。目を覚ますと、あたりの様子がどうもおかしい。そこは現代の時代劇撮影所でした。ぼうぜんとする新左衛門でしたが、そのあと行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とします。
 一度は死を覚悟する新左衛門でしたが、行き倒れになっていた見ず知らずの新左衛門を寺に引き取り、寺男として働かせることにした西経寺住職(福田善晴)など心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していくのです。やがて彼は、助監督をしている山本優子(沙倉ゆう)の勧めもあって、磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、斬られ役として生きていくことを決意します。
 剣の腕を頼りに時代劇の斬られ役として順調に撮影所で評価を高めていく中で、かつての時代劇の大スター風見恭一郎(冨家ノリマサ)が、久々に製作される時代劇大作に主役として復帰し、その宿敵の役に高坂を指名します。実は風見は高坂が狙った長州藩士だったのです。

●解説
 繰り返しますがこの作品は、すこぶる面白いのです!実直な武士と現代の映画人が生み出す笑いや、立ち回りの緊迫感だけでなく、時代劇への愛がそこかしこからあふれ出していて、登場する俳優や殺陣師たちが言い放つ『時代劇を残したい』という熱い台詞に感動しました。
 直近で『箱男』を見て悶絶しただけに、侍スピリットや個々のキャラクターも分かりやすく描かれた本作には余計に共感を感じたのです。
 主演の山口馬木也の実直さ、宿敵風見役の冨家が放つ深い哀愁、高坂を助ける助監督山本優子への恋心などてんこ盛りですが、混迷もせず独りよがりでもありません。現代劇と時代劇をサラリと融和させ、娯楽映画に徹した潔さが作品の背骨になって、抜群に面白い作品となりました。もちろんコメディだからといって手抜きはありません。東映京都の熟練のスタッフと東映剣会が、逝去した福本清三さんの弔いを兼ねての全面バックアップ。どのシーンとっても緊迫した殺陣シーンを見せてくれました。
 侍がタイムスリップというアイデアに新しさはなくても、斬られ役俳優に焦点を当ててバックステージものとしたところが秀逸です。廃れゆく時代劇に向けた撮影所の情熱と武士の意地が重なり、映画は熱い!文句なく楽しめます。映画はカナダの映画祭で喝采を浴びました。

●感想
 特筆すべきは、笑いの中に涙があること。たとえば、新左衛門が居候先の西経寺で、ショートケーキを食べる場面。おいしさに驚いた新左衛門は住職夫婦に、誰でもこの菓子を食べられるのかと尋ね、「日の本は良い国になったのですね」としみじみ泣くのです。笑えるシーンなのに感動できるのは、セリフの内容が深いからです。
 また、こんな可笑しいシーンもありました。新左衛門が殺陣師の剣会に入門を願いに出かけたあと、残された居候先の西経寺住職たちが、箝口令を敷くところが何とも可笑しかったです。住職が奥さんや助監督の山本らに、剣会入門がダメになる「落ちる」「スベる」なんていっちゃダメと念押ししたのにかかわらず、新左衛門が無言で帰宅したとき、余りに腫れ物をさわるかのような神経質になりすぎて、面々が「落ちる」「スベる」言葉を言っちゃうのです。あれって寅さんのファンならご存じでしょうけれど、失恋し落ち込んで帰ってくる寅さんを向かえるくるまやの一家の対応そっくりでした。久々に大笑いしました。

 クライマックスでは、迫力ある長い立ち回りを披露してくれた山口馬木也にも注目。彼は、実は時代劇は最初、ちょっと嫌だったそうなんです。かつらは痛くて暑いし、現場の人は怖いから(^^ゞただ、新聞に自身の立ち回りを評価する記事が載ったことが救いに。立ち回りを大切にし演じ続けてきたそうです。
 クライマックスのシーンでは、撮影も兼ねる安田監督が引きの映像で撮っているため、山口と冨家の息の合った動きの全体が見せられてよかったです。思わず力んでしまうほどの緊迫したラストですが、どうか皆さん肩の力を抜いて、ただ楽しんで見てほしいですね。
※一部劇場ではシーンを追加した「デラックス版」が上映。

流山の小地蔵