劇場公開日 2024年8月23日

「しなやかな感性が、新しい視点とらえる」ラストマイル abukumさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5しなやかな感性が、新しい視点とらえる

2024年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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 「ラストマイル」は、小口輸送における最後の消費者への配達をさしますが、そこに爆弾が仕掛けられるという恐怖を描いた、サスペンスとして第一級の出来。
 ラストマイルを担当する下請け(孫請け)ドライバーの置かれている矛盾を突いた社会派ドラマとしても成功しています。

 映画の進行するテンポが軽快で、主演の満島ひかりと岡田将生の会話も小気味よい。一方で、大手流通事業者が下請け・孫請けの物流労働者や非正規雇用の従業員をいかに過酷に搾取しているかも描いています。

 これは、監督の塚原あゆ子、脚本の野木亜紀子、プロデューサーの新井順子、そして主演の満島ひかりなど女性陣の息があっている証拠です。しなやかな感性が、日本映画の犯罪ものには少なかった展開を実現しています。警察官・刑事が滑稽に描かれているのがいい。
 主要な刑事2人は男性優位で紋切り型なのですが、空回りしていてどこかとぼけ気味。他の警察関係者はアンナチュラルのUDIメンバーなど男女ともユーモラスで個性的、しかも職人風なので、別に見えを切って力まないし、犯人捜しにはあまり関係しない。犯人は企業側の2人が割り出す。

 圧巻は、満島ひかりがグローバル流通事業者(Amazonがモデル)を裏切り、ラストマイルドライバーと物流事業者のためにストライキを画策するくだり。これがよかった。
 物流2024年におけるドライバー不足と労働時間の削減課題は、宅配などの小口配送というより企業間輸送がメインですが、小口配送の運転者が搾取されているのは事実。
 ケン・ローチが「家族を想うとき」でも描いていたけれど、全世界的に非正規の運転者が、ウーバーやアマゾンのためひどい目にあっています。

abukum