「すべてはお客様のために」ラストマイル ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
すべてはお客様のために
テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」は観ていなくても、「ラストマイル」はオリジナル脚本で1話完結するストーリーなので、そのことが鑑賞の妨げにはならないだろう。
観客動員数、興業収入が記録を更新しているのは、そのドラマが根強い人気を誇っていて、続編を期待して、普段足を運ばないファンが映画館に来ているかららしい。
すべてはお客様のために、一見聞こえのいい言葉だが、それを実現するために、裏側ではとてつもない軋轢や歪みが生じているということを、経営元、物流センター、運送業者、荷物を配送する人と受け取る人まで描くことによって、白日の下に晒している、そこに労働者の1人として共感できた。
また、ノンストップムービーというところも、最近ダラダラ展開していくシーンが多いミニシアター系の映画ばかり観ていたせいか、そのテンポ感、スピード感がとても心地よく、飽きずに観通せた。
でも、サスペンスの部分は、なぜ従業員は飛び降りたのか、なぜその彼女は爆弾を仕掛け罪のない人を犠牲にしたのか、その動機がはっきりわからずモヤモヤした。そこは想像に任せるということなんだろうか。
この映画は、結局、過重労働が問題になっている。今私はECサイトの仕事に従事しているが、それよりも大学生の時に経験した巨大印刷会社の深夜の工場バイトを思い出した。365日24時間止まらないベルトコンベア、ストップさせることは許されない。資本主義のグローバル化は加速し、製造業だけでなく、流通業へと膨張し続けている。
巨大資本主義はなにもかも呑み込んで利益のために人を動かそうとする。資本主義と対決することは難しい。自分たちもその土台にのっていないと生活できないからだ。でも、資本優先になり過ぎた社会が明らかに歪んでいるのも確かである。