劇場公開日 2024年8月23日

「すべての働く大人たちへ」ラストマイル キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5すべての働く大人たちへ

2024年8月25日
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「アンナチュラル」「MIU404」共にストーリーがとても良かったので、本作も言うまでもなく期待はしていたものの、やはりどこかでTVドラマとのコラボ映画とタカを括っていた。
でも、観てみてびっくり。

決してコラボ部分に重心を置かない上品な構成。もちろんTVドラマを見ていない観客にもできる限り不自然さを与えない演出もニクイ。

昨今の物流が抱える問題を軸にして、しかし内容はさらに大企業による搾取や不当な取引の強要、高齢者問題にシングルマザー、非正規雇用、富裕層と貧困層との分断、中間管理職の疲弊、「企業理念」というまやかし。
物語は物流トラブルによるパニックのシミュレーションだが、テーマは物流に限らず現代のすべての現場に携わる労働者たちの苦悩や憤り、そして願いを描いている。

犯行の動機と、無差別爆破という行為がさすがに釣り合わない気もするが、それほどに深い「呪い」であったということ。
さすがに「人死に」が出ても物流は止めない、大事なのは株価…っていう辺りはやり過ぎというか、短絡的な気もするけどね。
グローバル企業の連中は賢いし、日本人よりも日本人のマインドとか分析してるから。

この映画を観て、勇気を貰う人もいるだろうし、もう一度自分の仕事や人生を振り返る人もいるだろう。もしかすると、重く喰らってしまうかも。

それでも、漫然と生きていくよりよっぽどマシ。

一つ忘れちゃいけないことがあるとすれば、ここに描かれた一見すると「悪行」に見える企業活動は、あくまで我々顧客のニーズに応えた結果生じたものだということ。
「ブラック企業を許すな!」
ではない。
ブラック企業を生んだのは、消費者のわがままや自己都合なんだ。
(多くの消費者が、宅配便の「再配達」を利用したことがある)

それでも
あなたは何を求めますか?
What do you want?

ぜひすべての「働く大人」と「働かせている大人」に観て頂きたい。

【追伸】
2回目の観賞。
前回は犯人探しに意識が向いてしまっていて、起きていることにちゃんとついていけてなかったが、今回は映画全体をちゃんと堪能できた。
満島ひかりの清々しい演技も良いし、羊運輸阿部サダヲの仕事ぶりにも熱くなる。火野正平もいい。
久しぶりにパンフレットも買いました。

キレンジャー