「他2作品との絡みが薄く必要性もなく、作中の嘘や矛盾が目立つ」ラストマイル sayさんの映画レビュー(感想・評価)
他2作品との絡みが薄く必要性もなく、作中の嘘や矛盾が目立つ
あぶデカで日本の警察が町中でバンバンピストルを打つとか
デスノートで警察が追う犯人が殺人手段に使っているのが
ノートと死神と言うファンタジーであるとか、
そういったフィクションの『嘘』は個人的には大歓迎である。
如何に事実の中に織り込んで矛盾を減らして綺麗に繋ぎ合わせるかが
作り手の腕の見せ所のひとつであると思う。
落とし込む過程で多少の嘘や矛盾が出ても無視できる、
それがエンターテイメントの力だと思う。
この許容ラインは人によって全く異なるだろうし、
作品の全体的なバランスに大いに左右されると思っている。
これまで野木さんが絡んだ作品はほぼ全て見てきていて、
単純な話の面白さはもちろんそういったバランスの取り方も含めて
手腕には絶大な信頼を抱いていたので、
当然今回もそうだと期待していたのだが
この映画についてはバランス合っておらず、エンタメと許せるほど
振り切れもしない嘘や矛盾が引っかかってしまい、
そうなるとご都合主義に感じてしまって自分は楽しめなかった。
「エンタメだから」と思える人は十分楽しめる内容だと思う。
実際面白いことは面白いのだろうと思うし、お勧めできると思う。
ただ、自分には向かない映画だった。期待しすぎた。
シェアード・ユニバースを謳っていたが、
そもそもシェアード・ユニバースとは別々の作家が同一の世界観を共有して
個々に作品を作り上げるものである。
これは監督脚本が3作品とも同じなので、シェアード・ユニバースではない。
ひとりの作家が自分の複数の作品で世界観を共有させ、同じ地名だったり
他作品の登場人物が出てきたりといったことは珍しくないことなのに、
事前の特番などで「ありえないことが起きている」「すごい」と
煽り過ぎだった嫌いもあると思う。
『アンナチュラル』と『MIU404』の出演陣も登場し、
俳優が豪華であることはそのとおりだ。
それぞれのテーマソングがかかったり、キーアイテムが出てくると
ワクワクもした。
ただ、必要性はなかった。
別に彼らでなくとも話が成り立ってしまう程度の関わりであり、
シェアード・ユニバースを謳った割にはただ同じ時間軸に暮らしている
というだけだった。
『アンナチュラル』は物語上まだしも必要性があったが、
『MIU404』に関しては必要性は全くなかったし大した出番もなく
非常にがっかりした。
何より、本作品の主人公であるエレナに全く感情移入できなかったことが
個人的には大きい。
孔はそれなりに共感できないこともなかったが、彼のスタンスとして
熱血的に関わる訳でもなかった。
予告を見ていて、仕事を止めない為つまり自分たちの為に
素人が探偵まがいのことをせざるを得ないところに追い込まれるという
真保裕一作品にあるような展開なのかなと思っていたのだが、
メインの2人は仕事に情熱があるとかデリファス社員であることに誇りがあるとか
そういったことは全くなかった。
デリファス社員は全員利己的で立場にしがみつくだけで、
仕事に誇りを持っている人間はいなかった。
羊急便の八木さんが一番共感もできたし、好きなキャラだった。
物流関係で働いている人と、外資系企業で働いて病んだ自分で観に行ったので
ふたりともそれぞれにキツい映画ではあったし、キツい部分描写はリアルだった。
最近の流行りだから仕方ないのかもしれないが、VFXを多用し過ぎていて
映像的に引っかかるところも多かった。
多摩モノレールが外の景色と車内アナウンスが合っていなくて集中できなかった。笑
(撮影秘話の特番でやっていたが、車両はセットで窓などの映像ははめこみ合成である)
冒頭のよくわからない秒速云々の落書きがそう繋がるのか、というのは
じわりときたし、そういう伏線というほどではないが小さい散りばめられたものは
やはり作り的には上手かった。
それから、主題歌はやはり良かった。
米津玄師さんは本当に繊細な天才だと思う。
しかしながら良い歌なだけに、『アンナチュラル』や『MIU404』のような
あの曲を聞くとドラマの色々な場面が走馬灯のように駆け巡る気持ちを
この映画のエンドロールを見ながら味わいたかった。
監督によるとポップコーンとビールを片手に楽しめる映画が作りたかったそうで、
だったらエンタメにもっと振り切っても良かったし
社会風刺のような重たい話題をいくつも詰め込まないほうが良かった気がする。
前2作品のような見終えた時のカタルシスのようなものが感じられなかったのが
非常に残念である。
エンタメに振り切るなら、最後の爆弾は伊吹たちが駆けつけて
それを羊急便の委託の人たちがサポートするとか
シングルマザーでお涙頂戴にしたいなら委託の息子が会社が倒産して
家で腐っていたから離婚して、娘たちがお父さんに会いたくてポチって
配達に来たお父さんがやり直そうとお母さんに言うとかの方が
よほど『ラストマイル』というタイトルの意味があったと思う。