「なんもない」トラペジウム ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
なんもない
1期生から3期生がメインで活動していた頃の乃木坂のファンで握手会やライブやによく通っていました。高山さんはどんな時も明るくムードメーカー、番組に出ている時も盛り上げ上手で、この人頼もしいなぁと常にほのぼのしていました。
数年前に刊行された原作小説も読んでいて、これ生々しいな…と当時なっていて、数年の月日が経ってまさかのアニメ映画化。CloverWorksが作っているというのにも期待してしまいます。
原作よりも描写描写キツくなってないか…?と思うくらい生々しさが増していて、超ドロドロアイドルもの、乃木坂の現役のあれこれも入っていて、アイドルだったからこそ描ける作品だったんだなと再認識することができるエグい作品でした。
今作の主人公はこれまたヤバいやつ。自分は捻くれた・拗らせてる・ちょっと生意気な主人公とか凄い大好物なんですが、今作の主人公・ゆうは物事を突き詰めすぎるが故に生まれた承認欲求の塊のようなモンスターで、自分のためなら他の人や事なんてのはモノのようにしか見ず、自分が納得できなかったらすぐに切り捨てたり、舌打ちしたりと相当性格は終わっていて、アイドルものでは初めて見る容赦のない子でした。
メンバー勧誘で呼ばれた3人は基本良い子たちなのもあって、ゆうの邪悪さが全開になっていて、一見すると難ありなんですが、夢に向かって真っ直ぐという感じにも受け止められて、夢に向かってる途中の自分からするとここまでの行動力があるのは本当に素晴らしいなと思ってしまいました。
ゆうに依存してしまっている3人という形にも見れるのはちょっと面白かったんですが、誰だって優しくされた人に懐くもんですし、その人がやりたい事に協力だってしちゃうもんです。ゆうはそれがやりすぎてしまった、ブレーキの踏みどころを間違ってしまった、最悪の事例だったなと思いました。
ボランティアを踏み台にするというのもなんか似た案件が過去にあったような…と善意をステータスのようにしか見てないというのも、第三者として観るとやはり滑稽で面白く、何か経歴あると誇れる(自分だと商業の検定とか謎にまだ自慢できるので笑)というものの体現だと思います。
乃木坂当時に男性トラブルがあったりして、それが直接的ではないとは思うんですが、紅白出場ができなかったり、メンバー間に亀裂が入ったりと色々あったのですが、今作でもメンバー間の恋愛の有無が絡んでくるというシーンがガッツリ描かれていてゾワっとしました。文章以上に映像になると重みがますなと思いました。
あと美嘉がサラッと言ってしましたが整形したというのが個人的には中々怖くて、自分そのものを変えるために顔を変えてしまうという行動が自分には分からず、実際アイドルになるために整形した人もいた事例があったりしましたし、これが乃木坂のメンバー間の話ではなく、噂に聞いた話の文章化であってくれ…と思ったりしました。
流れでアイドルをやってきた中でゆうがパワハラじみたレベルで物事を強要するようになってからゆうと3人の距離が空いていき、特にくるみが壊れてしまったシーン、決して絶叫するわけではない、崩れ落ちるように辞めると言ったシーンは怖すぎました。羊宮さんの演技もあり、その絶望はヒシヒシと伝わってきました。
ただゆうが一方的に悪いとかではなく、この子はこの子で夢を追い求めた結果がこうなってしまったというだけであって、サイコパスとかではなくこういう人もいるんだというところに落ち着いた感がありました。
10年後、4人が再会してそれぞれの生活をしていて、それで笑い合ってるという終わり方は良かったと思います。
4人でアイドルという道ではなく、それぞれの夢を叶えてという終わり方は実際のアイドルの卒業後の進路がバラバラで、それでもみんなやりがいを持ってやってるというものの表現だなと解釈しました。
正直言ってアイドルになるまでの過程を端折りまくっていて、そこそんなに簡単に成功するんだ?とか人生台無しにする手前の行動をやってきたゆうとそんなに早く仲直りするんだ?とか原作からカットしたところも多かったせいか、どこか薄く感じてしまったところがあったのは残念でした。
作画は抜群に良くて、けろりらさんのポップなタッチとダーティーな話のアンバランスさがクセになっていました。背景の描き込みやダンスシーンなんかも凝っていましたし、劇場クオリティになっていて大満足でした。
声優陣は上田さんと羊宮さんは安定して素晴らしく、結川さんは今期やってるアニメで、相川さんは今作で初めて知りましたがとてもよかったです。
最近何故か色んな作品で見かけるJO1のメンバーの木全くんも特別上手ってわけではないですが、キャラクターの不器用な面に合っていたと思います。
ただ老人役はなんでこの配役にしちゃったんだ?というので、ウッチャンはともかく、西野さんと高山さんはなんでこの役だったんだろうとなってしまいました。クラスメイトだったり、店員だったり、もっと役割があったはずなのに、見た目老人声女性という強烈な違和感が抜けずで困ったちゃんでした。
賛否割れて当然。こんなにも尖った作品がアニメとして生まれ変わって出てきてくれて良かったです。
アイドルもとい芸能界という世界はやはり厳しい、でも自分もそういう世界に行きたいからこそ言葉ばかりの努力ではなく行動で示していきたいです。ナンテネ。
鑑賞日 5/12
鑑賞時間 9:00〜10:55
座席 I-3