「アイドルがアイドルの闇を描くというメタ構造なんだけど、、一致度はどれくらいなんだろうか」トラペジウム Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
アイドルがアイドルの闇を描くというメタ構造なんだけど、、一致度はどれくらいなんだろうか
2024.5.11 MOVIX京都
2024年の日本のアニメーション映画(94分、G)
原作は高山一実の小説『トラペジウム(KADOKAWA)』
どうしてもアイドルになりたい女子高生が目的を達成するために他人を巻き込む様子を描いた青春映画風サイコホラー
監督は篠原正寛
脚本は柿原優子
タイトルのトラペジウムは「オリオン星雲の中にある四つの重星」のこと
転じて、4つの星によって、星雲全体が輝きを帯びている様を表す
物語は、絶対にアイドルになりたい主人公・東ゆう(結川あさき)の日常が描かれ、彼女の計画がひとつずつ実行されていく様子が描かれていく
関東近郊の高校に通うゆうは、幼い頃に見たアイドルに心を奪われていて、アイドルになるためにどうしたら良いかを日々考えていた
そこで彼女は、東西南北からひとりずつ美少女を選び出し、キャッチーでインパクトのある仲良しグループを作ろうと考える
最初に向かったのは、南にある聖南テネリタス女学院で、目当てはテニス部の華島蘭子(上田麗奈)だった
スパイと間違われて試合をすることになったゆうだったが、対戦相手に蘭子が選ばれて、それを機に友達になれるようになった
次に向かったのは、西にある西テクノ工業高等専門学校で、可愛いとバズっていた大河くるみ(羊宮妃那)の人気に便乗しようと考えていた
場所がわからずにその辺にいた写真部の工藤(木全翔也)に声をかけ、彼女の元に連れて行ってもらう
だが、変なファンが来たとして、くるみは逃げてしまう
工藤を通じて誤解を解いたゆうは、なんとかくるみとも仲良くなれるようになった
その後、本屋で可愛い女の子を見つけたゆうは、彼女が小学校時代のクラスメイトの亀井美嘉(相川遥花)で、彼女は「北」にある城州北高校だったことを利用する
その縁がつながり、ゆうの計画は第二段階へと突入することになった
映画は、アイドルの高山一実が原作の小説をベースにしていて、頭おかしいんじゃないかと思えるサイコパス主人公が、己の目的のために暴走する様子を描いていく
可愛い女の子はアイドルになるべきで、アイドルになりたくない女の子はいない、というスタンスになっていて、オーディションで落ちまくったにも関わらず諦めきれないという感じに描かれていた
当初は、新しい体験として、好意的に捉えていたメンバーも、やがてアイドルという職業の功罪にふれていくことで心が病んでくる
要は、アイドルになるには適性が必要で、それを満たしていない人から脱落するという感じに描かれている
最終的にグループは解散になるものの、その経験すらも踏み台にして、アイドルにしがみつくゆうが描かれていく
物語は、ひたすら自信過剰で自己中心的なゆうの暴走に巻き込まれるメンバーという構図になっていて、頭のネジが何個が飛んでいるキャラクターになっていた
彼氏発覚から「彼氏がいるなら友達になんかなるんじゃなかった」という衝撃発言などは、この人には人間の血が通っていないんじゃないかと思えてしまう
そこまで関係性が拗れても「アイドル体験は良かった」と結ぶのだから、狂気の沙汰としか思えない
個人的に気になったのは、アイドルは自称なのか他称なのかという点で、その範囲の広さというものも伝わってこない
ゆうが憧れたアイドルがどのような存在で、社会的な認知度とか影響がわからないので、目的地が不明瞭に思えた
地下アイドルを目指すのと、アイドルっぽい衣装を来て注目を浴びるのと、全国的なスターになるのとでは、目指す先が全く違う
彼女の戦略は「大人の思惑」を利用するものだが、きっかけを掴んだ後は「他者からアイドルと認知される必要」があるので、あっさりとSNSのフォロワー数で完敗を喫している時点で、それ以上には登れないように思う
諦めきれない彼女が、その後どうやって業界で生き残ったのかは描かれないが、その辺は描けない闇なのかなと思った
だが、彼女なら「何をしてでも注目されるポジションにいる」と思うので、それが経験則ではないことを願うばかりかと思う
いずれにせよ、アイドル目線でアイドルの物語を描くという視点に興味があって鑑賞した
もっとキラキラしたものかと思ったが、中盤はほぼサイコホラーで、闇堕ちしていく様はなかなか禍々しい
メンバーの誰かが自殺未遂をしても「弱いからよ」と見下しそうだが、そこまで振り切らなかったのは作者の良心か、経験則になかったからかもしれない
アイドルの裏側を描いてはいるものの、現在進行形で頑張っている同業者の足を引っ張っているようにも思うので、それで良いのかは何とも言えないところがある
それすらも戦略とするならば、主人公と中の人の一致度は相当高いのかな、と感じた
アイドル活動を蘭子の進路に結びつけるのは、特に強引に感じました。
9割9分ボランティアの影響だろ、と。笑
“稀有な経験”として「よかった」と言うだけならマシだったのですが…