「荒唐無稽な映画だけど、意外とハートフルなオチがあるので清められてしまいます」ジェントルマン Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
荒唐無稽な映画だけど、意外とハートフルなオチがあるので清められてしまいます
2024.2.14 字幕 T・JOY京都
2022年の韓国映画(123分、G)
ある興信所の男が事件に巻き込まれ、敏腕検事の肩書を借りて暗躍する様子を描いたサスペンスミステリー
監督&脚本はキム・ギョンウォン
原題は『젠틀맨』で「紳士」という意味
物語の舞台は韓国のソウル
興信所を経営するヒョンス(チュ・ジフン)は、少女ジュヨン(クォン・ハンソル)から犬探しの依頼を受けていた
犬の居場所は目星がついていて、ヒョンスはジュヨンをそのコテージまで案内した
「30分経っても出てこなければ向かう」と告げ、その時刻になっても何も起きなかったため、やむを得ず現場に向かう事になったヒョンス
中に入っても誰もおらず、少女の靴だけが転がっていて、ヒョンスはいきなり何者かに殴りかかられてしまった
目覚めると、そばにはナイフがあり、ヒョンスは何かの事件の犯人に間違われてしまうのではないかと恐れる
人気のつく場所に向かったヒョンスだったが、そこにはプライベートで現場近くにいたカン・スンジョン検事(イ・ヒョンギュン)がいて、彼は誘拐犯として逮捕されてしまう
だが、警察署に向かう最中、カン検事の車は事故を起こし、二人とも救急病院に搬送されてしまった
スーツ姿であること、たまたまそばにカン検事のIDカードがあったことから、ヒョンスはカン検事に間違われて治療を受ける事になったのである
ヒョンスが自分をハメた犯人を見つけるために現場に行くと、そこには事件を担当するファジン検事(チェ・ソンウン)がいて、彼女は「イカレ女」と呼ばれるほどに腕の良い検事で、事件を自分のものにしたいと譲らない
彼女は数年前の金融事件を機に干されていて、久しぶりの大掛かりな事件に色めきだっていたのである
映画は、ファジンとチャ刑事(イム・ソンジュ)に尋問されるヒョンスが描かれ、そこで行われたポリグラフ(嘘発見器)の結果が出るところから紡がれる
その結果は「嘘」だったのだが、その嘘が何かを暴露していく回想録になっていた
映画の構造を一言で言えば、「金融事件の首謀者だったクォン・ドフン(パク・ソンウン)にギャフンと言わせるためにファジンを巻き込んだ芝居」である
犬探しのジュヨンは金融事件で財産を失った家族で、屋台の夫婦(ソン・グァンジュ&チョン・ヘジャ)も同じく被害に遭っている
ヒョンスがその事件に肩入れするのは、彼が絶望の淵にいた時に温かい声をかけてくれたのが屋台のオーナーで、それ以降、この屋台しか通っていないというエピソードを語っていた(本当かどうかは不明)
カン検事は一連の金融事件を不起訴にした人物で、中央検事長(キム・グィソン)もグルで、しかも闇クラブを通じて、一般人女性を性被害に遭わせているという実態があった
ファジンがドフンに固執するのは、その金融事件を担当して、深く掘り下げたゆえに左遷された経緯があったからである
そして、ヒョンスは自分が事故に巻き込まれて生き残る確率、仲間が捕まった時の被害などを想定して、かなりの高リスクと知りながら作戦を実行に移す事になった
映画は、いわゆるドンデン返し系なのだが、宣伝が親切なのか良識があるのかわからないが「全員、この男に騙される」で止めているところが面白い
しかも、冒頭で「ヒョンスが嘘をついている」という暴露までしていて、さらにその上を行く嘘があるというのだから凄まじい
ラストでは、ドフンから抜いた金をどうするのかと思ったら、意外な顛末まで用意していて、ファジンに彼らを追う理由を無くさせているところも粋な演出になっている
かなり難しい構成の映画になっているが、なんとなくどうなったかがわかるように作られているので、初回でも全体像が掴めるのではないだろうか
いずれにせよ、久しぶりに期待値と予測を上回る内容になっていて、とても満足のいく映画になっていた
シリアスとユーモアのバランスも抜群で、キャラも立っていて覚えやすい
悪人もわかりやすい悪人顔をしているし、暴力描写も結構エグいので、細部のクオリティもしっかりと作り込まれていた
ネタバレ喰らっても伏線拾いに没頭できると思うので、その緻密なシナリオを体感するために「おかわり」をするのも悪くないのではないだろうか