「恥ずかしいという感情」ぼくが生きてる、ふたつの世界 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
恥ずかしいという感情
ろう者の映像作品ときいて頭に浮かぶのは、日本では「silent」、海外だと「コーダ あいのうた」。希望に満ち溢れた夢のある作品だと思う(silentは例外)一方で、いずれもフィクションでリアリティは無いなと感じてしまう。いい意味でも悪い意味でも映画的なストーリー。作り物感はどうしても否めない。
ただ、本作は作家・五十嵐大による自伝的エッセイを原作とした作品であるため、等身大でとても現実的な物語。そりゃそうだろと思うかもだけど、経験談だからこそ、ろう者・コーダについて初めて見たことや勘違いしていたこと、そして彼らの世界など、多くのことを知ることが出来、淡々とした作品ながらに、ものすごく響いたし、見る前と見た後では自分自身がいろんな面で変わったのを実感した。
どの家族にもそれぞれ抱えている問題や過去があって、この家族はたまたまその抱えているものが少し大きかっただけ。可哀想だね、苦しいね、大変だよね、という風に描かれていないのは、経験した作者本人の目線だからだろう。何も可哀想なことはない。何も特別ではない。たしかに、ろう者同士の子育ては批判されるだろうし、理解され難い。反対するのは、それもまたその親なりの愛。一瞬でも目を離したら子どもはどこかへ消えてしまうし、音の無い世界では、更に危険で大変だと思う。でも、たしかに愛がある。愛で溢れている。郵便屋さん、花壇、一人暮らし...。どのお母さんも子どものことを一番に思っているし、どのお母さんも一緒なんだな。
当たり前だったこと、普通だと思っていたことが、周りの何気ないひと言によって変だと、恥ずかしいことだと感じるようになってしまう。「インサイド・ヘッド2」でも同じ描写があったけど、やはりこの感情、成長していくに連れて避けては通れないものだと思う。何も恥ずかしいことじゃないのに、そのことに気づくのには長い時間がかかってしまう。
2時間しかないけど、五十嵐大という人物の成長をリアルタイムで追っているような、そんな気持ちになる。そして、お母さんをお母さんとしてではなく、1人の人間として見た時に彼はようやく気付く。この人がお母さんで良かったなって。その瞬間がたまらなくいい。
ぼくが生きてる、ふたつの世界。
すごくシンプルだけど、すごくいいタイトル。大ちゃんにとって、両親と話すためだけの手段だった手話。それがある人の出会いをきっかけに口で話すとは別の、新しいひとつの世界となり、彼の中で何かが変わっていく。
実際、ろう者の方と接する機会は少なく、仕事でたまに対応するくらいなのだけど、その度に感じる。なんで、自分はこの人と会話ができないんだろうって。手話がこなせる健聴者は、傍から見て偽善者のように、自己評価の向上のためにやっているように見えてしまうし、そう思われてもおかしくない。だけど、友人の従兄弟に耳の聞こえない赤ちゃんが生まれた時、初めて実感した。なにも、かけ離れた、遠い世界ではないんだと。だからこそ、この映画をきっかけにろう者の方、そしてそういった方と関わりのある全ての人に対する認識が少しでも変わればいいなと思うし、英語以上に身近であるということを自分も含め、知っていきたいなと思えた。
少しおぼつかない文章になってしまったけど、本作は見る人全ての等身大の何気ない成長を描いているからこそ、素晴らしい作品だった。なかなかこういう映画は見られない。素朴だけど、温かい。2024年を代表する、必見の作品。吉沢亮、やっぱいい役者だ。。。
みかずきです
主人公の両親に脱帽でした。
聴覚障害者であることをしっかり受け入れ、あるがままに自然体で生きています。自己肯定感が高くてGoodでした。
ー以上ー