劇場公開日 2024年9月20日

「「親ガチャ」と言われる今だからこそ」ぼくが生きてる、ふたつの世界 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「親ガチャ」と言われる今だからこそ

2024年10月3日
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鑑賞方法:映画館

「コーダあいのうた」は、青春音楽映画としても面白かったが、ラストで主人公が巣立った後、あの家族はどうなったのだろう、と気になってしまっていた。本作は、耳の聴こえない両親のもとで生まれた息子が、成長とともに葛藤を抱え、親元を離れて暮らした後、あらためて親を見つめ直すところまで描いている。テーマ性は「コーダ」より深い。
実際の体験を基にしているため、エピソードの一つ一つが、まさしくリアルに感じられる。人物にとことん寄り添う呉美保監督の演出力はさすがだが、原作のエッセンスを取り出して再構築した脚本の力も大きいだろう。
一見、特殊な親子の物語のように見えるが、扱っているテーマは普遍的。いやな言葉だが「親ガチャ」と言われる今だからこそ、自分と親との関係を見つめ直すことを描いた本作は、意義深いと思う。
主役の二人だけでなく、出番の少ない脇役もみないい味を出していた。子役たちが、吉沢亮の小さい頃のようで驚く。忍足亜希子と烏丸せつ子も、本当の親子のように似ていた。
平日の昼間のせいもあり、観客はシニア層でまばらだったが、もっと多くの人に知ってもらいたい作品。エンドロールの歌にも泣ける。

山の手ロック