「耳が聴こえない両親を持った少年の誕生時点から、成長に伴って感じ始める悩みや苦しみを時に生々しく描いた人間ドラマです。次第に両親への理解と感謝の心を持つに至る姿に胸が熱くなります。」ぼくが生きてる、ふたつの世界 もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
耳が聴こえない両親を持った少年の誕生時点から、成長に伴って感じ始める悩みや苦しみを時に生々しく描いた人間ドラマです。次第に両親への理解と感謝の心を持つに至る姿に胸が熱くなります。
日本版コーダのお話と予告を観て知りました。
フランス版「コーダ」では、新しい世界に飛び込む
少女の姿が描かれましたが、こちらはどんな作品なのか。
気になった作品は鑑賞です。
「エール!」や「コーダ あいのうた」で外国のコーダのお話は
観てきましたが、日本のコーダのお話はどう描かれるのか。
さあ鑑賞。
冒頭、港で船体の塗装をする男の場面からスタート。
休憩時間のチャイムがなっても作業を続けている。
その男に近づき、別の男が背中をたたいて合図。
気付いて振り向いた男、いそいそと帰っていく。
帰宅した男の家には、何名かの大人たち。
部屋の中には、ふとんに寝かされた赤ちゃん。
周りにいるのは、この赤子の両親や親戚たちらしい。
祖父。祖母。
父と母。この二人は耳が聴こえない。
叔父と叔母。
この赤ちゃんが、どうやら主人公。
ろう者を両親に持つ子供の話なのは知っていたが
生まれた直後からコーダを描いた作品とは予想外 ・_・;
幼稚園
家に来た友達から「お前の母さん変わってる」と言われて
何となく「そうなのかも」と気付きだす。
⇒遊びに来たトモダチに悪気は無いと思うのだが…。
この年頃の子供の無邪気な発言は、刺さります。
小学校
近所の家の育てている鉢植えの花を壊した犯人にされかけて
母が通りがかっても事情が上手く説明できずに逃げ出してし
まったことも。
⇒近所のおばちゃんの決めつけはヒドイと思う…。
言いくるめて犯人をでっちあげようとしていたのだろうか。
中学校
三者面談にお祖母さんに来てほしかったのに「どうしても」と
母親がきてしまい、結果ほとんど会話に参加できていなかった。
⇒先生との会話の中から、自分の現状について色々と察する事を
期待していたのかもしれない と推測。
◇
帰宅した際にランプを点滅させ「帰った事」を知らせる場面が
印象的。(エールやコーダにもあったような気も)
小さな頃は数回チカチカと点灯させていたのが、中学生の頃には
おざなりに1回だけ押してすぐ部屋に引っ込んでしまうのも印象的。
次第にそういった「耳の聴こえない親」への配慮が面倒くさく
なっていく様子が伺える場面。
そして主人公は成人し、親元を離れる。
最初の頃は役者を目指していたようだが、次第に挫折。というか
家を出たかったのだろうかと推測。
結局は東京に出て、パチンコ店の店員。
耳の聴こえない客の欲しい景品を手話で通訳したのをきっかけに
聾者の集まりに顔を出し始めたり、物書きの仕事に興味が涌いたり。
訪問した幾つめかの出版社で、自分を飾るのに嫌気がさして自分を
さらけ出して面接を受けたら結果採用されたり。
※この出版社のユースケ・サンタマリア演じる編集者のうさん臭い事。♡
◇
8年ほどが経過。父が倒れて帰郷。(実家は宮城県石巻市)
父は命を取りとめ、何度の涙を流す母。
祖父は既に亡くなっていて仏壇の中。
祖母も体の調子が芳しくない。
「こっちに戻ろうか」
そう切り出す主人公だが、大丈夫とやんわり返す母。
外出からの帰り、電車を降り先を歩く母の姿を見て、
自然と涙が溢れてくるのを堪えきれない主人公。
この涙の姿はとても印象的。
ある程度大人にならないと、親の気持ちはわからない。そういう
ものかもしれませんが、 ” あぁ分かる ” と納得できる場面でした。
日本のひとつのコーダの物語。
観て良かったです。
◇あれこれ
■日本のコーダ
人口が2万数千人とか言ってました。…ふむ
多いのか少ないのか、何とも言えない数字です。
” やれることを取り上げないで ”
コーダ仲間の(というか、ろう者の)集まりに参加した際に
料理の注文などを引き受けようとした大に、親しくなった一人
がかけた言葉が印象的でした。
■手話にも方言?
「ウソ」を手話で表現したら、宮城生まれ?と言われた大。
宮城と東京では、手話の表現が違っていると分かる場面。
見ていて思わず「うそーん」と突っ込みました。
日本統一では無かったとは知りませんでした。@-@
■母さんゴメン
” こんな家に生まれたく無かった ”
” 母さんは何も協力してくれなかった ”
作中でさんざん母をののしった大。うーん。
気持ちは分からないではないけれど…
※何故かグレープの「無縁坂」の歌詞が頭に浮かびました。
■父さんゴメン
父ちゃんは死んだのだろうと思っていました…。
予告編を何回か観たのですが、その中に居なかった気がして
小さいころに亡くなって母子家庭なのかと。
最後まで健在でした。誤解してすいません。
■爺ちゃんはしょーがないかも
生前、あれほど嫌っていた祖母のお経。
自分が死んだ後、延々と仏壇の中で聞かされる事になるとは。
まあ、酒飲みの博打打ちのようでしたから自業自得か。
とはいえ少しだけ気の毒な爺さんでした。@_@
◇最後に
「ふたつの世界」のタイトルの意味するところを、少しだけ
考察してみました。
シンプルに 耳の聞こえる者 と 聴こえない者
身内に ろう者がいる者 と いない者
ろう者に 関わる者 と 無関心な者
手話を知らない自分ですが、無関心にはなりたくないなと
思います。身振り手振りであれ、困っている人がいたら何か
の助けになれれば良いのですが。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
共感ありがとうございます。
大の「こんな家に生まれたくなかったよ!」は流石に酷い、お母さん返す事が出来ず黙ってしまいますが、「コーダ」ではお母さんの方が「聴こえているのがショックだった」どっちが酷いんですかね? ガチャはお互い様なんでしょうか、ちょっと嫌な事を思い出しました。