「青山剛昌作品オールスター集結、ファン感謝祭!」名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ) 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5青山剛昌作品オールスター集結、ファン感謝祭!

2025年4月19日
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鑑賞方法:TV地上波

笑える

楽しい

《金曜ロードショー》にて。
【イントロダクション】
劇場版『名探偵コナン』シリーズ、第27弾。
北海道・函館を舞台に、新撰組副長・土方歳三に纏わる日本刀を巡り、コナンと服部平次が怪盗キッドと対決。やがて、刀に隠された秘密と財宝の在処を巡って、複数勢力が対立するお宝争奪戦へと発展していく。
監督は、『紺青の拳(フィスト)』(2019)、『緋色の弾丸』(2021)の永岡智佳。脚本は、これまで『から紅の恋歌(ラブレター)』(2017)、『ハロウィンの花嫁』(2022)等を手掛けた、推理作家の大倉崇裕。

【ストーリー】
明治元年(1868年)。新撰組副長・土方歳三ら旧幕府軍は、箱館(函館)の五稜郭を本拠地とし、春に来たる戦いへと備えていた。
土方は、刀鍛冶である東窪榮龍(ひがしくぼえいたつ)が打った星稜刀(せいりょうとう)を手に、刺客達を斬り伏せた。

時は経ち現代。北海道を拠点とする斧江財閥の現当主・斧江拓三(おのえたくぞう)の元に、怪盗キッドから予告状が届いていた。キッドの狙いは、財閥の収蔵庫に保管されている、土方歳三所縁の脇差二振り。
“キッドキラー”として、鈴木園子の手配で函館を訪れていたコナンと服部平次一行。服部はキッドの変装を見破り、彼と対決するが、間一髪のところで逃げられてしまう。
服部は、脇差しでキッドの帽子を斬りつけた瞬間に見た彼の素顔が工藤新一に酷似している事から、コナンとキッドの関係性に疑問を抱く。

翌日、函館で剣道大会が開催されており、服部の剣道のライバルである沖田総司は個人戦の駒を進めていた。コナン達は服部の応援のため会場を訪れていたが、彼の姿が見当たらない。会場で、和葉は居合のパフォーマンスを披露した大学生・福城聖(ふくしろひじり)と出会う。和葉の天真爛漫な振る舞いに、聖は彼女に対して好意を抱くが、服部はその事を知らない。
一方、和葉の恋敵である大岡紅葉も、服部を応援する為ヘリで北海道を訪れ、和葉への告白を阻止しようと目論む。

その頃、函館倉庫街では胸に十文字の傷が付けられた男の遺体が発見される。遺体の身元は斧江財閥の顧問弁護士の久垣澄人(ひさがきすみと)で、所持していた刀を持ち去られていた。北海道警の川添善久(かわぞえよしひさ)によれば、盗まれた刀は斧江財閥の初代当主・斧江圭三郎が函館に隠した宝の手掛かりであり、その宝は当時の戦況を一変させるほどの兵器だったという。

捜査の結果、ブライアン・D・カドクラという人物が容疑者として浮上する。カドクラは、表の顔は慈善事業家だが、裏では武器商人として活動する「死の商人」であり、圭三郎の隠した宝が兵器であると知った彼は、それを手にしようと函館を訪れていた。カドクラは、久垣が持っていた刀を所有していたが、キッドに盗み出されてしまう。

刀を手に入れたキッドだが、突如、黒い狐の面を付けた謎の剣士に襲撃される。卓越した身のこなしと剣の腕を持つ剣士の前に、キッドは圧倒され窮地に立たされる。そこに、キッドを追って来たコナンと服部が到着し、なんとか撃退に成功する。
キッドは助けてくれた礼として、2人に刀と斧江家の宝の詳細を明かす。東窪榮龍が打った六振りの刀のうちの四振りが、キッドが斧江財閥の収蔵庫から盗もうとした脇差二振りと、カドクラの元から盗み出した刀二振りであった。そして、残る二振りは、福城聖の父・福城良衛(りょうえ)が持っているという。

キッドは、盗んだ刀と謎解きをコナンと服部に任せ、2人は福城家に向かう。
その後、宝の手掛かりとして東窪榮龍の刀六振りの他にもう一振り、星形の鍔が付いた星稜刀の存在が浮かび上がる。

やがて、宝の謎を巡って、函館の地で壮絶な争奪戦が繰り広げられる。

【感想】
私は、劇場版シリーズは殆どを劇場鑑賞しているが、本作は公開当時に他作品の鑑賞を優先して見送った。本作最大の語り草となっているポストクレジットの内容についても、ネタバレを読んで把握する始末だった。
しかし、いざTV放送という“無料のかたち”で本作を鑑賞してみると、どうやら、その判断は間違ってはいなかったようだ。

公開当時、ネットで「公式が同人最大手」なんて言われていたのを思い出した。
本作は、一言で言うなら「青山剛昌作品のスター大集合作品」。究極のファンムービーとも言える。
青山剛昌先生の過去作である、『まじっく快斗』や『YAIBA』といった作品からもゲストキャラクターが登場し、それぞれに見せ場もあるので、ファンには堪らないだろう。

また、登場人物の多さに加え、アクション重視となりつつあるここ10年程の作品群の中でも、群を抜いて荒唐無稽なアクション全開であり、最早笑うしかないレベル。
・函館の街中でのカーチェイスに銃撃戦
・服部と聖(ひじり)による、爆弾を搭載したセスナ機の主翼上での斬り合い
・コナンを援護する為、伊織によるフラッシュバンによる目眩し
・ロープウェイのケーブルをスケボーで爆走etc.
「あれれ〜?コナンってバトルアニメなんだっけ?(最近は、もう割とそう)」
というか、伊織によるフラッシュバンの援護は、コナンだって危ないだろ(笑)あと、本来なら伊織は、服部の告白を邪魔する為にフラッシュバンを使うつもりだったの?(笑)

土方歳三を巡る、五稜郭に隠されたお宝に関する謎解きや真相は、それ自体は興味深かった。お宝の正体が、現代では全く役に立たない過去の遺物である“暗号機と解読機”というのも良い。とはいえ、お宝が財宝ではなく兵器とあっては、その時代の科学技術レベルを推察すれば、兵器の力も高が知れそうなものだとは思うが。
問題なのは、先述した登場人物の多さから来る謎解きのテンポの悪さだろう。ミステリー要素含め、ここに集中すれば、歴史ミステリーとしてもっと面白くなりそうだっただけに残念。

しかし、それについては、脚本の大倉氏も重々承知の事だと思う。元々、大倉氏が劇場版シリーズを初めて担当した『から紅』は、ミステリー作家らしいトリックや犯人の動機が設定されており、それこそが、本来推理作家・大倉崇裕の本領なのだろう。だが、『相棒』シリーズの櫻井武晴氏とローテーションで劇場版シリーズの脚本を担当する事になって以降、基本的に、シリアス路線は櫻井氏が、コナン本来のジャンルであるラブコメや荒唐無稽なアクションは大倉氏が担当するようになった。言ってしまえば、損な役回りを任されている。しかし、これだけの数のキャラクターに活躍の場を与え、ラブコメとアクションを成立させるのは、大倉氏でなければ出来なかった事だと思うので、本作を大倉氏が担当したのは、ある意味運命かもしれない。また、その苦労は推して知るべしだ。

本作最大のサプライズは、コナンこと工藤新一と、怪盗キッドこと黒羽快斗が“従兄弟”だったという点だろう。
元々、ファンの間では「2人の顔が似ている」というのは、「作者が同じ事によるキャラクターデザインの酷似」というメタ的な理由として理解されてきた。声優がどちらも山口勝平なのも、それを逆手に取ったアニメスタッフのジョークだったはずである。
しかし、コナンの連載の超長期化により、本来スターシステムによるゲストキャラクターだった怪盗キッドは準レギュラー化し、度々劇場版のキーパーソンも務めるようになった。また、快斗の父である初代怪盗キッドこと黒羽盗一の生存が確定された事も、長年ネット上で「黒の組織のボス候補」の1人として囁かれてきた彼の黒幕説を盛り上げる要因となった。
つまり、このラストはファンと公式が作り上げた、一つの成果物とも言えるのだ。ただし、こうした種明かしによって、公式に対して悪ノリという印象を受ける人が一定数居る事も仕方ないと思う。

ゲスト声優である大泉洋の演技力は流石である。しかし、過去にコナンシリーズにゲスト声優として参加した浜辺美波や白石麻衣といった女性陣の「クレジットを見なければ、プロの声優が演じたとしか思えない」という、違和感ゼロの熱演ぶりと比較すると、若干見劣り(聴き劣り)するのは間違いない。

そんな珍妙とも言える本作において、私が唯一手放しで賞賛したいのが、趣向を凝らしたオープニングムービーだ。『ハロ嫁』以降、オープニングムービーに趣向を凝らすのが定番化しつつあるが、本作のそれは現時点での最高傑作と言って間違いないだろう。特に、ステンドグラスに映し出される新一と蘭のデートシーン、燃え盛る大地に突き刺された刀群の一刀に映るAPTX4869のシーンは素晴らしい。
余談だが、大地に無数の刀が突き刺さる演出は、ルーツこそ黒澤明の『七人の侍』オマージュだろうが、21世紀の作品としては、どうしてもゲーム『Fate/stay night』の1シナリオ、「Unlimited Blade Works」に登場する技を彷彿とさせるのだが…。

【総評】
歴代一のお祭り騒ぎ、膨らませれば傑作となったに違いない歴史ミステリー要素と、何とも珍妙な一作だった。
ラブコメとしても、ラストの服部の告白シーンは、直前のフラッシュバンによって和葉の耳が聴こえないというのは容易に想像出来、結果として蘭や紅葉によるコミカルなシーンばかりが印象に残るものとなってしまい、『から紅』のような純度の高いラブコメと比較するとお粗末なものだった。

それにしても、本作の興行収入は158億円。観客動員数は1,000万人超えと、劇場版シリーズは益々日本の映画興行を支える最重要シリーズとなってしまった。それにより、原作の完結もまだまだ当分先になると想像すると気が遠くなる…。

緋里阿 純