「McGuffinに翻弄される冒険ミステリ」名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ) LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
McGuffinに翻弄される冒険ミステリ
土方歳三+五稜郭、序盤はコナン版ゴールデンカムイ?と怯んだ。
しかし終わってみれば、犯人もお宝もミスリードと種明かしのバランスが程よく、心地よく翻弄される冒険ミステリに仕上がっていた。本作は (1)久垣弁護士の殺害事件、(2)斧江家の宝探し、(3)平次と和葉の恋模様との3つが軸になる。(2)と(3)は密接に関連しているが、犯人と宝の謎解き的には個別に行われる。
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1. 殺人犯のミスリード
被害者の久垣澄人の遺体には、特徴的な刀傷が残っていた。また彼が斧江財閥の顧問弁護士であることから、キッドが斧江財閥から盗もうとした刀や、斧江家の祖先が遺した宝に関連した殺人事件だと示唆される。この時点で、宝を狙い、不必要に刀を振り回すカドクラ(銀河万丈)が怪しげに映る。
一方で、剣道大会で演舞を依頼される程の居合の達人、福城聖(松岡禎丞)が登場すると、彼にもフラグがたっているように見える。特に、逃走中のキッドの前に現れ、平次と互角に刀を交わす狐面の男の背格好が福城聖と酷似しているので、彼への疑いが高まった。ただ、直後のシーンでコナン達が福城家を訪ねた際に、聖の方から因縁をつけて平次と木刀を交わそうとする場面があり、おやっと思う。もし、聖が本当に狐面の男なら、平次にバッチリ太刀筋を知られているので、魔をおかず木刀を交わしたらさっき襲ったとバラすようなものなので、聖は狐面の男ではないのかもと思い直す。ただそうすると、背格好からカドクラも狐面の男ではないので、犯人の検討がつかなくなる。
川添善久(大泉洋)にもかき回された。自動車の駐車に失敗するへっぽこ登場をするが、しばしば証拠品を目敏く拾ったり、吉永神子(高野麻里佳)をコナンに託したり、怪しげな笑みを浮かべる。なので、彼の剣術の腕前は定かではないが、殺害犯か狐面の男か、或いは宝に関する黒幕なのかとかなり翻弄された。結果、エンドロール後に黒羽盗一だったと明かされ、殺人には関与していなかった。
終盤犯人は、聖の父・福城良衛(菅生隆之)だと分かるが、彼は自分には剣術の才がないと嘘をついていたり、終始病で体の自由が効かないアピールをしていたので、完全にノーマークだった。ただ後から考えれば、父子で背格好が似ているので、狐面の男が良衛の可能性もあった。ただ、コナン君のように指の傷から居合の達人と判断するのは無理があるので、これが唯一のヒントなら若干アンフェアではある。ただ、敢えて息子の聖を容疑者として疑わせて警察に拘束させることで、宝を狙う悪漢から護り、自分が悪漢に捕まっている間に「宝」の破壊を息子に実行させようとした作戦には妙に説得された。全く読めなかったので、騙された読後感が爽快だった。ただ、聖が北海道警から脱走できるという前提は、漫画っぽ過ぎるかもしれない。
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2. 宝(McGuffin)のミスリードとドラマ性
序盤、「宝」は金銭的な価値がある財宝と連想されるよう提示されるが、中盤で「戦況を一変させる武器」と明言される。核兵器のようなイメージ映像も流れ、明らかに大量破壊兵器かのようにミスリードされていた。
ただ個人的には、財宝と思わせ武器と明かす展開から、殺傷兵器と思わせて実は違う意味で"兵器"になり得ると展開しそうに思えた。近代戦では情報が重要なので、通信手段に関わる何かと邪推した。具体的にどんな機器なのかまでは解らなかったが、当時は最新機器でも半世紀過ぎた現代では役に立たない旧式というオチが付きそうな予感はした。
実際に見つかった「宝」は、Enigmaみたいな暗号機だった。完全には予想が当たらなかったが、現代ではスマフォの計算力にも劣る無用の長物というオチは予想通りだった。「宝」を求める冒険譚で、無価値なものが見つかるオチはよくある。「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」はその好例。発見された聖櫃はある意味すさまじい「力」を持つが、開けた者に悲惨な末路が訪れる。
ヒッチコック等は、冒険譚で登場人物が探し求める目標をMcGuffinと呼んだが、McGuffin自体は何でもいいし、冒険の動機づけにさえなれば、最終的に意味がなくても構わない。本作の宝はMcGuffinの典型であり、殺人も犯人の半生も無駄だったと思い知る最大限の罰に繋がる。この展開を肩透かしに感じる観客もいそうだが、ある程度年齢を重ねると身につまされるドラマ性を感じる。
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3. 逆に読めちゃう定番展開
宝の正体こそ読みきれなかったが、終盤の舞台が函館山なのは中盤で分かった。それは、毛利蘭(もしくは少年探偵団)の危機をコナンが救うのがコナン映画の定番だから。和葉への平次の告白を何とかして成功させたい蘭は、100万$の夜景が望める函館山を推す。蘭がその現場を見逃す訳がないし、映画の表題も「100万ドル」と明示している。
定番展開は無いと固定客ががっかりするので、観客に隠すがそもそもないだとは思うが、終盤のクライマックスがほぼほぼ毎回似ていると飽きられやすくなるリスクはある。しかし、本作はエンドロールに黒羽盗一の素性と、コナンとキッドがそっくりな理由が明かされるオチが最大のクライマックスになったので、エンドロール前は定番な展開で良かったかもしれない。
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4. もはやドロンジョな大岡 紅葉
コナン映画のコミックリリーフは、阿笠博士や少年探偵団に任される事が多いが、本作で終始ボケをかましまくったのは大岡 紅葉と伊織無我。金持ちキャラらしく、飛行船で優雅に登場。平次が事件を捜査しだすと和葉そっちのけで夢中になってしまうことを何故か理解しておらず、和葉への告白に使われそうな北海道の観光スポットを巡り右往左往する。公安出身で優秀な執事であるはずの伊織無我も、有名な観光地を初めて知ったかのような口ぶりだし、閃光弾を落とす始末。閃光弾の音で、耳を塞がなかった和葉は平次の告白は失敗するので、伊織はお嬢様の目的を見事に果たす。ただ恐らく、紅葉も無我もその事実を把握してなさそうなので、やっぱりタイムボカンのドロンジョと手下に見えて仕方ない。
ただ、伊織無我は馬鹿なふりして、敢えてお嬢様を意中の相手から遠ざけていたのかもしれない。それが、悪い虫がつかない為の忠誠心が、自身が紅葉に秘めた恋心なのかはわからない。ただ、だとすると閃光弾の投下は本当に失敗なので、いずれにせよポコンツ感は拭えない。