「つわものどもが夢の跡、真の政を造っていく」もしも徳川家康が総理大臣になったら 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
つわものどもが夢の跡、真の政を造っていく
今ハリウッドだっておふざけと大真面目の『デッドプール&ウルヴァリン』やってるんだもん、日本だって。
どんなバカも許される。日本映画に於いてそれは矢口史靖か河崎実と思っていたが、この人も。武内英樹。
原作はあり。それは『テルマエ・ロマエ』や『翔んで埼玉』も同じ。
それを映像化…しかも実写でやろうとする事が、“偉人”ならぬ“異人”なのである。
コロナで総理大臣が死去。未曾有のパンデミックと政府の不機能で日本大ピンチ…!
日本を建て直すには、新たな内閣が必要。役に立たぬ現政治家どもの普通の内閣じゃ到底無理。“特別”な内閣が。
そして白羽の矢が立ったのが、歴史上の偉人たち…!
どうやって…? クローン…? ビルとテッドみたいにタイムトラベルして連れてくる…?
いやいや、もっと現実的な方法が。
AIとホログラム。
って言うかこれって、昨年のハリウッドのストライキの争点だよね…?
AIとホログラムで演技させるどころか、組閣する。
奇想天外でぶっ飛びでありえねー!新内閣の顔触れは…
聖徳太子。法務大臣。
紫式部。文部科学大臣。
北条政子。総務大臣。
足利義満。外務大臣。
徳川綱吉。厚生労働大臣。
徳川吉宗。農林水産大臣。
坂本龍馬。官房長官。
そして三英傑。
織田信長。経済産業大臣。
豊臣秀吉。財務大臣。
総理大臣は徳川家康。
生きた時代もばらばら。最古の聖徳太子から坂本龍馬まで、1300年以上離れている。
徳川初代・5代目・8代目のご対面。
歴史上の偉人のオールスター夢の共演。番宣なんかで“偉人ジャーズ”なんて言われてるけど、本当にそう。前に『首』のレビューでも書いたけど、歴史上の偉人ってリアルアベンジャーズ。
ありえねー!荒唐無稽な設定でも、何だかんだワクワクしてしまうのだ。
各々が後世に遺した功績や偉業に応じた役職に就いているのがなかなか面白い所。だから、織田家臣にいた家康が織田より上の総理大臣?…という疑問にも納得が付く。
アベンジャーズも当初はぶつかり合ったように、偉人たちもキャラ濃い目で時代も考えも性格も全く違う。そんなんで一国を担える…?
偉人たちには自分たちが特殊な方法で遥か未来の現世に蘇った事、自分たちやその後の歴史や現代の情報をプログラム済み。なので、三英傑の関係性や徳川将軍たちとその幕府を終わらせた竜馬の間にも遺恨ナシ。
何てご都合主義であると同時に、何て便利。
また戦でも始めて貰っちゃあ困る。任期は限定の一年。戦以上の大任が彼らに課せられていた…。
各々の手腕や才で危機に瀕した日本を救う。
もし今、歴史上の偉人が居たら…?
そう思う事もある。それを、映画の中で実践。
でも、実際にそう上手くいく…? 昔と今じゃ何もかも違う。
やってる事はこれまたご都合主義で荒唐無稽でありえねー! 実際だったら、大問題大事件レベル。
でも中には、完全ロックダウンやスピーディーな給付金配布など、コロナ禍に於いて実際に実践した国もある。単なる世迷い言、理想事だけじゃない。
日本はコロナ禍に於いても大震災時に於いても、いつもいつも後手後手に回り、何も出来なかっただけ。やろうとしなかっただけ。
先行きの事を考え慎重になっていたのかもしれないが、慎重過ぎるのと何もしないのとは紙一重。
今の日本の無気力さ、軟弱さを歴史を変えた偉人たちが見たらどう思うか…?
目を覚ませぇい!
彼らは実際に、現代の我々が想像も付かない修羅場をくぐり抜けてきた。道を開いてきた。
今こそ、彼らの教えを乞いたい時。
基本はコメディ。偉人たちによる自虐的な笑いも。
徳川綱吉は生類憐れみの令で“犬公方”としか知られていない事にショック…。
徳川吉宗は暴れた事もないのに“暴れん坊将軍”とされてショック…。
紫式部は次の大河ドラマの題材に。
北条政子はどっかで聞いた事ある音楽と共に“部屋”のトーク番組。
終盤、天岩戸隠れの如くトラックから現れたのは、日本の最高神。この方だったら天皇レベルでしょう。
新撰組と竜馬の共闘。歴史的な和解。
何もかも祭りごと。秀吉のパリピな性格。
竜馬の人を惹き付ける魅力。
そして信長のカリスマ性は現代人も虜にする。
一番ウケたのは、あるシーンのある台詞。「どうする家康!?」。ここで言うか!(笑)
これで真面目にやっていたらドン引き。豪華キャストたちがちゃんと分かっているコントかコスプレ大会のようなオーバー演技。
それはそれで真面目にやっている。信長=Gackt、秀吉=竹中直人、家康=野村萬斎はある意味ハマり役。
浜辺美波も先日見たばかりの『サイレントラブ』よりずっとキュートだった。ただ、竜馬とのロマンス匂わせは不要だったかな…?
そう、荒唐無稽なコメディである。
だからと言って、雑な描写や設定に目を瞑る事は出来ず…。
舞台設定はまだコロナ禍の2020年~2021年。なのに、ほとんどの人がマスクをしていない。話の発端はコロナだよ…?
信長がCMで三密を避けぇい!…と言うが、あっちゃこっちゃで密。
ロックダウン。皆は外出はしてならず。新撰組で取り締まるほど。だけど、口座を開いてない者は給付金を手渡しでやるから取りに来いや。あれ、ロックダウン下じゃないの、太閤殿下…?
政策がまとまらないように、脚本家が何人もいて、アイデアまとまらなかったのかな…?
祭りごとに浮かれ、設定忘れたのかな…?
ずっとご都合主義な政策やネタみたいな笑いだけだったら、映画としても退屈極まりない。
史上最高の支持率を誇り、国民から歓迎されていた家康内閣に、不穏が…。
改革をさらに推し進める信長と、慎重派の家康。対立が噂される。
国民の意見ははっきり。信長支持。信長新総理待望の声まで…。家康人気下落。総理を辞めろ!江戸時代に帰れ!とまで…。
何だか、国民の政権への不満は結局全く変わらない。
そんな矢先、家康が…。やはりこの人は志半ばで討たれる。
現代日本で起きた本能寺の変。しかしその謀反人は明智ではなく、家康…?
家康総理退陣。代わって総理に就任したのは、信長の意志を継ぐ者。
しかしこれぞ、仕組まれていた謀略。裏で糸を引いていた政治家と、底辺から天下統一へのし上がった野心。
その野心で、日本のみならず世界をも手中に…。何故か黒幕にしっくり来るこの人。
家康が言っていた“安寧の世”こそ軟弱で世迷い言なのか…?
日本を建て直し、強固な国にするには、強引な手腕とそれを執る独裁者が必要なのか…?
いや、違う。この国の未来は自分たちの手で。そうやって切り拓いてきた。
この国の行く方分け目の戦。現代日本決戦の陣が勃発…!
偉人たちの史実や活躍を現代日本に置き換えたような策を講じた戦はユニーク。
遂に企みが日本中に明かされ、スカッと痛快だが、秀吉と家康、各々の言い分にも一理ある。
秀吉の日本や国民への暴言は独善でもありつつ、的を射ていて耳が痛い。
家康も現代日本へ辛辣な意見も。目先の事だけしか見ず、何かに躍らされる。自分たちは何もしようとせず、他人頼り。無関心なくせに、文句や不満だけは一丁前。
歴史に名を残す偉人たちから見れば、今の世と人々は嘆かわしい事ばかり。
しかし、信じておる。
彼ら偉人たちが想像も付かなかった夢や国造りを実現させた。
まだまだ問題や難題は山積み。それらに勝ち討ち、果たす力を持っている。
おバカコメディと思って見たら、最後は些か説教臭く…。
それほどドストレートなメッセージ。実は意外と真面目な作品。
つわものどもが夢の跡…。ただの夢じゃない。
祭りごとが終わって、真の政(まつりごと)へ。安寧の世を目指して。
歴史や偉人たちの思いを引き継ぎ、私たちで造っていく。