「家族愛を実感させてくれる傑作」ディア・ファミリー アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
家族愛を実感させてくれる傑作
実話に基づく物語である。治療法のない心臓病の次女のために本気で人工心臓を作ろうとする町工場の社長の話で、その熱意と実行力には本当に感動させられた。何度も涙を誘われ、館内には嗚咽を漏らす人さえいた。人の命とは如何にかけがえのないもので、それを救おうとする親や家族の愛とは何と得難いものかと痛感させられた。
永久埋設型の人工心臓は未だに実現されていない。人工弁のような実現された技術であっても、人工物を心臓に入れると、血栓の発生が頻発して身体中の血管の閉塞などを引き起こしてしまうことが根本的な問題として存在するのと、まだまだ医学的に未踏の分野であり、確立した技術が少なく、手探りの治療となるためである。人体に埋設して 170 日生存した例があるが、不具合が出る度に開胸手術をして部品を交換する必要があり、その 170 日間は患者が絶望的な苦しみで過ごしただけだったらしい。
心臓の機能が不完全で、血中酸素と二酸化炭素の交換が十分にできないと、心臓以外の臓器にも大きなダメージが発生して、合併症などを引き起こして死に至る。この物語の場合、タイムリミットは 10 年との診断だった。そこからの父親の努力は凄まじいもので、当初は in vivo (生体内)と in vitro (実験条件下)の相違さえ知らなかった状態から医学書を読み漁り、高額な装置を私費で購入して独自の研究に没頭し、専門の医師が驚愕するレベルに達している。工学的な描写も丁寧で、困難な問題に正面から向き合って解決法を探り、一つずつクリアしていく様子は、工学の本質そのものである。
しかし、結局立ちはだかった超えられない障害は、あまりに膨大な費用を要する研究体制と、医学部の旧態然としたセクト主義や上意下達の体質である。実現できないなら初めから言うべきであり、いい人ぶって協力しながら何年も経ってから前言を翻すという態度には、他人事ながら本当に腹が立った。
次女役は子役と成人との二人が配役されていたが、その印象が非常に良く似ていたのに驚いた。白を基調とした衣服を身につけさせた演出は、彼女の清楚さと儚さを印象付けるためだったのではないかと思う。福本莉子という女優さんは初めて拝見したが、難しい役を見事に演じていた。「明るさは滅びの姿であろうか」という太宰治の「右大臣実朝」のフレーズが頭から離れなかった。
次女の全身状態が非常に悪化して、家族は絶望のどん底に落とされるが、そこからの父親の方針転換は素晴らしいものだった。次女の助言が後押しをしたという流れも涙を誘った。この父親役は、大泉洋以外に演じられる人を想像するのが難しいほどで、普段の明るさが、絶望に打ちひしがられた時の痛切さを倍加させていた。私事ながら私も娘が幼い時に瀕死の重病に罹ったことがあり、自分の無力さを呪ったことが思い出された。私の娘は幸い全快して現在に至っている。
家族の愛を実感させてくれる素晴らしい映画である。
(映像5+脚本5+役者5+音楽3+演出5)×4= 92 点。