「アドリブの面白さと矛盾」劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 アドリブの面白さと矛盾

2025年11月28日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

りんごと闇──鬼灯村伝説に潜む矛盾

ミステリーの核心は、余白にある。しかし、余白は矛盾を孕んではならない。『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』を観ながら、私はその原則を痛感した。

レイコは幽閉され、やがて死んだ。死因は語られないが、極度の飢えと孤独、そして寒さが想像される。死体は放置され、人間性のなさと一乗寺家の尊厳が天秤にかけられた闇。その闇に、四谷は抗おうとしたのだろう。彼は救いたかった。しかし託す相手は六歳の少年だった。悲劇はその瞬間に決定された。

二宮の目的は最初からレイコだった。シェフとして屋敷に入ったのも、そのためだ。だが、28年という歳月は長すぎる。彼がレイコの死を知らなければ、殺人の動機は成立しない。ここに矛盾がある。最後の洞窟で死体を見て絶望する二宮は、蘇生を信じていた。しかし、その設定は弱い。血を冷蔵庫に入れる演出も、工夫がなかった。二宮の心的変化は、余白では読み取れない。

象徴としての「りんご」は、唯一強い手がかりだった。新しいりんごが意味するもの。それは二宮が最近この場所にたどり着いた証だ。毒リンゴの暗示ではなく、幼いレイコが好きだった果物への手向け。そこに二宮の絶望と狂気が凝縮されている。だが、アドリブ構造がその必然性を曖昧にした。彼がすべき行動は、事実を知った瞬間に復讐を遂げることだったはずだ。

そして、四谷の日記を破ったのはタイゾウだろう。破り方には怒りがあった。彼は秘密を守るため、証拠を即座に処分した。四谷なら、死体を安置し、部屋を整えただろう。りんごだけを置く行為は、彼の性格に合わない。だからこそ、りんごは二宮の手によるものだ。

私はこう思う。中盤に一つの回想を挿入すべきだった。事故の直前、幼いレイコ、二宮、なおこが笑いながら果物を食べるシーン。レイコがりんごを頬張る姿を印象的に。その後、三人は虫取りに出かける。そして、誰かが虫の羽をちぎる。幸福の中に潜む無垢さと残酷さ。幸福の終わりの予兆。この一瞬があれば、洞窟のりんごは観客に詩的な痛みを呼び起こし、二宮の狂気を自然に理解させただろう。

余白は必要だ。しかし、余白は矛盾を生んではならない。矛盾を消すために必要なのは、一文だ。「二宮は、タイゾウの部屋で破り取られた日記を見つけ、レイコの死を悟った」その一文があれば、物語は成立した。余白は想像可能な真実となり、ミステリーは完成する。

R41
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