「暗闇は友達」オリオンと暗闇　近大さんの映画レビュー（感想・評価）

子供の頃は誰だって怖いものがある。ある調査によると、鬼、おばけ、虫、雷…。
オリオンは人一倍怖いものがいっぱい。
片想いの女の子と話す事。嫌われたらどうしよう…。授業中先生に指される事。噛んだらどうしよう…。殺人ピエロ。携帯の電波。ビルから落ちる事。蚊、ハチ、海、怪物。それから、クラスのいじめっこ…。
想像力豊かだから色々あれこれ考え過ぎてしまう。幾ら何でも考え過ぎ…と思いつつも、陰でクスクス笑われるとか、指されないように隠れて見えないふりをするとか、何か絶妙な所も突いてきて中には、ああ～分かるぅ～。
そんなオリオンが一番怖いもの。
暗闇。
いきなりオーソドックスだが、暗闇は誰だって怖い。大人だって怖い。
その夜もまたドアを開け明かりを点けて寝ようとしたら、突然真っ暗に。その暗闇の中からオリオンの前に現れたのは…
“暗闇”。
恐怖を克服させる為、夜がいかに素晴らしいか伝える為、“暗闇”はオリオンを一夜の冒険に連れ出す…。

“暗闇”が現れて、冒険をする…？
どういう事…？ ちょっと想像付かない。
“暗闇”という概念を具現化。フードを被った大男みたいな怖そうな風体だが、陽気な性格。
“暗闇”だけじゃない。夜、我々が過ごし感じるもの全て、“夜のものたち”の働き。
睡眠、眠れず、雑音、静寂、夢。
彼らが居て、ぐっすり眠れたり、なかなか寝付けなかったり、ヘンな物音を聞いたり、シーンと静かだったり、夢を見たり…。
それぞれキャラも個性的。中でも“静寂”はキュート。
ディズニー/ピクサーの『インサイド・ヘッド』『ソウルフル・ワールド』を彷彿させる“概念”のキャラ化とあるあるがユニーク。

“暗闇”の存在価値は…？
暗闇だってなくてはならない。
騒々しい昼間と違って、夜は静かで穏やか。
夜空。星を輝かせてくれる。
夜、輝くのは星だけじゃない。街の明かり。
花火が美しいのも夜だからこそ。
晴れ晴れとした昼間もいいが、夜もまた魅力的。夜の静けさ、暗いけど神秘的で幻想的。昼間以上にイマジネーションやロマンチックさを感じる。夜が好きって人も多い。
本作も夜のビジュアル、描写が本当に美しい。

そんな“暗闇”もコンプレックスはある。
やはり暗闇だから、怖がられる。嫌われる。人から嫌われるのが悩み。
ライバルの“光”。アイツと会うといつも引け目を感じる。この“光”も悪い奴じゃないんだけど、ちと自信家なのが鼻に付く絶妙なキャラ設定。
一緒に冒険して、“暗闇”を怖がらなくなったオリオン。が、受け入れただけで克服までとはいかず。
交流深めたのに、ある時オリオンの本音を聞いてしまう…。
弁解するオリオンだが、口下手故言い方間違えて、“夜のものたち”が夜辞～めた。
独りぼっちになってしまった“暗闇”。一人では夜の仕事は出来ない。
独りぼっちが嫌い。“暗闇”が抱える内心の恐怖。
何か覚悟を決めたように、“光”を浴びて消えてしまう…。
“暗闇”が消えて、夜が訪れなくなって、人々は困惑。
夜が恋しい。夜が必要。
オリオンは、“暗闇”に会いたい。
何とかして“暗闇”を助け出そうとするオリオンだが、どうやって…？

原作は子供に読み聞かせたいとしてオススメされている絵本。
良質のアニメーションを発表し続けるNetflixと、人気アニメを多く手掛けるドリームワークス・アニメーションがコラボ。
さらに、脚本がチャーリー・カウフマンというのがミソ。
以前にも『アノマリサ』というストップモーションアニメを手掛けたが、かなり好き嫌い分かれる作風…。しかし本作は、子供は勿論大人だって楽しめ、イマジネーションや凝ったストーリー展開にも唸らされる。
少年と異形の存在の王道的な交流と冒険ファンタジー…だけかと思いきや、実はこの物語は大人になったオリオンが娘に聞かせている作り話。子供の頃、自分が体験した不思議な不思議な出会いと冒険の物語として。
娘ヒュパティアは話の続きや結末が気になって仕方ない。
大人オリオンは“結末は分からない”。そこで、二人で物語を作っていく事に。娘ヒュパティアも想像力豊か。
消えた“暗闇”を助ける方法。“暗闇”は完全に消えた訳じゃない。子供オリオンの心の中にいる。眠って夢の中へ。“夜のものたち”の出番。
同行するバディが必要。名乗りを上げたのは、何とヒュパティア！
物語の中へ。オリオンと未来の娘、もしくはヒュパティアと子供の頃のパパの大冒険。
“暗闇”を救出する事に成功。ヒュパティアはどうやって帰る…？
そこへ現れた未来風の少年。彼は…。子供時代の親と会ったり、“家族”のピンチを助けに来たり、タイムマシンなんかも登場して、まるで『ドラえもん』。
ひょっとして『ドラえもん』からインスパイア受けたのかなと想像しつつ、カウフマンの大胆で楽しさいっぱいの想像力に脱帽。
ラストも素敵。ユニークな物語や作りでありつつ、ストレートに心温まる家族愛。親子三代。それが続けられたのも、ラストシーン、あの時話掛ける事が出来たから…と思わずにいられない。
想像力とは固定概念や何物にも縛られない自由さなのだ。

“暗闇”はいわゆるイマジナリーフレンドだろう。
だからと言ってただの想像の産物、作り話だけの存在じゃない。
“彼”のお陰で勇気を貰えた。受け入れ、乗り越え、克服する事も。
それでも怖いものはある。別に怖いものはあっていい。
怖いものがあって知るものもある。優しさ、温かさ、幸せ…。
“光”と“暗闇”のように。