クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件のレビュー・感想・評価
全71件中、61~71件目を表示
事件
この映画の中のワン・チーザン(リトルプレスリー)の出演シーンはすべて真に素晴らしいと思う。思うにエドワード・ヤンがもしアメリカを舞台にして青春映画を撮っていたらDRMの『アメリカン・スリープオーバー』のような、いやさらに青春映画の地平を広げたようなものを撮ったかもしれない。そう妄想すると何か別のもう一本の映画ができそうでかなり楽しい。 それから、これは重要なことなんだけど、このあとの「恋愛時代」「カップルズ」といった作品のほうを偏愛している自分的にはこの流れでこれらの映画の再評価がなされたら本当に嬉しい。 この映画を僕は学生時代に大学図書館の(確か)LDで初めて見た。伝説の大傑作と言われているのはもちろんすでに知っていたけど、この長尺の作品を大学図書館にあるその小さいブースで見終わったときにはしばらく呆然として身動きがとれず、思考停止状態になった。 この映画の上映の権利の行方が実はどこそこのなにやら如何わしいとある個人か団体かに流れてしまっていて、そこからにっちもさっちもどうにも動きそうにないのだという、まことしやかな噂は昔から有名な話だった。その後、どうやら権利問題は解決して公開にまでこぎつけれそうだという噂も幾度かあったように思う。そんな噂が途切れては聞こえ途切れては聞こえ二十数年が経ってしまった。そのあいだ、中古市場では値段が高騰しレンタルではすでにかなり消耗してしまっているVHSテープ(しかも二巻に別れてなおかつ短縮版!)を見ることでみんなこの空白をどうにか慰めていた。だから、一昨年末のまさかのクライテリオン版リリースが聞こえてきたときの「うわぁ、"クーリンチェ"がブルーレイで見れるようになるのか!」という多くの人の異様なまでの興奮は大げさなものでもなんでもない。僕にしたって、やはり他聞に漏れずこれまでに四度か五度はソフトを消費することで空白を埋めてきた。なぜならそんな僕らもまた別の角度ではみな慎重だったからだ。「公開はまたどうせ無理なんでしょう?」 "クーリンチェ"のスクリーンにおける不在は深い諦観を色濃く刻ませていたのだ。こうしたことを鑑みれば今回の公開がまさしく「事件」であることを理解してもらえると思う。 たったいま目の前にあるスクリーンのほうへ手を伸ばして触れでもしたら、その箇所からシャオスーたちが吸っている湿気に満ちて、でもやたらと冷たそうな空気が、あの長くてデカいめちゃかっこいいマグライトの光線と、大きく鋭い針糸がまるで無数に飛んでくるかのように暴れる夜の台風とか、リトルプレスリーの愛くるしい歌声とか、シャオミンの撃った銃弾とかシャオスーの浴びた返り血とか、何よりあの深く美しい噎せ返るような夜闇が全部一緒くたになって溢れ出してくるんじゃないか、そういった強迫観念にいまだ駆り立てられる。
子どもの世界
子どもたちの世界。イメージに癒着した子どもたち。まるでエルビスのように歌い、西部劇や、日本の時代劇のように殺す。まるで世界が鏡の中で完結しているかのように、抑圧から逃れられない。わたしは変わらない。社会が変わらないのと同じよ。
唯一無二
この映画に出会ったか出会えなかったか、観たか観ていないかで、人の人生は左右されるかも。好きな映画を聞かれたら、まず挙げる一本。 オープニングの校長室のカット、並木道から自転車が近寄ってくるシーンに始まり、エンディングの最後の最後まで、至福の時を過ごした。 監督の緻密でやさしい眼差しから生まれる演出は、不可視なものを瞬時に理解させる力を持つ。 見えないものを見ようとする懐中電灯、聞けないものを聞こうとするラジオ。 個々の人物を描きながら、その奥にある時代や社会まで浮き上がかせるなんて、ほとんど奇跡。監督の圧倒的な才能としか言いようがない。 印象的なシーンは無数にある。 たとえば、ブラスバンドの音や車の往来の音に声を消されないように、二人が大きな声で語らう演出があるが、二人の息苦しさと、同時に二人でいるとちょっと解放されるような感じが、私は好きだった。 ひとつ一つ日記に書き留めておこう。 傑作中の傑作!
少年と少女との恋愛観の乖離
2017/03/19、109シネマズ川崎で。 2016/09/14にもVHSで鑑賞しているのだが、なにせ暗い画面のシーンが多く、顔の表情や状況すらわからないほど 解像度が悪いので、なんだか話が大まかな筋くらいしか解らず、イマイチだった。 とはいえ、なんか気になって記憶に残る作品だったので、今回4Kデジタルリマスター版がリバイバル上映されると ナイスタイミングで情報が入ってきたのでチェックしてあったのだった。 やはりデジタルリマスター版は見やすく、暗い部屋のシーンでも顔の表情がわかり、どの役者かも区別がつかないと いうことは無かったw とはいえ、登場人物の名前と顔を一致させるのが大変で、セリフにその場にいない人の名前が出てきても 誰のことを言っているのかわからないことがあった。そういう意味でDVD・BLが出たら、何度も解らない所を見返し ながら観れるし2200円という特別料金もあって、そっちで観た方がいいかもしれない。 親からは成績や進学の期待を背負い、学校では今ならパワハラ扱いされそうな対応をされ、不良仲間のグループ同士の 抗争、そして少女との恋愛観の乖離。少年が恋愛のもつれから彼女を刺したという、マスコミにはセンセーショナルな 記事にしかされそうにない事件を、こんな様々な悩みとともに繊細に描いてあって、長丁場でしたが見応えありました。 少女の本邦で刹那的な恋愛観と少年のストイックな恋愛観。少年の一途な思いは少女にとっては自分を変えてしまおう としている迷惑なものでしか無かった。まだ人間として視野の狭い少年にはそれが受け入れられなかった。切ない。 また、少女の「この社会と同じで、私を変えようとしたって変わらないのよ」というセリフからも、たくさんの男から 言い寄られて幸せかと言えばそうではなく、むしろ安易に下心ありで言い寄ってくる男たちに絶望していたんだろうな。 そして警察署で少女の血の付いたシャツを警察官に着替えなさいと無理に脱がされそうになり必死に拒絶するシーンが 切なかった。衝動で殺してしまったシャオミンの名残をシャツに感じていたのだろうから。 追記 街で一目置かれているハニーという少年が、絵に描いたようなバンカラでちょっと失笑。 ワンマオ役の小さな男の子の歌声がアジアのマイケル・ジャクソンかというような高音の美声で驚いた。 シャオミン(小明)役の女の子は美少女と言われると?だが、何故か人目を惹く女の子ではある。
4時間はキツいぜ!
4時間近くある映画で、ちょっとなぁ〜と思いながら観に行きましたが、やはりキツいです。長すぎた。途中で疲れて寝てしまったので、内容がどうこうは言えませんが、とりあえず長いのと、あとこれは古い映画なので仕方ありませんが、画質があまり良くありません。 そして寝てたのでなぜそうなったのかは分かりませんが、ラストは衝撃でした。 僕から伝えられるとこは以上です。
心にひっかき傷を残されました。 映像が淡く美しい。 抑圧された時代...
心にひっかき傷を残されました。 映像が淡く美しい。 抑圧された時代を生きた多くの人々に物語があり、それらで紡がれた織物のような作品でした。 小明役の少女の存在感が圧倒的で、目がそちらに行ってしまいました。
リトル・プレスリーに萌える
E・ヤンや本作も知らなかったしアジア映画なんてホボ観る事も無く日本映画は特に最近の作品も観ないし況してや台湾映画なんて興味も無かったが"クーリンチェ"の存在を知りただ漠然と興味が湧いて。 興味心のみが"スコセッシ"に"永瀬正敏"のコメントもあり背中を押され劇場に足を運ばせる決意を固めて。 約四時間と長尺で聞き慣れない言語に暗そうな雰囲気に軽い気持ちで観れる感も無くかなりの気合いと覚悟でリスク多目だしこんな気持ちで映画を観に行くなんて初めてじゃないかなぁ!? 小明(シャオミン)の魔性の魅力に小悪魔的な存在感に目が行き少年たちが魅了されるのも納得で容姿が整ってる訳では無いが憧れの的になる説得力が大。 男を手玉に取っているようにも見受けられるが彼女には彼女なりの事情があり行動に考えに芯が通っている賢い大人な女性の雰囲気も。 主人公の小四(シャオスー)は地味で感情表現に乏しい印象があったが映画が進むにつれて感情の起伏の変化にその都度魅力的になって行く。 冷静な印象で状況に左右されず無感情で他の同級生からも浮いている感じで気持ちに乱れなしのイメージから一人の女性によって全てが崩壊して心が乱されるウブな少年像を物凄く刹那的に演じていて好感が持てる。 素人同然であろう少年少女の役者としての顔が良い!皆んな魅力的でそれぞれが気になるし演技や演出の前に躍動感が素晴らしい。 小四を助ける為に椅子を壊して武器にする作業が時間かかり過ぎで何度も仲裁に入ろうとする度に画面から弾き出される場面。 小学生みたいにあどけない顔をして周りと比べても小さい体の王茂(ワンマオ)の男気が男前過ぎて歌唱シーンも含めて萌えて癒された。 退屈なシーンは一切皆無で常に危ういギリギリな映像と演出に夜の場面と少年少女たちにハラハラ、ドキドキしてスクリーンから目が離せない。 時代の歴史や社会情勢も時代背景にあるが前面に出したり小難しくしたりせずに中心にあるのはそんな時代の若者たち、その時にしか存在しない何か。
25年振りの衝撃。
25年間前、大学の「映画論」という授業で勧められ観に行ったのだが、とても衝撃を受け、しばらく興行映画を観れなくなったということがあった。 その頃20代だった僕が40代になり、再びこの映画を劇場で観られるなんてそれだけで感激だったのだが、このリマスター版は4時間という長さにも関わらず、いや、むしろカットされていた部分が戻されることによって、素晴らしい作品となって蘇った。 公開前も今もほとんど空席はなく、予約必須の状況だが、映画史に残る名作をぜひこの機会に観ることをオススメしたい。
ずっとどこかに残り続ける映画
映画ドットコムでのレビューを始めて、私にとっての300本目であります! 記念すべき節目ということで何を見ようかと考え、この作品を選びました。エドワード・ヤン監督には『ヤンヤン』で完全に虜になっていた私でしたので、この作品を選ぶことに迷いはなかったです。 台湾のジリジリする焦燥を見事に描き出したこの作品は、観終わった後、確実に私の記憶の中に残り続ける作品だと感じました。登場人物たちの佇まい、歩き方、そして表情、そのどれもが強烈に私の頭の中に残っています。 こういう作品に時々触れないと、私のこころのどこかが、ひっそりと死んでいってしまうような気がするんです。そして吸い寄せられるように、これらの作品に向かっていってしまいます。その意味では、エドワード・ヤン監督は、私のこの志向性をしっかと受け止めてくれる監督なのです。 ※ひとつ残念だったのは、やはり今回の鑑賞がVHSであったこと。画質が悪かったのが残念でした。もしこれがデジタルリマスターされて鮮明な映像で観れたとしたら、より一層、その感動は高まったのだと思います。DVD化、よろしくお願いします!!
全71件中、61~71件目を表示